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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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※ 七月十一日(五)




「大殿の件に関してもそうです。これまでどれほど朝廷に尽くしてきたか……! それを端から無かったことのように〝賊徒〟と罵るなど……!」


 ……何だと?


「……それを口にされたのは、どなたか?」

「信西殿です」

「……ほぉ」


 胸の内に怒りの炎が上がる。と同時に、小助の怒りの原因はこれやもしれぬと思った。

 信西殿は、たしかに御上の筆頭近侍だ。此度の戦では、後白河方の指揮官のひとりとして名を連ねた。とはいえ、そこまでの発言が許される立場にあるのか?


「あれは、たいした御仁ですよ」


 言葉とは裏腹に、小助の声も表情も侮蔑にまみれていた。


「此度の件が大規模な戦に発展したのは、信西殿の企みによるものです。そもそも崇徳方が挙兵したのは、襲撃に備えてのことでした。信西殿は目的のためなら、いかなる身分をも一蹴する者ですから」

「お祖父様はそれを案じられて、崇徳方にお味方なさったのだったな」

「はい。それを臨時除目の場で、これ見よがしに槍玉に挙げたのです。『源氏の長たる者が何たる不始末! 鳥羽院(鳥羽法皇の追号)様に目をかけていただきながら賊徒へ堕落するなど、言語道断!』……と」

「……なるほど。そうして責任の所在をお祖父様へと移し、信西殿自身から目をそらさせたのか」

「そのとおりです」

「さらには先に罪を被せることで、後白河方へ貢献なさった父上を、権官に据える言い訳が立つと……」


 『権』は仮の官職だ。良く捉えれば、昇進させたいが空きがないゆえ権官を与えたい、という朝廷の配慮だ。だが悪く捉えれば、権官はいつでも解官させることができる。つまり此度の父上のご昇進は、万が一の際は次期長として即責任を取れと言ったも同然なのだ。


「そなたの申すとおり、『たいした御仁』よな……!」


 怒りに手が震える。

 ただ後白河方に属したというだけで、私利私欲のままに突き進もうとも(おおやけ)には処されぬ信西殿。

 敵方に属したというだけで、他人様のために尽くしてなお賊徒扱いを受けたお祖父様。

 これが『道理はどうあれ勝てば正義』とは……!

 握り締めた手に、爪が食い込んでいく。


『──潔く散るも……誉れとなる散り方によろう』


 以前発した、己の言が頭をよぎる。

 ……お祖父様の誉れ……

 ただひたすらに崇徳上皇陛下を慮っていらしたお祖父様のお心が……

 武士の志に忠実であろうとなさったお祖父様の誇りが……

 我が一族の威徳なるお祖父様が……

 すべてが理不尽極まりない所業によって穢されたのだ……!

 許すまじ、信西殿……!!


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月26日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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