↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/225

術符に込めた祈り(四)




 朝餉の後、「本日は写経のため会えぬ」と弟妹たちへの伝言を頼み、私室へ戻った。

 文机には小ぶりの硯。墨池には艷やかな墨。その隣には、私好みの筆置きに、熱田のお祖父様の筆が置かれていた。近江に感謝だな。

 この世界では、写経を行うにあたり精進潔斎が望ましいとされる。だが私の場合、朝餉の場に行かねば懸念されるだろう。皆に無為な心痛を与えたい訳ではないのだ。

 私は精進潔斎の代わりに祓詞(はらえことば)を唱え、室内に結界を張った。次いで斎服の代わりに白の輪袈裟(わげさ)を肩に掛け、今度は天津(あまつ)祝詞(のりと)を唱えた。

 普段ならば、塗籠(ぬりごめ)で行わぬことに疑問を抱く者もいるやもしれぬ。だが此度は、それどころではなかろう。

 ……写経は後で致す。その前に……

 文箱から術符を取り出し、机に向かった。

 呼吸を整え、筆を持つ。熱田のお祖父様の筆は、やはり手に馴染む。黒々とした墨とともに、難なく霊力を纏ってくれた穂先を術符へすべらせた。


 それから三分(ぶ)(九分)ほど後、身代わり札が完成した。夜明け前には、あれほど手間取ったというのに。

 ……これを、お祖父様の元へ……

 一瞬、小助を呼ぼうと思った。だが心を決められた源のお祖父様から、門前払いされる可能性もある。しばし考え、私自ら伺うことにした。

 名目は写経ゆえ室に入られることはなかろうが、念のため〝写経潔斎中〟と書いた紙を御簾の外に貼った。結界ほどの効力はなかろうが、声をかけられることはあるまい。

 ふたたび文机に向かった私は、ひとつ深く息をついた。意を決して文箱から形代紙を取り出し、またひとつ息をついた。

 実際に、この術を施すのは初めてだ。うまくいけばよいのだが……

 墨を含ませた筆を形代紙にすべらせる。術式を書き込み筆を置くと、形代紙を手に取った。

 心の臓が、どくり、どくりと音を立てる。それは少しの不安からか、考えぬようにしている罪悪感からか。

 いずれにせよ、もう後へは引けぬ。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、7月8日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。