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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
二章 保元元年(一一五六)六〜七月

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清和の流れを汲む者(二)




「かような時刻に申し訳ございません」

「構わぬ。何用か」


 用向きを問うと、主厨長が頭を上げた。


「殿の(めい)により参りました」

「父上の……」

「はい。『今宵はなかなか寝つけずにおるだろうゆえ、寝物語に聞かせてやれ』と」

「……左様か」


 昔から深く考えるようなことが起こると、夜遅くまで月を眺めたり、今宵のように灯明を見つめたりしていた。それらを父上から咎められたことはないが、案じてくださっていたのだろう。

 此度は私の心境をご存知でないとはいえ、父上のお心遣いをありがたく思う。


「まずは我らの名を申し上げます。私は泉親衡(ちかひら)と申します。祖は満快(みつよし)公でございます。これは傍流の小助と申します」


 主厨長──親衡殿の紹介に、十代半ばと見える小助は無言で頭を下げた。


「……そなたらも、清和の流れを汲む者だったか」


 私たちの始祖は、天安二年(八五八)に御即位あそばされた清和天皇陛下であらせられる。その御令孫が臣籍降下により源姓を賜り、源経基(つねもと)と名を改められた。

 経基公の御令息方は八名。その中で、我が家の祖は御嫡男の満仲(みつなか)公。親衡殿の祖は五男の満快公。

 書物庫の文献には──

 満快公の御曾孫(そうそん)為公(ためとも)公が信濃守(しなののかみ)(後の長野県の国司)に任命された後。源姓を持つ者を、伊奈氏、信濃村上氏、依田氏、片切氏、飯島氏などの祖とさせた。信濃に根を張り、各地に勢力を持つためと記されていた。

 泉氏は伊奈氏の一族と記憶する。そして世相により影の(わざ)を会得した、と……

 意外な繋がりに驚きはした。だが思い返せば下働きに至るまで、我が家に身元の怪しい者はおらぬ。

 私たちの口に入る物は、より信の置ける者に任せたい。そこで祖を同じくする影の者……毒草などが混入すれば、すぐにわかるだろう。

 父上の采配には、恐れ入る。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、6月22日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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