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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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迎える命(三)




 祓串(はらえぐし)が振られ、天津祝詞が始まった。


「──《高天原に神留ります 神魯岐(かむろぎ) 神魯美(かむろみ)(みこと)()ちて》──」


 お祖父様が上げられる祝詞は実に清廉だ。静謐(せいひつ)な響きを持った音が室内へと広がっていく。

 昔、祝詞を教えてくださった折、かように仰っていた。


『──祝詞は、神々へ祈りを捧げるための、ひとつの方法だ。(ことば)ひとつひとつの音に、神聖な(たま)が込められておる。その魂を穢す者に、祝詞を上げる資格はない。己の身を(きよ)め、己の魂を浄めよ。さすれば、祝詞(いのり)は高天原まで届くであろうぞ──』


 そのご指南どおり、お祖父様ご自身も、


「──《皇御祖神(すめみおやかむ) 伊邪那岐命(いざなぎのみこと) 筑紫の日向(ひむか)の橘の小門(おど)の阿波岐原に 身禊(みそぎ)祓い給ひし時に ⽣坐(あれませ)る祓戸の大神(たち)》──」


 小さな命と義母上を守るため、霊魂の限りを尽くし神々に呼びかけていらっしゃる。


「──《諸々の禍事(まがこと)・罪・穢れを祓い給ひ清め給えと(まを)す事の由を 天津神(あまつかみ)国津神(くにつかみ)八百万(やおよろず)の神等共に (あめ)斑駒(ふちこま)の耳振り立てて聞しめせと》──」


 そのお力をお貸しいただくことを、この言霊をもって──


「──《(かしこ)み恐みも白す》──」


 伏して願い奉る──


 ともかく無事であるように。新たに迎える命も、義母上も。

 ご自身の命の灯を燃やされる、お祖父様のためにも。

 不安げにお祖父様を見つめられる、神使の方のためにも。

 義母上は元より、皆が心穏やかになれるように。


 お祖父様とともに、私も心からの祝詞(いのり)を捧げよう。つたない霊力ではあるが、少しでも助けになることを願いつつ。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、6月8日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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