心を合わせて(一)
膝の上の今若丸が、大きな目で私をじっと見ていた。しっかりと目が覚めたらしい。
「今若丸。私とともに唱えるか?」
「とも?」
「うむ。私とともに『いたいのいたいのとんでいけ』を唱えるのだ。義母上は、もっと楽になられるやもしれぬ」
「やる!」
今若丸の〝気〟が満ちていくのが見える。性質と同様、まっすぐな〝気〟だ。
「参るぞ」
「ん!」
気合は充分だ。
「《いたいのいたいの、とんでいけ》」
「《たいの、たいの、とんでー!》」
私と今若丸の言霊が、義母上を包み込んだ。
「……あ……」
義母上が胸に手を当てられた。一瞬にして、室内に動揺が走る。
霊力を、もう少し減らしたほうが良かっただろうか。……いや、義母上の顔色は──
「姫様!」
周防が慌てて、義母上の背に手をあてた。
私は動じてはならぬ。私が動ずれば、皆の〝気〟がさらに揺らぐ。近江も私を信じてか、動く気配を見せぬ。
「はーぅえ?」
不安そうに呼びかける今若丸。私は膝に乗せたまま、
「案ずるな」
と静かに声をかけた。
「あーぅえ……」
今若丸は私を見つめ、小狩衣の胸元を握りしめてきた。私はそれに応え、
「案ずるな。そなたの『いたいのいたいのとんでいけ』は、必ず効く」
と断言し、小さな体を抱きしめた。
そうだ。かように幼い子が母を思い唱えたのだ。その言霊が効かぬはずがない。
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次回更新は、5月31日23:00頃を予定しております。
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