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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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心を合わせて(一)




 膝の上の今若丸が、大きな目で私をじっと見ていた。しっかりと目が覚めたらしい。


「今若丸。私とともに唱えるか?」

「とも?」

「うむ。私とともに『いたいのいたいのとんでいけ』を唱えるのだ。義母上は、もっと楽になられるやもしれぬ」

「やる!」


 今若丸の〝気〟が満ちていくのが見える。性質と同様、まっすぐな〝気〟だ。


「参るぞ」

「ん!」


 気合は充分だ。


「《いたいのいたいの、とんでいけ》」

「《たいの、たいの、とんでー!》」


 私と今若丸の言霊が、義母上を包み込んだ。


「……あ……」


 義母上が胸に手を当てられた。一瞬にして、室内に動揺が走る。

 霊力を、もう少し減らしたほうが良かっただろうか。……いや、義母上の顔色は──


「姫様!」


 周防が慌てて、義母上の背に手をあてた。

 私は動じてはならぬ。私が動ずれば、皆の〝気〟がさらに揺らぐ。近江も私を信じてか、動く気配を見せぬ。


「はーぅえ?」


 不安そうに呼びかける今若丸。私は膝に乗せたまま、


「案ずるな」


 と静かに声をかけた。


「あーぅえ……」


 今若丸は私を見つめ、小狩衣の胸元を握りしめてきた。私はそれに応え、


「案ずるな。そなたの『いたいのいたいのとんでいけ』は、必ず効く」


 と断言し、小さな体を抱きしめた。

 そうだ。かように幼い子が母を思い唱えたのだ。その言霊が効かぬはずがない。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月31日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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