桜草に託す
「……若様」
斜め後ろに控えている近江が小声で呼びかけてきた。私は浅い頷きを返し、
「義母上」
と静かに呼びかけた。
慎ましやかに温石に手をあてていらした義母上が、ハッとなさった。わずかに頬を染めるのが愛らしい。
「……温かいものですから……つい、嬉しく……」
「使っていただけるとありがたく存じます。用意させた甲斐がありますゆえ」
義母上に微笑みかけ、本題に入った。
「本日は、南庭の桜草をお届けに上がりました」
それを合図に、近江が膝行で周防に渡した。周防も両袖で受け取り、義母上からよく見えるよう袖の角度を変えた。
「……綺麗だこと……」
「庭師に『色の美しいものを』と、ねだってしまいました」
「……まぁ……」
義母上が、ほんのりとお笑いになる。
周防は肩の力が少し抜けたようだ。義母上の容態により、ずっと気を張り詰めているのだろう。
「……わたくしが、かようなものをいただいて、よろしいのでしょうか……」
遠慮がちに仰る義母上。その憂い、少しでも払ってさし上げたい。
「少しでも義母上の慰めになれば、との皆の総意にございます」
桜草に託した、皆の心。私のふるまいからも伝わるとよいが。
「……ありがとう……ございます……」
義母上は口元に袖をあてて涙ぐまれた。
今の私にできるのは義母上をいたわること。一日も早く快復されるように願うことだ。
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次回更新は、5月26日23:00頃を予定しております。
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