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ありあけの月 ──暁──  作者: 香居
一章 久寿三年(一一五五)四月~十二月

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桜草に託す




「……若様」


 斜め後ろに控えている近江が小声で呼びかけてきた。私は浅い頷きを返し、


「義母上」


 と静かに呼びかけた。

 慎ましやかに温石に手をあてていらした義母上が、ハッとなさった。わずかに頬を染めるのが愛らしい。


「……温かいものですから……つい、嬉しく……」

「使っていただけるとありがたく存じます。用意させた甲斐がありますゆえ」


 義母上に微笑みかけ、本題に入った。


「本日は、南庭の桜草をお届けに上がりました」


 それを合図に、近江が膝行で周防に渡した。周防も両袖で受け取り、義母上からよく見えるよう袖の角度を変えた。


「……綺麗だこと……」

「庭師に『色の美しいものを』と、ねだってしまいました」

「……まぁ……」


 義母上が、ほんのりとお笑いになる。

 周防は肩の力が少し抜けたようだ。義母上の容態により、ずっと気を張り詰めているのだろう。


「……わたくしが、かようなものをいただいて、よろしいのでしょうか……」


 遠慮がちに仰る義母上。その憂い、少しでも払ってさし上げたい。


「少しでも義母上の慰めになれば、との皆の総意にございます」


 桜草に託した、皆の心。私のふるまいからも伝わるとよいが。


「……ありがとう……ございます……」


 義母上は口元に袖をあてて涙ぐまれた。

 今の私にできるのは義母上をいたわること。一日も早く快復されるように願うことだ。


お読みいただきありがとうございます。

またブックマークや評価などにも感謝いたします。

次回更新は、5月26日23:00頃を予定しております。


誤字脱字がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです。

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