己の姿は見えぬ(四)
「さて、話を戻すか」
父上は満足なさったらしい。私は何が本題だったか忘れていた。
「あの〝闇〟は、姿かたちは元より、清らかな存在であるほど良いそうだ。『雄壮』や『艶麗』では、意にそぐわぬらしい」
……あぁ。『牙を持つ闇』の話だったな。
「ゆえに、異母兄上方はご無事だったと?」
「うむ。女房たちから光の君と称される、そなたのような者が最も危うい」
仰ることは理解できるが、私の取り柄といえば真面目なところぐらいだろう。つまらぬ童に食指が動くとは、到底思えぬ。
「得心できぬようであるな」
父上に続く、
「まるで千歳様のような……」
朝長異母兄上の苦笑。
千歳様とは、たしか……朝長異母兄上と親しくなさっている方、だったか? その方のようとは、いかような……?
私が疑問を発するよりも早く。
「ならば……いかにそなたが、あの〝闇〟の興味を引くか、皆でとくと語ってやろうぞ」
父上が妙な宣言をなさった。その言葉を合図としたかのように、母上方や異母兄上方もこちらを向かれた。
何やら意気込みを感じるのは……気のせいだろうか。
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次回更新は、9月16日23:00頃を予定しております。
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