第75話 宮廷の夜(4) お夜食できた
第四騎士団の部屋のドアが開けられ、盆を持ったシールラとライラが戻って来た。
「キュディアス様、エスペル様お待たせしましたあ!お夜食のお時間ですよぉ!」
「おー、サンキュー、シールラちゃん!美味そうな匂いだ」
「リゾットです、ライラさんと二人で作ったんですよお!ほらテーブル、地図とか片付けて下さい」
「ほいほい」
シールラはリゾットの入った木の皿をキュディアスに差し出した。
「見てください、この星型ニンジン!かわいいでしょー、シールラ切ったんですよぉ」
「カワイイねえ、さすがシールらちゃん!」
「はい、あーんしてください!」
シールラはスプーンでリゾットをすくって、腰をかがめたキュディアスの口に入れる。
「おいしいですかあ?」
「おいひい!シールラちゃん、絶対いい嫁になるわあ。どうだ俺んとこ来るか?」
「もお、本気にしちゃいますよっ!」
「本気にしちゃってよ~」
ヒゲとボインのチャラい会話を尻目に、ライラは椅子に座るエスペルに木皿を手渡す。毎日自宅アパートでやってることなのだが、城で、といういつもと違う状況にちょっとはにかみながら、
「はい、これ……」
エスペルも照れくさそうに受け取る。
「ああ、うん。ありがとな。昼に戦闘もしてんのに、悪いな」
「ううん、却って気が紛れた。楽しかったわ」
エスペルはスプーンでリゾットを口に運び、何気なく聞く。
「お、うめえ。シールラと仲良いんだな?」
「……友達、だから……」
友達、という単語を気恥ずかしそうに使ったライラを、エスペルは見上げた。
手で後ろ髪をきゅっとつかみながら目線をそらす、照れ隠しの仕草。エスペルの心に、なんとも言えない嬉しさがこみ上げた。
「そっか……。楽しそうでよかった」
その時、キュディアスのデスクの中から「キンキンキン」という、硝子を擦るような音が聞こえた。
「おっと通信鏡が鳴っている」
キュディアスは口を拭き拭き、デスクに駆け寄り、引き出しを開ける。
デスクの中の楕円形の鏡に、宰相のジールの顔が映し出されていた。
「ああ、宰相ですか。遅くまでお疲れ様です」
鏡の中のジールが答えた。
「それはお互い様ですよ。お聞きしますが、ライラさんはそちらにいますか?」
「ライラ?いますが」
「良かった。ライラさんに、私の部屋まで来るよう、お伝え願います。あ、ライラさん一人で、お願いします。エスペル君はお忙しいでしょうから」
「ライラのみ……?分かりました」
通信は切れ、鏡の中のジールが消える。
内容を聞いていたエスペルが、怪訝そうな顔で立ち上がった。
「宰相がライラに?なんの用でしょうか」
あえて一人、と要求してきたのが気になった。
「さあ、なんだろうなあ。ま、というわけで行ってくれ、ライラ」
ライラはちょっと不愉快そうに、
「宰相ってあの、女の人みたいな顔してる、感じ悪い上官よね」
キュディアスが吹き出した。
「そぉれ、絶対に宰相の前で言うなよ?あの人あれで意外に女顔気にしてるらしいからな。片眼鏡も実は度無しで、女顔隠しの為らしいぞ」
「や、やだキュディアス様それ本当ですかっ!?シールラ、お友達みんなに言いふらしたくてたまらない気持ちですううう!」
「うわあっ、やめてくれシールラちゃん!頼むここだけの話なっ」
「えー?残念ですう~。TiTIの見出し間違いなしのニュースバリューありますよお?」
「ティティ……ってあれか!メイドちゃん達が作ってる新聞か!ほんとそれだけはやめてくれえ」
「TiTI」というのは、トラエスト城のメイド有志が独自に作っている、週一発行の新聞の名前である。城内の下世話な噂話満載で大人気、らしい。
「ジール様お美しいからファンも多いけど、たまにムッチャ感じ悪いからアンチも同じくらいいて、結構注目度高いんですよお!残念ですが内緒にしておきますですう」
ライラは肩をすくめた。
「まあ、いいわ。行ってくる」
「おう、頼むわ」
キュディアスが手を振り、ライラは部屋を出て行った。
閉まるドアを見つめ、エスペルは不安そうに眉間にしわを寄せる。
「大丈夫でしょうか、ライラと宰相二人きりなんて」
キュディアスが顎鬚をなでつけた。
「んー、まあ平気だろう。ライラは確かにセラフィムだが、人を傷つけたりしない奴だ。お前が一番よく知って……」
「ライラ、宰相にひどいこと言われたりしないだろうか」
「……あ、そっち?そっち目線な感じか?」
シールラが手と手を絡めてうっとりと目をつぶった。
「もお、エスペル様心配性!過保護愛、素敵ですう~~~!」
T/IからのTiTI
2020年3月5日現在、ブクマ27件です。
27名様ありがとうございます!
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