第63話 イヴァルト詰問
カブリア王国の王城は、セラフィムたちに再利用されていた。
玉座の間は三大セラフィムのものとなっている。
かつてカブリア国王と王女が座していた、赤い天鵞絨の玉座は打ち捨てられ、代わりに三つの玉座が並んでいた。
白水晶に似た鉱物で出来た、背もたれが一対の羽の形をしている、独特のデザインの玉座である。
左の玉座に、制帽とエロティックなボンデージファッション姿をした緑の巻き毛の美女が座していた。ラファエルである。
右の玉座には、青いストレートロングの美少女セラフィムが座していた。名をガブリエルと言う。
真ん中の玉座は空席であった。
真ん中の玉座の主、赤髪のミカエルは、立ち上がって詰問をしていたためである。
いや詰問と言うよりは、単なる折檻であった。
ミカエルの前、後ろ手に縛られたイヴァルトが両膝をつき、こうべを垂れていた。既に火責めを受けた後であるらしく、全身の皮膚が腫れ上がり、さらに焼け爛れていた。
ミカエルは問う。
「いまどういう状況だか、もう一回言ってみろ」
イヴァルトが、老人のような声を絞り出した。
「て、天界……開闢の……第一段階……『神域の形成』が成され……、第二……段階……『神の再生』……に向けての……準備中です」
「セラフィムが人間を完全制圧するために絶対に必要なのが天界開闢と次元上昇!成功のためには一片の不安要素も許されねえ!」
「おっ……しゃる通りです……」
「それをなんだぁ?ライラを殺そうとしたら人間に寝返って逃げられた?しかもセラフィムとタイマン張れる人間が現れただぁ?さっさと言えよクソ野郎!」
ミカエルはイヴァルトの体に回し蹴りした。
「くあっ……」
ラファエルはうんざりしたように肩をすくめ、青髪の美少女ガブリエルは無表情で軽蔑したように眺めている。
「さらに、死霊傀儡の全貯蔵壊滅と!この責任どー取ってくれるんだ?あ?」
ミカエルは屈むと、イヴァルトのみぞおちにに拳をめり込ませる。
「ぶほっ……」
イヴァルトの口から血が噴き出す。ラファエルが呆れたように言った。
「もうそんくらいにしておきなよーう」
「うっせえ!処刑前にいたぶらなきゃ、気がおさまんねえ!」
「あ、処刑は決定なんだ」
「イヴァルトさんにミカエルさん、どっちもどっちですわねえ。ほんとクレイジーですこと」
青髪の美少女は、ほうとため息をついた。
白すぎるほど白い肌に、真っ赤な唇に、まつげびっしりの大きな目。まるで人形のようである。
三大セラフィムの一人、ガブリエル。
ガブリエルは濃い青のドレスを着ていた。黒レースをふんだんにあしらったリボンと詰襟の上衣に、パニエで裾野の大きく広がったスカートは三枚重ねのフリル。いわゆるゴシック・ロリータ。それは背の低い彼女によく似合っていた。
クレイジーと言われたミカエルは、ガブリエルに振り向く。きょとんとした顔で、
「あん?『くれいじい』ってどういう意味なんだあ?」
ガブリエルは表情一つ変えずに答えた。
「美男子って意味ですわ」
ミカエルは嬉しそうに後頭部に手をやった。
「おっ?そ、そうか!まあな!」
赤髪の拷問官が、子供のように照れた笑顔を見せる。
ラファエルが額を押さえた。
「あっほ……」
ガブリエルが問いかけた。
「で、その人間とライラの処遇はどうするんですの?」
「決まってんだろ!二人ともぶっ殺す!」
「ですわよね」
人形のような顔が薄く笑った。
これに対してラファエルが、
「でも、神域外にいるんだから、うちら手出しできないよ?イヴァルトはこっそり死霊傀儡を送り込んでたみたいだけど、全部返り討ちにあってる」
「ふんっ、じゃあもっとつえーの送り込むまで!」
「えー。傀儡作る材料がもうないじゃん」
「ある」
ミカエルはそう断言すると、イヴァルトの髪を掴んだ。
その崩壊した顔面に、己の顔を思い切り近づけ、
「イヴァルトてめーにも役立ってもらうからな……?」
イヴァルトは虚ろな目で答える。
「う……は、はい……」
クっと笑うと、ミカエルは持ち上げたイヴァルトの頭を思い切り床に落とした。
イヴァルトは後頭部と背中を、強か床に打ちつけ苦悶する。
「よおっし、今度は仰向けで寝てろ」
言いながら、どこかから長い杭を取り出してきた。
鋭い先端を持つどす黒い杭を、右手に持って左手の平にパンパンと叩きつけながら、
「さあて次は杭責めだ。グッサグッサ、行くぜえー?」
その目は爛々と、責めの悦楽に輝いていた。
その足元では、円筒状の入れ物の中、何本もの杭が不気味にその姿を覗かせていた。




