追憶8
「…簡易起動では発生しない全身の痙攣…伝達の不備ではなく、恐らくは反発。強制終了は演算機の過負荷…と、すると…」
俯いて呟いた後、顔を上げる。
「すみません先輩。暫くは指示に従ってもらえますか」
「了解だ」
そうして様々試して、結論が出たらしい。
「成程…」
「何か分かったのか?」
「体質なのでしょう。先輩の魔力が人並み外れて細かくて、早いのです」
「…どういう事だ」
「一般的な方が、一呼吸の間に100の魔力を放出しているとすると、先輩の場合その百分の一の時間で1の魔力放出を行っている、という事なのですが」
「それは何が違うんだ」
いきなり深呼吸をはじめる。何かと思っていると。
「時間単位での総量だけでみると変わらないと思えるかもしれません。しかしとても重要な違いです。まず戦闘起動の強制終了ですが、演算機が一呼吸の間に100の魔力を扱う前提で処理を行うのですが、先輩の場合100の器に1の魔力が入った時点で処理を開始してしまいます。しかも、それを一呼吸の間に100回行わせようとしてしまうのです。更に魔力の細かさが浸透率を高くしているのか、魔力の伝達が他人よりも早いのです。結果として通常の200倍以上の処理を要求してしまう為、演算機の過負荷で強制終了してしまうと考えられます。仮想訓練機だと起こらないのはある意味当然です。元々演算に特化しているのですから」
まくし立てる様に語られる。研究者気質の者にありがちな特性ではあるが、人間誰しも好きな事は大なり小なり語りたいものだと思うので気になる程でもない。
「痙攣については?」
深呼吸、そして返答。
「はい。全身の痙攣は先程の続きとなりますが、100の器に1の魔力という部分が問題になります。魔力は抽出された瞬間から徐々に拡散していきます。魔術回路を構成する魔力線は拡散を極力抑えて効率良く伝導を行いますが、完全ではありません。僅かながら摩擦や反発で目減りしているのです。そして、魔力線の終端には素体が繋がっています。この接合点が一番抵抗が大きく、魔力が乱れてしまうのです。100の魔力であればその抵抗も誤差と呼べる程度ですが、1の魔力では目減りが激しい為、乱れた魔力が大きく影響してしまいます。結果として痙攣してしまうと考えられます。これも、仮想訓練機では起こるはずが無い。実機と違って仮想のまま流れていくのですから、抵抗があるはずがないのです」
俺の理解が追い付くかどうかは別として。まぁ、何とかは分かるが。
「対策は思いついたか?」
もう一度深呼吸。どうも自分で長くなりそうだと思った時のくせらしい。
「直ぐに実行可能な方法は応急的な対処の域を出ないでしょう。演算機の処理に時間指定を掛けて100の器に100の魔力が蓄積されるまで待たせる、という方法が考えられますが、これは簡易起動の駆動方法の応用なので、出力に幅を持たせられない事と、反応速度が鈍くなるという点が致命的なのでお薦めは出来ません。受け入れる器を小さくして1の魔力に1の器にしても負荷も抵抗も変わりません。やはり演算機を出来るだけ大型で性能が良いものにしつつ、抵抗が少ない素材を探して、魔力線にも手を加えなければならないでしょう。やりがいがあります」
半端に残った息を吐いて、大きく吸った後、語るべきところは終わったとばかりに黙る。しかしその沈黙にはどこか気まずさがただよっていた。
「しかし…体質ときたか。どうやら俺は余程面倒な生まれなのかもな」
「今のところ不利にしか働いていない様なのでそう思われるかも知れません。しかし活かす事が出来ればそれは先輩だけの強さに成り得ると思われます。魔力の伝達が早いという事は、反応速度も動作速度も速いという事ですから」
「解決策はあるんだな?」
「はい。演算機に流れ込む魔力の形を先輩の魔力に最適化させた上で、魔力反発しないか極少ない素材を探します」
「成程、直ぐに実行可能とは言えないな…順位戦は後2回しか機会がないが、間に合うか?」
「今月は無理ですが、来月の順位戦には必ず」
今年最初の順位戦は10日後だ。一から機体を作り上げるのは無理だろう事は予測出来る。
「了解した。最後の足掻きだ。よろしく頼む」
そうして3日後まで、様々な素材に魔力を通す実験を繰り返す事になった。
感想ありがとうございます