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模型兵装  作者: 存在 竹刀
高等部入学
44/47

順位戦 決勝戦後3

 水が急速冷凍された時に発せられる小さな罅が入る音が断続的に聞こえてくる。

 そして、俺と主任教師を囲んで渦を巻いていた黒い液状物体の動きが鈍くなっていき、やがて止まった。

 続いて乾いた破裂音。

 そこから間を置かず俺達と黒い液状物体の間の空間に一体の模型兵装が降り立つ。

 まるで空から降ってきたかのような軌道に見えたが今こだわるのはそこではない。


 全体的に透明感のある白。

 完全人型よりも更に洗練された人型とでも言えばいいのか。

 手首足首や腰などの関節部が細く、いっそ女性的な印象を受ける程だ。

 だがそれは脆弱さではなくしなやかな強靭さを示しているように見える。

 おそらくは全身の均衡が取れているからなのだろう。

 先程まで見ていたマートゥ・ルオワーヌも確かに素晴らしい機体だったが、この機体と比べると『現代なりに』と言わざるを得ない。

 それくらい、つまり一目で古代機だと理解させられる程に別格だった。

 

 その機体は今、全身から白い冷気を発していて、マートゥ・ルオワーヌの空間干渉能力使用時のように少し周囲の空気を揺らめかせている。


「これは…まさか、古代機か。何者だ…?そして、凍っている…凍らせたのか。それも力場ごと、だと…?」


 黒いのの動きが止まったのを見てとりあえず背中合わせを止めた主任教師が隣で何やら呟いている。


『そちらの勇気ある教師よ。このあらゆる物体を溶かす薄汚い存在を生み出した元凶である生徒をも救おうとする志は立派だが、あの中にあっては既に溶けているとは思わないのか』

「何者か知らんが敵でないなら答えよう」

『そなたがこの黒いのの敵であるなら敵ではない。わたしはあくまでこれの敵だ』

「ならば答えよう。まだ溶けてはいない可能性はあると考えている」

『なぜ』

「既に手遅れであったならば、そこで」


 今なお大きくなり続けている…白い機体が登場して周囲を凍らせはじめてからはその速度は鈍化したが…黒光りする機体、いやもはや模型兵装から見ても巨人と呼んだ方が相応しくなりつつあるそれを指差す。


「人の形を取り続けている理由がないと思ったからだ。そして、この黒い物体はあまりに不自然だ。だから現出し続けるのに必要な媒体として、溶かされていないと仮説を立てた。そうであって欲しいという願望だと言われればそれまでだが。さて、質問に答えたのだから今度は私の質問に答えてくれないか?」

『ふふふ…やはりそなたは面白いな。良いだろう。一つ質問に答えようではないか。これの事か、それともわたしのことか』

「確かに、研究者として魔術師としてその辺りは非常に気になるところだが…今の教師としての私の質問は、生徒を助けるための助力を貴公に頼むにあたってどのように願えば良いのか、だな」

『はっははは!もはや実質、質問ではないな。だが正解だ、素晴らしき教育者よ。力を貸そうではないか』

「貴公が、私がそう言うと期待している様子だったのでな」


 会話がなされている間も黒い液状物体が凍る範囲は広がっていたが、それにより思う通りに動けない巨人が苛立ったよう吠えて暴れだした。


 術理も何もない、子供の駄々のような動き。

 しかしその巨大さはそれだけで脅威だ。

 全長は模型兵装の4倍くらい。ちょうど人と模型兵装程の差か。

 俺達が居る場所に向けて拳が振り下ろされる。俺、主任教師、白い機体が三方に散ってかわす。


『教師よ、そなたの考えを聞かせよ。わたしにどうして欲しい』

「周囲の液体もだが、巨人の動きを凍らせて動きを止めてもらう事は可能だろうか?」

『目標が胸部だとすると足首まで、だな。それ以上は目標が冷気に耐えられない可能性がある。目標が万全であれば一旦全て冷凍保存という荒業も出来るのだが』

「ケイルム・ノーマラル。その武器を貸してくれないか。推察するに直接刃で切る訳では無いのだろう?であるならば溶かされる前に切り離せるかもしれん」

「貸すのは構いませんが先生の属性は?」

「火だが、それがどうした」

「これ、水以外には使えた物ではないですから」


 当然の事ではあるが、赤色が示す火の魔力のまま、水顕現の術式を通しても水は出てこない。

 なので万人向けの品の場合は最初に属性変換の術式を加えるのだが、水刃剣は青色が示す水の魔力の者以外の使用は一切考慮されていない。

 属性変換だけでなく、魔力消費量的な意味でも。


「む、そうか…」

「別に、武器だけ貸すなんてけちな事は言いませんが」

「一人の生徒を助けるために、他の生徒を一人危険に晒す事など出来ん。上手く進めば良いが、駄目だったら被害が倍になるのだぞ」

『当人が良いと言っているのだ。構わんではないか』


 少しばかり険が篭った声で白い機体が俺の言動を後押しする。

 理由は分からないがこの白い機体、先程から妙に俺に敵意を向けてきている気がする。

 もちろん、心当たりはない。古代機乗りの知合いなど居るはずもない。当然怒らせる機会があったとも思えない。

 あるいは、記憶がない時期に何かあったか。しかしその頃は6歳前後か、それ以下だ。


 仮にその頃怒らせたとして、10年以上昔の幼児のした事を未だ根にもっているというのも少しどうかと思う、というか、もしそうなら正直怖い。

 単に相性が悪くて一目見た時から気に入らない、という可能性だってあるだろう。

 俺からしたらその方が普通に気が楽だ。

 互いに関わらなければそれだけで済む。

 普通に良識を持った者なら、気に入らない者にわざわざ関わりを持とうとはしないはずだからだ。

 

 古代機を敵に回したら普通に俺が死ぬ。

 あの機体相手だとしたら、何が起こったか理解する前に凍らされて終わりだろう。

 だから下手に刺激しないように、言葉の刺くらいは無視する。


 そしてカーム・アーセイルにも同じ事が言えるのではないかと思うのだ。

 つまり、真に嫌なものなら関り合いを避ける、もし許されるなら問答無用で排除しに掛かるのではないかと。


「貴族の家というのはもしかして、子供の教育環境的にはよろしくないのでは?」

「突然何の話だ。その家によると思うが」

「カーム・アーセイルにしろワーム・コウにしろ、家庭での教育環境に問題がありそうでしたので、つい」


 カーム・アーセイルと関わりを持って、妙に半端だと思ったのが最初に違和感を感じたきっかけだった。

 当人の性格及びやる事は当人に突き付けた通りにまるで子供なのだが、姿を表さない時に起きる事態は結構深刻で、教師を買収しての不法侵入であったり、こちらの陣営には物を売らないよう圧力をかけたり、何と言うか遠回しなのだ。

 そして決定的な証拠がない。


 なぜそんな差がでるか。

 考えられるのは、手下が好き勝手やったあげく主人の思し召しだと吹聴した場合。

 周囲の言う事など聞こうとしないカーム・アーセイルの下だとさぞかしやりやすかっただろう。

 そしてそれは後始末に追われるワーム・コウではない。

 つまり、クィーツ・ネイが好き放題していると思われる。

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