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模型兵装  作者: 存在 竹刀
高等部入学
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閑話1 愚者の末路2

「なあ、学園なんかに雇われるより俺達に付いて来ないか?こっちには気前の良い貴族が居るんだ。あんた程の装手と機体なら高く買ってくれる事間違いなしだぜ!」


 とりあえずこの場を生き延びるための出任せを言う。

 本当に来られたら俺に約束されていた立場はこの相手に持っていかれるだろう。

 かといってこの地に残るという選択肢はもうここまでしてしまった俺にはない。


 そうだ、こいつを味方に引き込んだ上で伯爵領までの旅路の間、飯時にでも隙を見てばっさりやってしまえばこの古代機は俺の物になる。

 流石に英雄級だろうが、万が一伝説級だったりしたら俺も国の頂点、国王だ。

 いやこの際そんな贅沢は言うまい。

 英雄級でも引く手は数多、叙爵は間違いない。

 気に入らなければ他国へ行けば良い。厚待遇で迎え入れてくれるだろう。

 そうと決まれば説得にも力が入る。


「俺に任せておけばあんただって栄耀栄華間違いなしだ。なんだったら俺とあんた、二人でこれから向かう伯爵領を牛耳ったっていい。気に入らなければ、好き放題荒らしてからシーイナかルオーシュアに行くって手も」

『黙れ』


 相手の頭部から発せられたのは、凛と響く、女性の声だった。


「ある…って、え?」

『仮に、貴様が言う行動を取るとしよう。そのどこに、貴様が居る必要がある?』

「必要って…そりゃ…」

『耳が腐る、という慣用句をここまで実感させられたのは初めてだ。貴様の戯れ言は聞くに耐えん』


 俺はその時になって、向けられている殺気が収まるどころか強まっている事にようやく気付いた。

 再び、奴の腕が上がり俺を指差す。

 この時、俺の生存本能が最大限働いた。

 半ば無意識に、だが奴より一瞬早く荷物を抱えたままの残った腕で操縦席を庇う。

 その瞬間、奴は明らかに躊躇った。

 俺はまだ運命に見捨てられてはいない。

 命綱を握っていたのだ。


「そうか。学園に雇われたなら、生徒は見捨てられないよなぁ」


 しかし過信は出来ない。

 俺だったらこういう時は見捨ててもろとも始末して、追い付いた時既に手遅れでしたと報告する。

 奴が同じように考えたら俺は死ぬ。

 下手に欲張った要求をして、怒らせてはならない。

 古代機は喉から手が出る程欲しいが命あっての事。

 普通に考えて、古代機と人質一人の交換など出来ない。

 だから、一番安全で成功率が高いと思う手段をとる。


「いいか、少しでも動くそぶりをみせたらこいつの命はない。なぁに、心配するな。俺の安全が確保出来たら解放してやるからよ」


 そして少しずつ後退する。

 奴は動かない。

 充分な距離を稼いだら、一気に背を向け走る。

 振り返る間も惜しんで走ったのなんぞずいぶん久しぶりだ。

 隠れるのに選んだ学園裏山の麓の森は森中踏破の訓練が出来るように広く、視界も

悪くなっている。


 戦闘起動を切りながら駐騎姿勢を取る。

 ここで一日隠れて過ごせば、流石に奴と鉢合わせる事もあるまい。

 受け渡しの時間も過ぎてしまったが、一日遅れ程度は問題にならんだろう。

 空が白くなってきている。


 完全に停止させて、固定を外す。

 模型兵装の背中側が開くようになっているので体に力を込めて伸び上がる。

 外の、夜明け前の冷たい空気が心地よい。

 しかし少しすると肌寒くなってくる。

 操縦席の空きに詰め込んである毛布を取り出し、被る。

 模型兵装の腕に掴まれたままのお届け者には少し悪いが、そのまま我慢してもらう。

 大きな布で包んであるから大丈夫だろう、多分。

 疲れて、眠くなってきているんだ。

 そんな事に気を回す余裕なんてない。

 そうして模型兵装の股下で毛布にくるまって眠りに落ちた。


 …そして、息苦しさで眼を覚ました。

 だが、目蓋が開かない。

 眼を擦ろうと腕を動かしたが、触覚の反応がない。

 動かせていないのか。

 無理な姿勢で寝るとそういう事もあるが、何か違う気がする。


 段々、苦しさが増していく。

 口が開かない。まるで張り付いてしまったように。

 鼻で必死に空気を取り込んでいるが、それも徐々に間に合わなくなってきている。

 鼻の穴を少しずつ塞がれているかのようだ。

 全身は未だ動く気配を見せない。

 出来るなら絶叫を上げていた。


 眼は開かない。何も見えない。

 全身、動かない。何かに触れている感触もない。

 鼻の穴も完全に塞がれたのか、匂いを嗅ぐ事も出来ない。

 口も舌も、顎も動かないから味覚の確認も出来ない。

 耳は、先程から一つの断続的な音を捉えている。

 

 それは、水を急速冷却して氷を作る時に聴こえてくる音とよく似ていた。


 それ以外にも、話し合う二人の声が聞こえるがくぐもっていて聞き取りづらい。

 そして、何かが足りない、そんな気がする。


「では、警備員は…」

『すぐに…てあるので、命は…』

「少なくとも…に関しては記憶を…全て、無かった事に…あなたにも負担をかけ…」

『お気に…私は貴女の…』


 更に、耳鳴りが大きくなっていって、ますます聞き取り難く…それと共に、思考に霧がかかったみたいに、はっきりしなくなって…


 あぁ、そうか。産まれた時からずっと聞いていた、心音が、目覚めてから、聴こえて、なかったのか…


 そう考えたところで、俺という存在は停止した。

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