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模型兵装  作者: 存在 竹刀
高等部入学
27/47

順位戦本戦2回戦目試合後1

「やれやれ、負けちゃったねぇ。カーム様のお叱りでは済まないかな。困ったねぇ」


 全く困った様には聞こえない言葉。


「なぜ、カーム・アーセイルに従ってるんだ」

「父にそう望まれたからだよ」

「つまり、やりたくて従者をやってる訳ではない、と」

「君だったらやりたいと思うかい?好き勝手に生きてる主人の後始末で毎日終わる生活を」

「確かにそんな生活は勘弁願いたいが、改善する努力はしなかったのか」

「従者がそんな差し出がましい事、出来るはずないじゃないか」

「主人に進言するとか」

「従者の言葉なんかに耳を傾けてくれる主人でもないしねぇ」

「なら力尽くでもいいから矯正してやれ」

「従者とは従う者、主人の意に沿わなきゃいけないんじゃないのかい?」

「従者の仕事には、主人が間違えた時に正す事も含まれると俺はかつて習ったが、お前は従者を勤めるにあたってそういった心構えは習わなかったのか」


 ちなみにこれは孤児院で世話になっている頃に教わった事だ。

 王家から派遣されて来た、元孤児で現王族の付き人だという出世街道の真中を歩いている男だったか。

 俺は婆さんの教育の賜物で、それが一概に良い事だとは思ってはいないのだが。


 以前少し話題にしたが、孤児院は王族が管理している。

 国内に居る人数を正確に把握する国策の一環だそうだが、それだけではない。

 密偵の任を帯びた子供を早期発見する為でもあるし、欲しい人材を他の誰よりも早く取り込む為でもある。


 親という余計な知恵を吹き込む者がいない、国にとって都合の良い存在が孤児であり、それが集まる孤児院を王族が押さえ、将来を担う若者に『適切』な教育を施す事が出来る現環境を作り上げたのは見事だった、と幼い俺にこっそり教えてくれたのは院長の婆さんだった。

 これだけ聞くと婆さんが反社会的な思想を持っていそうに聞こえるだろうが、そんな事はない。ただ、理想と現実の差違に苦しんでいるのだ。


 どんなに美しく言葉を飾ろうと、国が孤児に求めるのは、使い勝手の良い捨て駒としての立場であり、自分が育てた子供達を、出来れば国に使い潰されたくない、と。

 くだんの青年が重宝されているのも、一番の役目は毒味であるそうだ。


 もちろん、衣食住に加え勉学の機会まで与えてくれる国に感謝し、心酔する者も居る。教育通りに。というかその方が圧倒的に多数だろう。


 その体制に疑問を持ち、かつそれを隠しておけるだけの知性を示した子供への、いわば特別授業だったのだろう。

 示される道は一本だが、本当はもっと自由なのだと。

 だが、全員にそれを示してやれない、と肩を落とす婆さんの姿がやけに小さく見えたのが印象的ではあったが、それはともかく。


 ワーム・コウからは、予想通りの言葉が返って来た。


「ただ入学の際に、伯爵のご子息の従者になれ、と言われただけだったよ」

「更に言わせてもらうと、その嫌々やってる態度、隠してないだろう」

「まあ、そうだね」

「それも原因の一端だろうな…」

「それはどういう意味だい?」


 決着から試合終了の合図までの間に会話出来たのはここまでだった。


「いちいち人に聞かないで、少しは自分で考えたらどうだ…そういえばお前さん、弟とかいるか?」


 俺はそれだけ言って試合場を後にした。

 そしてサヤの工房に入る。少しふらふらしているサヤが出迎えてくれた。


「お疲れ様でした」

「あぁ、ありがとう。色々聞きたいところではあるが…眠そうだな。ならこれだけ。ここはもう安全なのだな?」

「はい。ルオグ・ディナス先生は免職。念のため鍵の取り替えも行いました」


 新品となった鍵を勢いよく俺に突き付けながら言う。やや仰け反りながらそれを受け取る。


「それを俺に渡してどうする」

「二本渡されたので。機体が必要で私が席を外していたら先輩が困るではないですか」

「君の危機感はどうなっているのか。一度不法侵入されているというのに」

「では、次に荒らされていたら先輩が犯人ですね」

「荒らされるだけで済むとは限らないと言っている。襲われてからでは遅いのだぞ」

「そう忠告して下さる方に襲われた事はありません。それに、先輩がそんな事しないのは知ってますから」


 やや舌が回っておらず、普段の理路整然さが無い事から、寝不足が一周回って機嫌が良くなっているのだと判断して話を進める事にする。


「カーム・アーセイルとの関わりは」

「伯爵領の騎士団の役職付きに推薦という話だったようです。アーセイル先輩は関わりを否定。有力な証拠も見つからないため、処分は無いとの事です」

「かたや馘、かたや無罪放免…ずいぶん差がでたな。これも貴族だからか?」

「ジーク・イヤッツ先生によると生徒は子供、教師は大人。生徒を導く規範となるべき立場の教師なればこそ、子供に間違った姿を見せた罪は重い、だそうです」

「逆恨みで不法侵入とかの対策は」

「しばらくは警備員さんが巡回の回数を増やす上、こちらを経路に含んでくれるそうです」

「学園としてはそれでも動いた方か…」

「教師の不祥事ですからね」

「そうか」


 ここまでにしておくか。

 新兵器の事とかも聞いておきたくはあったが。

 今回の破損は左足の装甲だけだし、すぐに終わらせて眠る時間を充分に取ってもらいたい。切に。

 また倒れられたら罪悪感で潰れてしまう。

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