順位戦本戦2回戦目1
本戦二回戦の日。相手はワーム・コウ。
石材製だが見るからに厚い。防御型、両腕に取り回しの良い短包の外部兵装。近接から中距離で闘う型と見た。
対する俺は、朝、始末が付いたから仮設を引き上げて来たという工房でサヤから渡された新兵器を右手に握り、今まで使っていた剣を左手に握っている。
新兵器の見た目がほぼ剣なので、見た目は双剣流のようだ。
ただ、左手の剣は右手の新兵器に不具合があった時の備えに過ぎない。
寝不足なのだろう眠そうな声で、右手の人差し指を自分の右頬に添えながら説明したサヤ曰く。
「斬りかかる時に魔力を出来るだけ大量に込めて下さい。その際、ご自分はあまり刀身部分に近付き過ぎない様、注意です」
という使い方しか聞けていないのが不安ではあるが、今の俺に使えない代物を渡しては来ないだろう。
刀身部分に近付くな、と言うと例えば鍔迫り合いの最中とかか。こちらの機体の重量を考えるとありえない想定だが。
試合が始まる前、向き合って互いに礼をするのだが、その時にワーム・コウが俺にだけ届く音量で話かけて来た。
「カーム様が、色々すまない」
謝られたのに驚いて同じ程度の音量で返す。
「尻拭いして回っているという噂は本当だったんだな。俺みたいな平民のしかも孤児にまで几帳面な事だ。あんたもお貴族様なんだろう?」
「貴族といっても木っ端も木っ端、少し羽振りの良い商人の方がよほど裕福な生活をしてるだろうよ。だから僕自身は貴族だからどうこう言うつもりはないんだ。だけどごめん。僕はカーム様に従わなくてはならない。あの方は君をとても評価していてね。僕に本気を出せって。その上、僕を確実に勝たせる為に…」
ワーム・コウがそこまで言った時、試合開始の鐘が鳴り響き、続きは聞こえなかった。
頻繁に本戦に出てくるとはいえ、4強に入る程ではない、というのがワーム・コウの評価だろう。
だが、カーム・アーセイルに従わなければならないなら、例えば『俺様の従者が俺様より良い成績を取ろうだなんて生意気な事考えてないだろうな、あぁん?』とでも言われれば、いやあくまでそれっぽい想像というだけだが、その位に落ち着くのではないだろうか。
しかしそんな絶妙な下を狙わなくても本戦に出ない程度の成績にすれば良いのでは、と考えたところで、俺の想像上のカーム・アーセイルが『俺様の従者ともあろう者が本戦にも出られないなんて無様な真似はしないよな、あぁん?』と無茶苦茶を言い出して、妙に納得してしまった。
とにかく、そんな隠れた実力者がカーム・アーセイルの命令に従って俺には全力でかかって来てくれるらしい。カイル・ライロウと同等まで評価を引き上げる。
俺の試合を研究しているなら、接近される事は好まないだろう。だがカイル・ライロウと同等以上の速度が出せるとは思えない。
どの道俺は斬りかからなければ勝機もないのだ。定番だが、機体を左右に振りながら走り出す。やや遅れてこちらに向けてワーム・コウの機体が駆け出す。流石にこちら程には速くない。
違和感。だがその正体に気付く前にもうすぐ剣の間合いに入る。予測が外れたから?違う気がする。
あちらが両手に構えた短包から光があふれる。双方ともこちらの機体より外側を向いている。
背筋を強烈な悪寒が駆け抜けていく。立ち止まって後ろに跳びすさ…駄目だ間に合わない。ならば活路は前、右斜め前。その方向へと身を投げ出す。
視界を覆う炎。左脚部に少しの衝撃。態勢を崩しそうになるが何とか受け身の形に持ち込み、一回転して即座に立ち上がる。
前回の追跡型に続いて、散弾型とはまた珍しい。
散弾型は、扇状の範囲に攻撃する術式だがこれも学園ではあまり見ない。
術式が複雑になる、弾の総量が変わらないから分散させた分だけ威力が下がる、とあまり避けられる事のない学園ならではの低評価だが、下手に至近距離で発動すると自分も巻き込んでしまう爆破型をきらって散弾型を好む者も居る。
散弾型の拡散範囲は円の四分の一程、両手に散弾型を持てば前から横まで攻撃範囲に出来る。
良い手だ。威力の低下は相手が俺とこの機体であれば問題にならない。こちらの防御力などほぼ無いに等しいのだから。
損壊具合を確認する。左足部分の外部装甲のようだ。本当にかすめただけだ。助かった。こちらにとって、足が動かないというのは致命的だ。
さて、思った以上に厄介だ。
まず散弾型の短包。本来あの中に収まる術式ではない。しかも速い。
そこから考えられる可能性は、内蔵回路との連結。
上腕部、前腕部、手部と短包を合わせて術式として完成させているのだろう。
そんな術式、学園生にはまず組めない。
サヤなら出来ますよ、とか軽く言いそうだがそれはさておき。
「ずいぶん金かかってるな。その機体、一般級だろう」
そう、違和感の正体。あちらの反応が明らかに速い。学生に造れないなら、それ以上の腕を持つ者が造ったという事だ。
「みたいだね。色々と過敏だったり過剰だったりもするけど、凄いねこれ。自分が強いと勘違いしそうだ。学生にはまだ早いね。廉価級で基礎から学ぶのがいかに大事か良くわかるよ」
「自分で準備したのではない、と。カーム・アーセイルか」
「当たり前だよ。うちは木っ端貴族だと言ったろう。子に模型兵装を与える余裕なんて、たとえ廉価級でも無いと思うよ。ましてや一般級なんて」
「そうまでして俺に勝って欲しくないか」
「そうみたいだね」
「お前自身はどうなんだ」
「僕はカーム様の従者だからね。主人の意向に従うだけさ」
なんと言うか、こいつらの歪みの元が見えた気がした。
何とかしてやる義理の一つだって俺には無いのだが、不本意な事に渦中に巻き込まれている上、解決に一番近いところに立っていると来た。
特大のため息はしかし、模型兵装に拾われる事無くこちらの機体の中にだけ響いた。




