順位戦本戦1回戦目放課後から翌日1
「だからと言って装手が困っている時に黙っていては製造者として失格です」
またもカーム・アーセイルの妨害で、外部兵装が作れなかったというサヤの表情は分かり辛いがしかし手詰まりという風でも無かった。
「また新しい何かがあるのだな」
「はい。新しい武装を準備してあります」
「外部兵装は部品不足で作れないのでは?」
「材料が無くて作れないなら、無い材料を使わない、もしくは代用すれば良いだけです。そう考えれば、そもそも射出型にこだわる必要も無くなります」
「それは楽しみ…だが、無粋な邪魔者が居る様だ」
最近は工房に隠して置いてある、本来は模型兵装用の魔力抽出器と索敵術式を使用するのが習慣になっている。
用心の為だったが、当たりを引いた様だ。
「来ましたか。今回はどなたでしょう」
反応があった場所をひそかに覗いてみる。
「クィーツ・ネイだな。カーム・アーセイルならともかく、あいつは黒幕気取りで他人を使うかと思ったが」
「アーセイル先輩も第一戦は今日でしたね…見るからに挙動不審です」
「いっそ、拐って縛り上げて工房に転がしておくか」
言った瞬間、物凄く嫌そうな声が返ってきた。
「工房が汚れます」
「冗談だ。しかしあいつ一人なら俺が抑えておくからその間に向かってくれ…と」
「油断して仮設に行くと別の方に後を尾けられるのでしょうね」
「だろうな。どうする、気絶でもさせるか」
「二人目の確定ができていない現状でそれはまだ早いかと」
「ワーム・コウだろう…と反射的に考えたが、あいつも今試合中だったな」
ワーム・コウも勝ち上がれば次の相手に決まる。
対戦相手はたまに本戦に出て来るが大体初戦敗退する、中堅から抜け出そうとしている位だ。十中八九はワーム・コウの勝ちだろう。
家の都合なのだろう、それなりに常識人で気も回り腕も立つワーム・コウがカーム・アーセイルの取巻きとして後始末をして回っているのは学園でも有名な話だ。
少し気の毒とは思うが負けてやる義理がある訳でもない。
何度か軽く左右に首を傾げた後で天井を見上げていたサヤの顔の向きがこちらに帰ってきた。長考がまとまったのだろう。
「今日はここまでにしましょう。今晩中に何とかします」
「男手はいらないか?それなりには役立つと思うが」
「今回は筋力に頼るつもりはないので大丈夫です。必要なのは権力ですから。先輩は次に向けた体調管理に専念してください」
顔の角度が少し斜め上だ。自分の言葉に俺がどんな返しをするか分かっているのだろう。
「君に体調管理を説かれてもな…まぁそれはともかく、伯爵家以上の権力といえば主任教師だが、動いてくれるのか」
ジーク・イヤッツ主任教師は30半ばにして国王陛下の信任厚く、宮廷魔術師として侯爵家当主と同等という権力を持っている。
この国では国王陛下に次いで2番目、本来は侯爵4家と王太子の5名しか持てない権力を特別に与えられた存在だ。当人はあまり気に入ってないのか権力を振りかざす事はしない。いやされても困るのだし、そもしないからこそ与えられたのだろうが。
「先生自身が仰ったのです。先生自身に責任を取っていただかないと」
「何を言ったんだ?」
「まだ実感がありませんか?先輩は今日、学生最強候補を破って、順位戦本戦2回戦に進んだのですよ。新しい可能性を見せつけながら。先輩は自らの価値を身をもって示したのです」
そういえばそうか。途中で難易度が変わったからあまり意識していなかったが、退学の危機はとりあえず越えたのだな。
改めて考えると嬉しさがこみ上げてくる。だがその言い方ではまるで俺一人の活躍の様ではないか。
「俺は動かしただけで、機体の可能性は君の手柄ではないか」
「それも先輩のあの速さを活かした、鮮烈な勝利あっての事です」
…これは平行線になる奴だ。そういう時は俺が諦めた方が早い。
「そういう事なら任せる」
「それと、明日の日中は接触を避けて、商店街で過ごして欲しいのですが」
「構わないが、せめて目的を言ってくれ」
「アーセイル先輩の眼を引いておいて欲しいのです。その間に学園側を片付けたいと思いまして。そうすれば仮設を使う必要もなくなり、移動時間と警戒に使う労力の無駄が省けます」
「ふむ。了解した」
そうして、この日は別れた。
ちなみに、次の試合の相手はワーム・コウに決まった。
翌日は、悪夢の様な1日だった。
クィーツ・ネイと違い、カーム・アーセイルは自ら動く自己顕示欲の塊だ。
当人は忍んでいるつもりなのだろうが、とことん周囲から浮いている。
まず、服装からして違う。
以前、街にお忍びでやって来た貴族の坊っちゃんを見かけた事がある。
服装は目立たない様に平民と同じにしていたが、それでも色々違和感があってすぐにそれとわかったものだが、そういう次元の話ではない。
普段自室でくつろいでいる程度の軽装なのだろう。
いや、奴の思考からすればそんな隙だらけな格好で外には出て来ないか。
しかし流石に夜会に出向く服装が合わないとは思い至ったらしい。
結果、いかにも高級そうな装飾過多ではあるがそこそこ機能的な…城勤めの文官あたりがしてそうな、いや見た事ないから想像だが、とにかく街中で見かけたら間違いなく遠巻きにする事請け合いな格好で俺を一心不乱に探ろうとしているのだ。
そのせいで視界の端なのに目立つ。関わりたくない周囲が作る不自然な空白。その中心から絶え間なく感じる視線。おまけに周囲からの何とかしろという期待。
俺とて囮としての役割がなければ関わりたくなかった。切実に。
おまけに、俺がサヤと会う様子がない事に苛立ったのか、俺の前に堂々と立ち塞がり、文句を好き放題ぶちまけて去って行った。
この日はカーム・アーセイルが少なくとも自分より下と思っている平民の空気を読む気は一切ないのだと…知ってはいたが、心底実感した一日となった。




