順位戦本戦1回戦目放課後2
その中でも有名な理由、それは諸外国に追い付く為に最大限にアーム・アーティラスの固有能力を活用したからである。
固有能力『転移門』離れた二ヶ所の距離を零にする能力。
アーム・アーティラスの両の肩には脱着式の6対の杭状の装備がある。これは空間歪曲機と呼ばれ、これら空間歪曲機を地面に刺して術式を起動させると、対になる空間歪曲機との距離を無視する平面が生成される。
平面の大きさは模型兵装が通れる程度。
歴代国王はこの能力の内3対でニフオーン主要4島を繋いだ。
後に国交と同盟を結んだ、シーイナ皇国の更に西に存在するウィンデア王国とも繋いだ。勿論こちらは国境と同等の、両国の厳重な管理の元に、ではあるが。
模型兵装1騎が通れるだけの幅、高さだけとはいえ、危険な海を渡らずに…海には海の古の敵が居て、地上で出会うそれらよりも遭遇時の危険が高いのは言うまでも無いだろう…隣国へ行くのと変わらない時間で国を移動出来るのだ。
それはもう、大陸と地続きであるのと変わらない。
この英断により、ニフオーン王国は建国100年の若く、国土も然して広くない島国でありながら目覚ましい発展を遂げた。
大国であり好戦的なシーイナ皇国や、宗主国面して上から目線であれこれ口を挟んで来ようとするルオーシュア帝国などの隣国と渡り合って来たのだ。
…特にルオーシュア帝国の干渉はひどく、建国当初は直接的な武力衝突もあったらしい。それこそ試しの儀式を行って以降は恩着せがましく、こちらを下に見る事で溜飲を下げようとしてくる。
2代目の国王の時代には王女ばかり産まれた時、王子を婿として捩じ込んで来た事もあったそうだ。
国を乗っ取る気満々のふざけた話であるが、向こうの気持ちも分からなくはない。
だからと言って許せる訳では無いが。
それから、現在より5年前の国歴94年に東方大陸の安全と認められた開拓村と繋いだ。
これにより、開拓の気運が高まって居るのが現在。
そして、やっと本題に帰る。上記の理由でこの国は造船技術も航海技術も決して高くない。最低限度、東方大陸に渡れれば良かったのだから。
まして海上で古の敵に抗う手段など。
「つまり俺が乗ってる機体も浮くのか」
「それ用に調整する必要はあるでしょうが少なくとも泳げはします」
「領地持ちの貴族は海で戦える力を望んで居る、と言う事か。今更?」
「確かに今更ですね。あの方々は転移門の恩恵がいつまでも続くと根拠も無く信じて何もしませんでした。このまま開拓が進めば、この国は今後東方大陸と西方大陸を結ぶ重要な拠点となってゆくでしょう。ですが、仮に東方大陸に安全で肥沃で広大な土地でも見つかって、領土に出来たなら、どうなると思いますか?」
現在、国王陛下が住まうこの地より良い土地が手に入ったら。
「遷都、か」
「はい。そんな簡単では無いでしょうし、そもそもそんなに都合良くいくとも思いませんが、もし仮にそうなったら足掛諸島に転移門を設置する理由は、直ぐに無くなると思われます」
「そうなった時に見捨てられない様に?」
サヤが軽く深呼吸する。そこまで深くないからそんなに長くはないだろう。
「流石に国も見捨てはしないでしょう。ただその事が無かったとしても、国として切り札が残り1つの状況は出来るだけ早く脱却したいと考えているでしょう。であるならば遠い両大陸よりは近い国内を撤廃する道を選ぶだろう、と予測しておりました。最近、ウィンデア王国とのやり取りが頻繁だと言う噂も耳にしております。彼の国は西方大陸の南側と島も多く持つ友好国の海洋国家です。教えを乞う相手として丁度良いのではないでしょうか」
「そこまで読んでいたのか」
「参考までに申し上げますと、歴史を学ぶと言う事は未来の読み方を学ぶと言う事です。時の流れは川の流れと似ています。過去から現在へと続いた時の流れは、よほど強力な力が働かない限り予測し得る未来へと流れていきますから」
これまで何回か思ったが、この後輩は年齢詐称しているのではなかろうか。
そんな事を考えていたら工房に到着した。
壊れた機体を置いて去って行く2機を見送ってから本題に入る。
「あの2機は関係無かった様です」
「こう何もかもを疑わなければならないのも面倒なものだ」
「後1週と少しの我慢です」
太陽が東の空に姿を現すと朝。太陽が沈んで月が昇ると夜。次の朝が来ると1日。 月の形が変わる5日を週と呼び、土、水、火、風、無の属性が割り当てられている。ちなみに、無の日が1日休日と言う事になっている。
そして、6週経つと月の色が変わり、形が満月と呼ばれる円形に戻る。これを1月と呼び、月の色が12色で一巡する。これを1年と呼ぶ。
「修理は」
「予備の部品は仮設にあります。左腕を肩からと、右足は膝…いえ、念の為股関節で交換。全身の確認と微調整と、合わせて明日1日あれば」
「分かった。宜しく頼む。やれやれ、最初から飛ばし過ぎだな。こちらの弱点もあからさまにされてしまった」
「機体受け渡しの後、本戦発表の日まで寝込んでしまったのが失敗でした。中等部の体は軟弱です」
そう、あの後丸二日殆ど寝たきりで過ごしたのだ、この後輩は。
無理をさせた原因の俺が言えた台詞では無いが、無茶はして欲しくない。後で聞いて青ざめたものだ。
「まだ気にしているのか。あれはそれまでの無理が祟ったのだろう。俺が同じ事をしても同じ結果になるだろうから中等部がどうこうという問題でもないだろうに」
「二日あれば外部兵装の一つ位は作れたのです。とは言え、外部兵装の部品もたまたま売り切れていて在庫が無かったそうですけれど」
「そうか、たまたまか」
「はい。次のお客様には私には在庫切れと説明した部品を普通に売っておられましたけれど。予約していたのでしょうね。その場で選んでいらっしゃったけど」
それはまた随分な品切れだ。
「段々形振り構わなくなって来てるな」
「それだけ焦り、そして恐怖を感じているのでしょう。地位も実力も圧倒的に下だと見下していた相手が、実は自分がどう足掻いても乗り越えられなかった相手を下せる程の実力を持っている、という事実に」
「そんなものか。そもそも勝てないのが当然だった身には理解出来ないな。ところで、外部兵装まで考えてくれるのはありがたいが、元々攻撃には向かない青色なんだ。無くてもそれほど変わらないさ」
この青色というのは魔力抽出器で取り出す魔力の色で、生まれつきのものだ。
青色の場合、水属性である事を示している。
そして前述の通り青は攻撃には向かない。白色が示す風属性もなのだが。
攻撃に向いているのは赤色が示す火や黄色が示す土の属性なのだ。
炎はその熱で、土はその硬度と質量で効果的な攻撃が出来る。
流体である水や気体である風では効果的な攻撃は出来ない。
属性は魔術回路に含む事で変換可能ではあるが、記述枠は取る、威力は減衰する、時間も掛かると攻撃の効果を上げる以上に欠点が増える為、魔力が青や白の者は外部兵装をあまり好まない。
その分、という訳では無いが、風は世界を巡る軽い存在であるからか、魔術の質として距離が伸びやすく、また風の乱れに敏感になりやすい傾向がある。つまり索敵が得意になるから、斥候向きと言える。
それと比べて水は…生活必需品ではあるが、そこまで急いで必要な事も無いので多少効率が悪く時間が掛かっても問題にならずまた兵装である必要も無いので魔術回路も大きくならないため旅の時に内部装甲の一部にでも回路を搭載しておけば充分、という扱いである。
唯一の救いは個人で有する魔力量が他の属性の者より多いという特徴がある事だろうか。これは、人体の多くは水分で出来ているからと言われている。




