追憶14
「昨日の解散時、私がどう行動したか覚えていますか?」
「いつも通りだったと思う。会話の内容はそろそろ機体が完成するから調整に入ると聞いた。昨夜は興奮で中々寝付けなかった」
「はい。その話をしながら工房の鍵を閉めました。しかし今日来た時、鍵が開いていました」
「確かに俺も君が鍵を掛け、掛かっている事を確認したのを見た。覚えている」
「鍵に異常も無いので、無理矢理開けたという事も無さそうです。と、すると考えられるのは…」
「学園が管理している親鍵、か。成程、報告するのも簡単ではないな」
鍵を開け扉を開くと、普段の整然とした様子とは違い、棚から引きずり出され破壊された道具類や、何より中央に鎮座していた完成間際であった筈の機体が滅茶苦茶に破壊されているのが目に入る。
四肢は砕かれ、素体の全身に刻まれた回路もずたずたに引き裂かれている。
「これは酷いな」
「学園に報告、対処してもらわないとなりませんが…本当に親鍵が使われたとしたら、最低でも一人は教師にあの方の協力者が居るという事になります」
個人に貸し与えられる工房ではあるが、学園の施設でもあるので学園は親鍵を所有している。学園の全ての工房の鍵を解錠できる代物である為、生徒が触れる機会はまず無い。貴族の生徒であるカーム・アーセイルでも無理だろう。教師ですら一人では持ち出せないと聞く。
「誰だか見当は付くが、証拠になりそうな手掛かりは…なさそうだな。それで、順位戦までに修理は可能だろうか?」
「…無理、です。時間的には何とかなりますが、修理に必要なだけの材料の在庫がもう無いとの事で、取り寄せに時間が掛かるそうです…一カ月程」
「…そうか。終わりは呆気ないものだな」
模型兵装は単一の素材で製造される。関節を動かす為の念動の魔術が材質毎に異なるからである。
回路を覆う外部装甲も同一の素材でないと魔力の伝達を阻害する。
ちなみに直接回路に触れる内部装甲は綿状で隙間が多い為か、同一素材の粉末を混ぜる事で阻害を抑える事が出来る。
そういう事情で、素材が足りないというのは致命的だ。
心の真中に穴が開いたかの様だ。
空しさという風が吹き抜け、吐き気を伴う寒気がする。
次に憎悪。例えるなら炎。痛みを伴い胸を焼く。
空しさの寒風が胸を焼く憎悪の炎を煽る。
黒い激情の炎が激しく燃え上がり俺の全てを塗り潰す。
カーム・アーセイル、貴様は絶対に許さない。例え刺し違えてでも…
「まだ終わってはいません」
しかし澄んでいながら強く響く声が、俺の心の黒い炎を一瞬で吹き散らした。
我に返り尋ねる。
「どういう事だ」
「内蔵回路や外部兵装までは時間が足りません。しかし素体と二層装甲の最低限なら、用意する事が出来ます」
「素材が無いのに?」
「陶磁器は使いません。最初に素材の話をした際、素体には向かないから、と除外した素材の話を覚えていますか?」
「そう言われればそうだったかと思う程度だな」
「そちらで製造します。しかし、このまま製作に入ってもまた邪魔が入る可能性があります」
一度あったのだ。二度目はない等と言える程、危機管理に乏しくもない。犯人には当然報いを受けてもらうが、今はまだ時間が足りない。
「そうだな」
「ですので、完成するまで学園から離れ、姿を隠します」
「それはまた随分と思い切った手段だが、学園の外に工房を持っているのか?」
「中級製造資格を取得した際、遠征用の仮設工房が支給されたので、学園裏山の目立たない場所に展開させようかと思っています」
「わかった。詳しくは聞かないがくれぐれも用心してくれ」
「はい。先輩は出来れば、私に雲隠れされて焦っているか、絶望した様子でも見せて油断させると効果的かと思われます」
「柄ではないがやってみるか…実は結構良い性格をしているのだな」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
そうして、二人で笑った。
「それで結局、そんなに躊躇う素材というのは一体何なんだ?」
「それは…」




