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80話 告白

「じゃじゃーん。ようこそ、株式会社エンハンブレのアジト兼娯楽室に!」

 ルージュが、勢いよくドアを開けながら叫んだ。

 目を白黒させながら固まるヴェールを、アマリージョが部屋に入るよう優しく促す。


 アマリージョに背中を押され、ヴェールが一歩踏み出す。

 戸惑っている様子だが、好奇心が刺激されるのも事実なのだろう。恐る恐るではあるが、彼女は足を止めることなく部屋の中に歩みを進める。


 目に入るもの全てが初めて見るものばかりで、最初はせわしなくキョロキョロ視線を動かしているヴェールだったが、しばらくするとゆっくりと一つ一つのものを観察し始めた。

 頭で理解したことを、目で見て初めて実感し、納得しようとしている、まさにそんな感じだった。


「・・・すごい・・・なんなんですか、ここは?」

 ヴェールが深く息をつき、こちらを振り返りながら言った。


「あ・・いや、なんていうか・・・作戦室とでも言うのかな? 作戦の計画を立てたり、みんなで話し合ったりするような・・で、これがヒカリ」

 机の上に置いてあるヒカリを持ち上げ、ヴェールに手渡す。


「え? これ・・ですか?」

 ヴェールが困惑しながら両手で受け取ると、


『シスター・ヴェール。改めてよろしくお願いします。ヒカリと申します』

 いつもより数倍よそ行きの、礼儀正しいヒカリの声が響いた。


「!! あっ、はい! ・・・こちらこそ、よろしくお願いいたします。ヒカリさん」

 ヴェールは自分の両手の中におさまっているヒカリを、穴があくほど見つめていた。


 その後、ヴェールは、ルージュとアマリージョから部屋の説明を一通り受けた後、家の内覧会に誘われていた。

 ルージュとアマリージョはモデルルームの職員さながらに、部屋を一つ一つ丁寧に案内し、おすすめポイントなどを熱く語っていた。

 ゴーレム君が出てきたときには、叫びながら逃げだし、尻もちをついたりして大騒ぎしていたが、今は ヒーロー兄弟に囲まれた状態で、女子三人、仲良くお菓子を食べている。


――ヴェールってどこか儚げで、寂しそうな感じがあるけど、あんなに楽しそうに笑うんだな・・・


 年頃の女子三人のおしゃべりは、尽きることがないようで、男の俺は完全に蚊帳の外だった。

 でも可愛い女の子たちが楽しそうにわちゃわちゃ騒いでいる様子は、眺めているだけでも充分に楽しかった。


 時折聞こえてくる真面目なトーンの会話の断片から、ヴェールはルージュより半年後の生まれらしく、今は同じ年らしいということがわかった。

 あとはクリチュート教会の事やら、王都の話、他国についての話なども興味を引く内容ではあったが、聞いた事が無い固有名詞だらけで、残念ながら理解するまでには至らなかった。


――まぁ、わからない言葉は、あとでヒカリに聞けばいいか・・・


 楽しそうな笑い声が響く部屋には、暖かい日差しが優しく差し込み、一人ぼんやりしているとだんだん眠たくなってくる。


――ハッ、やばい・・ウトウトするところだった・・・そろそろ新しいお茶でも用意するついでに、下で顔でも洗ってくるか


 木の皿に、山盛りのせてあった色とりどりのお菓子類が底をつき始めたのを見て、そんな事を考えていると、話が金ピカの騎士、テスターに及んだ。


「そういえばさあ、あの成金っぽい嫌みな奴・・・テスターだっけ? あいつはなんであんなに偉そうなのよ!」

 ルージュは一連の出来事を急に思い出したらしく、顔をしかめ、憤慨しながら口を開いた。テスターという名前を聞いた瞬間、ヴェールを包む空気が一瞬で張り詰めたのがわかる。


「あっ・・あの、それは・・・テスターは一応、副団長ですから・・・・」

 さっきまで楽しそうに話をしていたヴェールが、別人のように暗い顔をして口ごもる。


「団長さんはいい人っぽかったのにね。それに比べて・・・」

 ルージュは、ヴェールの纏う空気が変わっても、お構いなしに話し続ける。


「・・・はい・・・それは・・・皆さんにも嫌な思いをさせてしまって・・・」

 ヴェールは、消え入りそうな声でそう言うと下を向いてしまった。


「ほんとよね・・・なんであんなのが副団長とか・・・下品な金ピカ・・モガッ」

 ウンウンとうなずきながら、なおも話し続けるルージュの口をアマリージョが塞いだ。ヴェールの様子を見て、いたたまれなくなったのだろう。


「姉さん、言い過ぎよ! ヴェールさんにもなにか事情があるのかもしれないでしょ。そんなにズケズケ言うのは良くないわ」

 アマリージョがルージュの口を塞いだまま、耳元でそっとささやく。ルージュがハッとしたようにヴェールを見つめる。


「ごっ、ごめん! ヴェール・・・」

 アマリージョが手をのけると、ルージュが慌ててヴェールに手を合わせて謝る。


――これは・・・口を出すべきか、出さないべきか・・・難しい選択だな

 ヴェールが何を考えているのかもわからないし、全員が無言のまま、重苦しい空気が流れ始めたその時だった。


「・・・申し訳ありませんでした!!」

 突然、ヴェールが頭を深々と下げ、大声で謝る。


「「「!?」」」

 思わず、三人同時に顔を見合わせる。全員の顔に困惑の色が浮かんでいた。


「あっ・・いや、私が言い過ぎちゃって・・私の方こそごめんなさい」

 一番最初に気を取り直したルージュが、すまなさそうな顔をしてヴェールに謝罪する。


「いえ、違う・・違うんです。ヒカリさん、クロードさん、ルージュさん、アマリージョさん・・・みなさん、こんなに親切にして下さって・・・私のこと、友達だって言ってくれて・・・。それに、この部屋やヒカリさんの事も・・・本当は話したくなかったんですよね? ・・・それなのに・・・私のために・・」

 ヴェールが涙ぐみながら、ポツリポツリと言葉を紡いでいく。


「あ、それは・・・違うのよ、そんなに気にしなくても・・ねぇ?」

 ルージュが、俺とアマリージョの方を振り向きながら、目で「同意しろ」と言わんばかりに訴えかけてくる。訴えかけると言えば聞こえがいいが、ほぼ恫喝に近かった。


「そ、そうだよ! き、気にしなくていいのに・・」

「そ、そうですよ! ヴェールさんったら・・・」

 ルージュの無言の圧に、圧倒された俺とアマリージョがあたふたしながら応える。そんな俺たちの様子を見たヴェールが、泣き笑いのような表情を浮かべた。


「・・・ごめんなさい、ちゃんとお話します。私のことや、テスターのこと。そうでなければ友達とは言えませんよね」

 ヴェールはそう言うと、一度大きく深呼吸した。真っ直ぐに顔を上げ、背筋をピンと伸ばした彼女は凜としていて、まさに聖女と呼ぶにふさわしかった。


 ヴェールのオーラに圧倒されるように、俺とルージュ、アマリージョもつられて姿勢を正す。そして椅子に座り直すと、改めて彼女の方に向き直る。

 そんな俺たちを見て、ヴェールはクスッと優しい微笑みを浮かべてこう言った。


「ふふっ、そんなに改まらないで下さい・・・あの、ええと・・何からお話しましょう。では・・・まずテスター副団長の事ですが、彼の名前はテスター・ピッコーラ。紹介があったようにクリチュート教会騎士団の副団長で、まだ公にはしていないのですが・・・私の婚約者です」

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