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47話 ホコリに注意

 家を決めた後、村長と少し立ち話をした。

 村での生活や現状などについて教えてくれたが、一番困っているのは、やはり井戸が枯れ気味で水が不足していることらしい。

 村のためになんとか力になりたいと思うが、今のままではたいした力にはなれそうにない。

 でも、出来ることがあればきっとヒカリが考えてくれるだろう。


「では、私はそろそろ戻るよ。家の方は適当にしてもらって構わんからな。馬車で荷物を取りに行くと言っていたが、すぐ使うのか? 明日でも明後日でも構わないが、村を出る時は一声かけてくれ。安否の確認も村長の仕事の一つだからな。あと、これは忠告だが、ブルーノは5日ほど村にいるはずだから、それまでに尋ねて、魔石の買い取りと買い物を終わらせておきなさい。あれはあれで惚けた商人だが、不必要に値引きをしたり、便宜をはかったりはしない男だ。その男が便宜を図ると言った以上、その縁は大事にした方がいい。まぁ機嫌を損ねて村の商品を値上げされても困るしな」

 そう言って、村長がいたずらっぽく笑った。


 この村長は本当にいい人なんだろうな。

 醸し出す雰囲気が温かく、優しい。


「色々とありがとうございました。それとこれからよろしくお願いします」

 深々と頭を下げてお礼を言った。


「村長さん、ありがとうございました」

 俺がお礼を言うと、アマリージョも続けてお礼を言った。


――嫁か! 


     ♣


 村長を見送り、二人で引っ越し先の家へと歩き出す。

「では、クロード・・・うーん。やっぱり、さんをつけてもいいですか? なんだか呼びづらくて・・・すみません・・」

 アマリージョが気恥ずかしそうに言ってきた。


「元々は、ルージュが言い出したことだから、俺はどっちでも構わないよ」


「はぁー、良かったです。姉さんが余計なこと言うから・・・。名前呼ぶの、なんだか緊張してしまって・・・だから、あんまり喋れなくて」

 アマリージョがほっとしたようにこちらを見て、にっこり笑った。


――あれ、何これ。可愛いぃぃ!

 普段しっかり者なだけに、ふと本音を聞くとめちゃくちゃ可愛く見えてしまう。

 大人と子供の狭間、この年代の少女というものは本当に恐ろしい・・・

 とはいえ、俺の実年齢は35歳。

 女性と付き合ったこともあるし、大人としての余裕は見せておかなくては・・・


「ア、ア、アマ、アマリ・・・?」

 1オクターブ高い変な声が出た。


「ふふっ、じゃ家まで競争しましょ」

 そう言ってアマリージョが走り出す。


――俺の方が年下みたいだな・・・

 そんな事を思いながら走る。


――あれ、ちょっと速すぎじゃない? 全然追いつかない。これって追いついて〝きゃははは〟みたいな奴じゃないの? 本気で走ろう。


 どんどん加速していく。

 でも追いつかない。


 結局、大差で負けた。

「ハァ・・ハァ・・・、アマリ・・・ちょっと・・速すぎじゃない?」


「あ、風魔法で加速しましたから」


「え? あ、あぁ前に言っていたやつか。・・・凄いね」


「すみません。急に見て欲しくなっちゃって・・・」


「いや、全然。見せてくれてありがとう。俺も早く魔法が使いたくなっちゃったよ。あ、今度機会があったら教えてくれないかな?」


「はい! もちろんです。私で良ければいつでも協力しますから。その代わり、何か美味しいもの食べさせてくださいね」


「わかったよ」

 少し慣れてきたのか、アマリージョとの距離が縮まったような気がする。

 あの時、彼女を助けることが出来て、本当に良かった。

 心からそう思えた。


「じゃ、家の中に入ろうか」


「はい」


 室内の作りは聞いていた通りのものだった。

 ただ、家財道具が何もなかった。

 ベッドはもちろん、棚の一つすら。


「まあ、こんなものだよね」


「はい。まだそんなに傷んでないようですし充分だと思いますよ。あ、クロードさん、キッチンも見てください。型は古いですが魔道具のコンロが残ってますよ」


「魔道具のコンロ?」


「はい、これです。クロードさんのに比べるとかなり大きいですが、ここを押すと火がつくので料理が出来るんです。魔力の補充はここの魔石に魔力を流すことで使えますから。あ、でも要らないですよね」


「あ、いるよ。洞窟のやつはもう燃料? というか専用の魔力みたいのがもう無くなりそうだしね」


「そうなんですか、でもそれなら良かったですね。型は古くても値段は結構高いんですよ」


「じゃ、次は馬車とかを確認したいから、一緒に倉庫来てくれる?」


「はい!」


「さっき、馬車の魔法陣がどうのって言ってたけど、馬車にも魔法陣が描いてあるの?」


「はい。えーと馬車に書いてあるのは収納の魔法陣で・・・」

ここで家の裏にある倉庫に着いたので、二人でドアを開ける。

 広めの空間には、様々な農具のほかに馬車が置いてあった。


「もっとボロボロかと思ったけど、結構ちゃんとした馬車に見えるよ。(ほろ)もついているし、かなり立派だよね。これ。」


「馬車は魔法陣の影響で常に魔力に覆われているので、古くなっても傷むことが少ないんですよ。それに幌がないと魔法陣が役割を果たせないんです」


「役割?」


「はい。えーとまず魔法陣がこれです」

 そういって、アマリージョは馬車の荷台の中を指さした。


「そんなところに・・・もっと分からないように書いてあるのかと思ってたよ」

 そう言いながら、馬車に近寄り、中をのぞき込む。

 そこには、ケナ婆が描いたものと似たような魔法陣が描かれていた。


「この魔法陣は収納の魔法陣で・・・よく分からないですが空間がどうのって話で・・・簡単に言いますと、この馬車の荷台、幌の中に入るものなら、荷物が3倍くらい入ります」


「さ、3倍!? 何それ、すごいな魔法陣。ていうか3倍も入れたら重くて動かせないんじゃないの?」


「重さも3倍軽くなりますよ」


「え、すごい! でもそんな便利な馬車、使わないなんてもったいないね」


「そうですか? 馬車は基本的にどの馬車も魔法陣が描かれてますから、珍しくはないんですよ。値段も凄く高いという訳でもないですし。むしろ、魔法陣のせいでなかなか壊れないので、馬のほうが値段が高いくらいです」


「そうか・・・壊れない馬車と生きてる馬。馬車屋さんは大変そうだ・・・」

 その後、アマリージョは馬車が壊れていないか確認して、最後に馬車の魔法陣に魔力を注入してくれた。

 最初は俺が魔力を注入しようとしたが、注入どころか、魔力の操作すら出来なかった。

情けない。

 アマリージョが慰め、励ましてくれたが、おそらく魔法を使えるような日は来ないのだろうとちょっとだけ落ち込んでしまった。


 家に戻るとアマリージョが風魔法で部屋の掃除をしてくれた。

 アマリージョを中心にくるくると回るつむじ風。

 一階の掃除が終わり、二階へ。

 舞っているのはゴミやホコリなのだが、部屋に差し込む光に照らされてアマリージョの周りがキラキラと輝いて見える。

 まるで天使でも舞い降りたかのようだ。


 そんなアマリージョに見とれていたら、魔法が使えないことに落ち込んでいたのもすっかり忘れてしまった。


「はい。終わりです」

 アマリージョが一言、掃除が終わったことを告げた。

 ゴミは、全て二階の窓から外へと出されたようだった。


「あ、ありがとう。すごく綺麗になったし、アマリも綺麗だったよ」

 拍手をしながら、お礼を言った。


 アマリージョは、一瞬照れくさそうに微笑んだ後、一度小さい咳払いをしてから言った。

「えーと、クロードさん。移住も決まって、家も決まりましたが、まだここには、洞窟から荷物を運んでくるまでは住めませんよね。なので、今日はうちに泊まりに来ませんか? 引っ越しのお祝いも兼ねて姉さんと3人でお祝いしましょう」


「え? でも・・・」

 急に思いがけないことを言われて戸惑う。

 まぁ、洞窟では3人で雑魚寝だった訳だしな・・・

 そんなことを考えていると・・・


――ドン!

 突然、一階のドアが勢いよく開き、ゴミとホコリにまみれたルージュが階段を駆け上がってきた。

「クロード、家が決まったのね! 今日はうちで朝まで引っ越し祝いをするわよ。美味しいものをたくさん食べたい・・・じゃなくて何か作ってあげるから、残りの食材を全部持って来てね」


 まさかアマリージョと同じ提案をしてくるとは・・・。

 アマリージョの顔を見ると、やはり驚いているようだったが、冷静に考えれば似たもの姉妹ということか。


 俺は、荷物の中から食べられるものを全て持ち出し、ルージュとアマリージョと一緒に、二人の家に向 かった。家にはウサギの肉があるらしく、シチュー的なものを作ってくれるらしい。

 俺も今あるもので何かを作ろうと思う。


・・・あと、そうだ忘れてた。

――ヒカリ。聞いてたと思うけど、家も決まってルージュたちの家に行くんだけど。


『――はい。見ていましたので問題ありません。私はこのままケナ婆さまの家に泊まってもよろしいですか。明日、洞窟に戻る時に迎えに来てもらうと助かります』


――泊まるの? 迷惑じゃない? といっても邪魔にはならないか。


『――はい。ケナ婆さまもそうしろと。それにいろいろとこの世界のデータが集まることは、とても楽しいですので』


――わかったよ。じゃ、また明日ね。


『――はい。お願いします・・・・あっ・・二人に手は出さないで下さいよ』


――出さないってば! もう。じゃまた明日。


 ヒカリはなんだかんだ楽しそうで良かった。

 そういう俺も、最初の時から考えたらかなりの進歩だな。

 二人には本当に感謝してもしきれない。

 でも、3人で行動するのもこれで最後になるのかな。

 同じ村の住人だし、会えなくなる訳じゃないけど、やっぱりかなり寂しいな。


――ヤバイ、なんか泣きそう・・・


「ねぇ、ルージュ。さっきから気になってたんだけど、なんでルージュはそんなにホコリまみれなの?」

 感傷的な気持ちを吹き飛ばすよう、努めて明るく言ってみた。


「え? あぁこれね! それがよく分かんないんだけど、クロードの家が決まったって聞いたから、迎えに行こうと思って家に行ったら、突然突風が吹いてきて・・・気がついたらゴミまみれだったのよ。もう迷惑な風よね、ほんと!」


 俺とアマリージョは目を丸くしてお互いを見た。

 そして目が合った途端、二人して吹き出した。


「もう・・・なに二人して笑ってるのよ!」

 ルージュの声が村にこだました。


――やっぱりルージュ! 持ってる子は違うな!


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