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232話 ファンとの距離

 突然の龍の出現に里の人も呆気にとられていた。


 赤龍の件についてチョウジと少し話をしたが、里と龍の関係などについては詳しくは知らないそうで、昔龍を助けた恩から、里自体が加護を受け、この山の麓で暮らすようになったという事実しか知らないという事だった。


 俺から見るとチョウジ自体、赤龍と親しげに見えたが、それは子供も頃に里に現れた赤龍に対し、棒きれ一本で立ち向かい、逆に面白いやつだと気に入られた経緯があったらしい。


 棒きれで立ち向かうとか・・・アホなのか、と思ったが、俺にも木剣で向かってきた子供がいたことを思い出し、足軽の人は基本仕様がアホなのではないかと、ちょっと納得した。


 龍については里で話が聞けなくても、綾小路の遺したパソコンを調べた方が詳しいかもしれないし、ここはとりあえず、今起きたことは一度忘れたつもりで仕切り直すのが一番いいか・・・。


 俺は、マッキナの上に駆け上がり、数度、手を叩いてから呆けている里の人たちに向かって改めて挨拶をした。


 里の人たちも我に返り、桃子にどさくさ紛れに握手を求めたりしていた。

 一通り挨拶をし終えたところで、全員でマッキナへと乗り込み、ティグリスへと出発する。

 

 全員窓から顔を出して大きく手を振る。

 里の人たちも手を振り返す。

 見張り台の人たちも大きく手を振っているのが見えた。


「なんか、いい里だったね」

「そうね・・・特になんと言っても・・・」

「「「「カレーが美味しかった!!」」」」


「桃子までご飯のことってどうなんだろう・・・分かるけど」


「まぁ、ちょっと桃子愛が強すぎて、キモチわるい所もあったけどね」


「クロードさんも姉さんも・・・ご飯が美味しいのは愛があるからですよ。愛ですよ、愛・・・しかも綾小路さんたち・・・自分たちの子孫が桃子さんを好きになるように・・・って。そういうのもロマンチックですしね」


「そお? 桃子が通ったあとに、桃子が踏んだ土だ~とか言って丁寧に集めてた人もいたからな・・・愛は強いと思うけど、思い出としてはご飯が美味しいっていうのだけで良くない?」


「土って・・・なんでそんなもの・・・」


「そんな事ならオークションでも開けば良かったかも」

「クロード、ナイスアイデア! 桃子の下着とか売ったら大金持ちだったわね」

「確かに」

「もう、クロードさんもルージュさんも・・・そんなにからかわないでください」


     ♣


 帰りの旅も順調だった。

 なにせ帰りの運転も、ヒーロー君と小さな桃子人形たちにお任せだからだ。


 途中現れる魔物は、遠距離射撃で予め先行していた里の人たちが先回りして倒してくれている。


 なので俺たちはというと、綾小路の遺品からゲームを出して取っ替え引っ替え遊ぶくらいしかやることがなかった。


「でも真面目な話、里の人は本当、桃子が好きだったわね」

 ゲームの順番を待っていたルージュが、同じく順番待をする俺と桃子に話しかけてきた。


「何? 急にうらやましくなった?」


「ち、違うわよっ!」 


「まぁでも、里の人からしたら生まれてからずっと桃子が神だと教わっている訳だからね。帰るときだって桃子が何も言わなきゃ50人くらいは黙ってついてくる感じだったし」


「・・・あれはさすがに私も驚いちゃいましたね。以前はファンとアイドルって、それなりに距離がありましたし、ファンも一定ライン以上近づいてこないというか・・・」


「でも、その50人って、桃子様のために死にたい~って泣いてた人たちでしょ。全身土まみれだった集団。全員、ファンの域は完全に超えてたわよね。それに桃子がついてこないでいいって断ったときの顔・・・ある意味、地獄絵図だったわ」


「男としては、ずっと信じてた女神様が目の前にいるんだから、そうなる気持ちも分からないでもないよ」


「そうだけど・・・クロードはなんだかんだ桃子には甘いのよね」

 ルージュが少し拗ねたように言う。


「ですね」

「でちゅね」

 ゲームに夢中だったはずのアマリージョとヴィオーラもそこは同意した。


「そ、そんなことは、ないと思うんだけど・・・」

 俺はそう言って、かゆくもない後頭部を掻きながら桃子を見ると、桃子は嬉しそうに飛びっ切りの笑顔を返してくれた。


     ♣


 皆で遊ぶこと数時間。

 マッキナは順調に進み、夜になる前にティグリスの王都へと到着した。


 街は平穏そのもの。

 出発した時と何も変わらず俺たちを迎えてくれた。


 街の人たちも「マッキナ」を見てももう興味はないのか、チラ見されるだけとなった。

 ティグリス王都のサンシャイン大使館へと戻る。


 ドンピシャのタイミングで執事が出迎えてくれる。

 ヒカリと連携が出来ているから当たり前なんだが、仮住まいといえ、やはり「ただいま」と言える場所に出迎えがいるのは嬉しかったりするものなのだ。


「皆様、お帰りなさいませ。お食事のご用意が出来ております。それと3日前にティグリス王からご連絡を頂きまして、予定では明後日、聖大樹の枝をお持ちいただけるとのことにございました」


「おぉ~、あのおっちゃんサボってなかったみたいね」


「ルージュ・・・おっちゃんとか言うなよ。一応王様なんだから」


「呼び名はともかく、明後日ってことは、この街ともあと二日。あっという間にお別れってことね」


 確かに行きはいろいろあったような気もしたけど、いざ帰るとなると本当あっという間だった。


 今日はゆっくり休んで、明日は一日ティグリスの王都を観光して、最終日はティグリス王と会ってから次の国に向かうとするか・・・



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