231話 次元の狭間
「ヒカリ・・・しゃべり方おかしいよ」
『あっ、申し訳ありません。ヒーロー君の思考と混ざって可笑しな感じになってしまいました』
「ん? なんだお主は・・・いやその魔素は・・・」
『仮の姿で失礼いたします。新国サンシャイン エンハンブレの社長 ヒカリと申します。先ほどのブルードラゴン・・・つまり青龍のことでお話ししたいことがございます』
ヒーロー君はそう言うと、小走りで赤龍の目の前まで出て行った。
それから皆が見守る中で、青龍・・・つまり俺がゴキブリと間違えてノートパソコンで押しつぶした、あのブルードラゴンのことについて話し始めた。
赤龍は落ち着いた様子でヒカリに話に聞き入っていた。
俺が潰してしまったことを伝えた時は、俺も殺されることを覚悟したが、根本的に復讐がしたいとかそういうことでもないらしい。
では、なんのために来たのだろう・・・と思っていたら意外と話は単純で、急にいなくなり、死んだと思っていた幼い青龍の魔素が、最近、微弱ながら感じることに違和感を覚え、ただの好奇心と里の者への確認だけで寄ってみた、それだけのことだった。
しかし、里自体が加護を受けているとか・・・知らない話が多い。
是非とも情報収集をしなければ。
それからヒカリは、聞かれたことに答えるだけでなく、赤龍に質問をするなどした。
里の人の中には長い時間の緊張感に耐えきれず、気を失って倒れる者も出たが、俺たち、特にヒカリにとっては有意義な時間となったようだった。
そして、赤龍との会話で分かったことがいくつかあった。
まずは青龍が死んだのは弱かったからで、それに関しては気にしていないということ。
しかし、龍の世界は個体数が少なく、特に神龍と言われる龍は、現在、黒龍、赤龍、白龍の三体しかおらず、黒龍、白龍はかなりの高齢、青龍は久しぶりに生まれた神龍種だということだった。
この神龍種は、この世界においても特殊な魔物らしく、生まれた時には魔石を持たずに生まれてくる。
赤龍に言わせれば、龍は生まれた時から強いので魔素なんてものには頼らなくても世界最強らしいのだが、やはり食事や水にも魔素が含まれるので体の中にすぐに魔石が出来てしまうとのことだった。
まぁ、出来てしまうものは仕方ない。
ならば、魔石を上手く使いこなそうということで、幼い青龍には赤龍が自ら魔素を上手く使って火を吐く練習などをしていたそうだ。
そんな青龍が消えたとなれば心配して当然か・・・。
ヒカリの話を聞いて大きくため息をついた赤龍によると、青龍は次元の狭間というものに落ちたということだった。
この狭間については赤龍も一度落ちたことがあるそうで、狭間の中は魔素が吹き荒れる真っ暗な世界だということだった。
どこまで進んでも闇の世界。
吹き荒れる魔素は、冷たく堅く、体をどんどん傷つけていったらしい。
方向も分からず、どちらが上か下かも分からず、当てずっぽうで進んだところに小さな光が見えて、思い切って飛び込んだら元の世界に戻っていたという。
ただ、時間は3年ほど経過していた。
長命の龍にとっては3年くらいどうということはないらしいが・・・。
この赤龍の話から察するに、青龍は次元の狭間に落ち、魔素の嵐で傷つき、瀕死の状態で俺の前に現れたと考えるのが自然のようだ。
そして最後の力を振り絞って、練習中の炎を吐いたら失敗した・・・。
ともあれ、赤龍は青龍の最後が分かった為か、気分が晴れたと喜んでいた。
次の神龍が生まれるまでは、100年か200年くらいかかるらしいが、それまでは気長に待つと笑っていた。
その狭間がなんで出来たのとか・・・魔素の嵐とか・・・疑問は残るけど、これでよかったのかな。
モノマネ芸人が、ご本人登場のパターンで、そのまま公認をもらった気分だし。
「・・・わかった。突然押しかけて悪かったな。あ、そうじゃ・・・ヒカリよ。主の中に青龍の記憶は残っているか?」
『・・・はい。すべてではありませんが』
「そ、そうか・・・その中に儂や黒龍なんかの記憶もあるか?」
『・・・はい。皆さんに感謝していた気持ちが残っています』
「・・・そうか・・・では往くとしよう。青龍の魔石を継ぐ者とその眷属たちよ。お主らには我の加護を与えておこう」
『加護? あの、加護というのは?』
「あぁ、たいした事ではない。我がお主らを見ていたいだけだからな・・・。加護はその礼だ」
赤龍はそう言うと、翼を大きく広げ、強風とともに飛び立ち、そのまま去って行ってしまった。
俺たちは旅立つのも忘れて、そのまましばらく赤龍が飛んでいった遙か上空を、黙って見つめていた。




