220話 遺産
久しぶりの更新になり申し訳ありません。
みなさん、お身体ご自愛を。
扉が開かれ、桃子を先頭に全員で中に入る。
入った途端、部屋に明かりが灯される。
10畳ほどの空間の奥に長机と椅子が一つずつ。
部屋の右側には、それに両手いっぱい広げたくらいの長さの大きな木箱が3個ずつ、合計12個積んであった。
木箱には、日本語で「武器」「防具」「鉱石」「宝石」「電化製品」などと日本語で書かれた紙が貼り付けてある。
奥の長机には大型のデスクトップパソコンが3台と大きめのモニターが5台。
それにファイルが数冊、立てかけてあった。
桃子が机の上に置いてあった封筒に気がつき、手にとって中を確認する。
どうやら綾小路からの手紙のようだった。
パソコンも確認したいし、木箱も早く開けたかったが、桃子が手紙を読み終わるまで、なんとなく全員、キョロキョロしながら待っていた。
3分ほど経ち、桃子は手紙を読み終わったようで俺に手紙を渡してきた。
なんで俺だけ?
と思ったが、日本語で書かれた手紙だし、内容を読んで納得した。
そこには、自分達がこの世界に桃子を追いかけてきた経緯。
時間軸を間違えて、今よりも過去の時代についてしまったこと。
そして日本で異世界転移のための実験を繰り返したことで、多くの人をこの世界に転移されてしまったこと。
そして、桃子に自分達の持ち物を財産として残すため、桃子を神格化したことなどが記されていた。
桃子は少し複雑な表情をしていた。
とても喜んでいるようには見えず・・・眉間にシワを寄せては目に涙を浮かべていた。
手紙の最後には、我が儘なお願いだが、ステージを作ってあるから生の歌声を子孫達に聞かせてやってほしいと書いてあった。
この手紙の男は本当に我が儘で、自分の欲望のためなら他人を犠牲にしても構わないという考えを持つ自己中心的な人間だったが、桃子を真っ直ぐに好きだという気持ちだけは強く伝わってきたので、そこだけは認める所でもあり、少し羨ましい部分でもあった。
だが・・・ちょっと待てよ・・・・
この手紙に書いてあることが本当なら・・・
「これって・・・」
「玄人さん! ごめんなさい!」
桃子が突然頭を下げて俺に謝罪した。
「は!?」
「「「「!!」」」」
その場にいた全員、訳も分からず息をのむ。
特にチョウジたち里の人たちは、自分達の姫様が俺に頭を下げたことが信じられないという顔をしている。
「あ・・・桃子・・・さ・・・ん?」
「その、手紙に書かれていることが本当なら、玄人さんがこの世界に来たのって・・・これって・・・私のせいじゃないですかっ! それに今まで何人も何人も・・・中には亡くなった人だって・・・」
桃子はそう言うと涙を流しながら泣き崩れてしまった。
ルージュとアマリージョは、なんとなく意味を察したのか、二人で無言のまま隣に座って桃子をそっと抱きしめた。
「あっ・・・いや・・・まぁそう言われたら、そうなのかも知れないけど・・・誰のせいというか・・・いいんじゃない? 正直、そういうこと考えないでさ」
俺がそう言うと、そんな訳にはいかないとばかり、桃子が真っ赤に腫らした目で俺を睨んだ。
「なんていうか分からないけど・・・俺も最初はいろいろ考えたよ。目の前で人も死んじゃったしさ・・・俺も考えた・・・考えたけど・・・すぐに行き着いた答えは、みんなを連れて帰りたい・・・だった。そりゃあ死んじゃった人対しては・・・まぁなんとも言えないけど・・・でも桃子さんは今、俺たちと一緒に、みんなで帰るために旅をしている訳だし・・・そもそも桃子さんは綾小路さんの実験で飛ばされた訳じゃない訳でしょ」
「・・・ええ・・・そうですね。私の方が先でしたから・・・」
「だとすると、この手紙にある実験とやらが、本当に被害者を生み出していたか結構疑問でもあるとと思うんだよね。そもそも万全を期したはずの本番は、失敗して過去に飛んじゃってる訳なんだから。本番が過去に行き失敗、度重なる実験だけが成功してこの世界のこの時間に転移っていうのは・・・全て辻褄が合いそうで一つ歯車がズレている気もするんだよ」
「・・・ま、まぁそう言われると・・・そうかも知れないですけど・・・」
「この綾小路さんたちが桃子さんを追って来たのは事実。そのせいで迷惑を被った人がいるのも事実だと思う。でも、転移についてはヒカリとも何度も話をしたけど、悪魔がいる世界からこの世界が侵略を受けているとして、なんで地球とこの世界はこんなにも何度も繋がりを持っていると思う?」
「・・・」
「ヒカリは、この事について、恐らく悪魔はこの世界だけでなく、俺たちが住んでいた世界にもコンタクトを取っていたんじゃないかって分析してる。この世界と俺たちの世界。二つの共通点は悪魔による侵略を受けている事じゃないかって。そしてそれらは全て、誰かが意図的に操作しているんじゃなかって。そうじゃなければ何度も一方通行で、この世界ばかりに転移してくるのは不自然だし、逆にこの世界から地球に転移が少ないのは不自然だって」
「・・・まぁそう言われれば・・・そうですけど・・・でも・・・」
「だよね・・・死んじゃった人もいるのは分かる。だから言いたいことも何となく分かる・・・でもヒカリは、何ヶ月か前にこう結論付けていた。悪魔による侵略はこの世界と地球と両方で起こっている。そして侵略の順番はこの世界が一番目で、地球が二番目なんじゃないかと。一方で、この世界の歴史を辿るならば、元々魔素がなかったこの世界に聖大樹が生まれたおかげで、魔素が星を満たしたとあるんだよ。悪魔の侵略の目的が魔素を含んだ人間だとすると・・・つまりこの星を侵略した後、悪魔達は地球にも聖大樹を植える計画ではないか・・・と」
「・・・それって・・・」
「そう。俺たちは悪魔の食糧じゃないかって話。それにもっと言えば、悪魔は地球侵略のための前段階として、俺たち人間が魔素の世界にどれだけ順応して、どれだけの食糧になり得るのかを、この世界に転移させることで、実験をしているじゃないかと・・・そういうことだよ」
「・・・順応・・・食糧・・・実験? 悪魔が?」
「そう。綾小路さんは、この世界に桃子を追ってきたのは確かだよ。でも、もしかして悪魔に目を付けられた状態で実験を行っていたとすると?」
「・・・っ!」
「おそらく転移の装置はよく出来てたんだと思う。でもそこには魔素という概念がなかったからそもそもは使えない装置だった。でも悪魔が便利だからその装置を利用して実験を行なうために手を貸していたとすると・・・」
「・・・それって!?・・・」
「そう、仲間の中か、近しい所にいたんだろうね悪魔が。それなら綾小路さんが実験を重ねる度にだんだんと規模が大きくなった理由も説明がつくし、最後の最後で、口封じに過去に飛ばされたと考えるなら」
「それなら私たち家族が転移したのは地球にいた悪魔の仕業で・・・綾小路さんはたまたま利用されただけ・・・」
「そう考えるのが自然かな・・・って話。だから、桃子のやることは熱狂的なファンである足軽たちが、やってしまった事について謝罪や後悔をするんじゃなくて・・・」
「私の大事なファンたちを利用した悪魔たちに復讐してやること! そうなんですね!」
「ん? あっ・・・まぁそうかな・・・」
――本当はほかの地球人達を助けようっていうつもりだったんだけど・・・
「分かりました! 真実がどうであれ、私も悪魔が全くの無関係だとは思えません。決めました! 旅を続けてこの世界を守ります! そして悪魔達に復讐を! 全員見つけ出して皆殺しにしてやりますっ!」
「あ、あの桃子さ・・ん?」
「よく言ったわ、桃子! 私も同じ考えよ! よく分からないけど全員たたき切ってやるわ!」
「はい! 姉さん! 桃子さん! 目にもの見せてやりましょう!」
「きゃはははははっ、じゃみんな、キノコでパワーアップしましょっ」
――よく分かんないけど桃子が元気になったならいいか・・・そしてキノコでパワーアップはしない
その後、俺は妙に気合いの入った女子達とともに、部屋に置かれたパソコンやファイル、木箱の中身などを丁寧に漁るのだった。




