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幕間-11 「テスターと眷属の卵」

「おい、見つかったか! ちゃんと探せよ!」


 帝国がヒカリの自爆によって跡形も無く吹き飛んだ後、クリチュート騎士団の副団長のテスターは、本隊と別れて帝都があった場所へと来ていた。

 団長には、あの忌々しいエンハンブレの言っていたことが本当かどうか確かめてくる。ついでに生存者がいればその救出も行うと言って、信頼出来る部下数名を連れてきていた。


「しかし、見事に跡形も無く吹き飛んでたな・・・少し大きめのクレーターが出来るほどの爆発ってなんだよ。しかもこんな・・・瓦礫すらほとんど残っていないとは思わなかったな」

 テスターが一人、帝都の惨状を見ながら呟くと、後ろから自分を呼ぶ声がした。


「テスター様! 見つけましたぁ!」


 テスターは、その声を聞くと重たい鎧をその場に脱ぎ捨てて、呼ばれた方へと走った。


「はぁ、はぁ・・・で? どれだ?」

「こちらになります。テスター様」

 テスターの部下である一人の男が、そう言って手に持っていた卵のようなものをテスターに見せた。


「おぉ、確かにこれだな・・・親父に聞いていた色、形・・・間違いないな」

「それは良かったです。探した甲斐がありました」

「そうか・・・お前のことは親父にも伝えておいてやろう。しかし、この色・・・恐らくこれは睡眠の方だな・・・おい! お前達、あともう一つ、これと同じような物が落ちているはずだ・・・急いで探せよ!」

「「「「「「「「「はっ! 直ちに!!」」」」」」」」」


 テスターは部下達に、引き続き卵を探すように命じると部下達は一斉に這いつくばって探し始めた。

 テスターは部下から受け取った卵のようなものをしばし見つめた後、持っていた小さい道具袋の中に丁寧に入れた。


 しかしこんなものがあるなんて・・・親父殿は一体何をしたいのだろうか。


 俺自身、枢機卿である親父に、計画の深いことを聞いていない。



 いや・・・以前親父は、この世界に自分達の手で厄災を復活させ、それを教会が退治することで、教会の威厳を世界に示したい・・・とか言っていたのは聞いた事がある。

 その為に、あの女の力が必要だとも。


 しかし最近、俺は親父がそのことに関して、嘘をついているのではないかとも思い始めている。


 そもそも、本当に厄災を復活させる気なら、眷属を退治せずに放っていけばいい話だし、いちいち俺たちが退治に向かわなきゃいいだけの話なのだ。

 なのに、親父は眷属の討伐に関しては、しつこいくらいに俺に出向くように言い、実際出向いた後は、団長に隠れて後始末と卵探しをするようにも言ってくるのだ。


 そもそも、今やっている事は誰のためのことなのか?


 親父の話によれば、眷属が死ぬと、死んだ直後から3日のうちに小さな卵形の物体が作られるという。

 その卵を、俺はこれまでに世界中で4個拾い集めた。

 いや、さきほど見つかったのを合わせて5個・・・そして、今探しているものが見つかれば全部で6個目だ。


 状況から考えると、この卵は十中八九、眷属が死んだ際に遺した物だ。

 卵によって色が微妙に違うため、どれがどの眷属が遺した物か、親父には分かっているらしい。

 眷属は全部で7種。

・・・だとすると卵も7種。

 今、6個目の卵が手に入ろうとしている。

 7個集めると何が起るのか・・・


 単純に厄災が復活するのだろうか・・・

 どんな願いも叶えてくれる龍が出てくる・・・なんて事はないだろう。


 いずれにしても7個集めたときには分かる。

 親父が何を考えて、何をしようとしているのかも・・・


     ♣ 


「テスター様! もう一つ、みつかりました!」

 100メートルくらい先から部下が俺を呼んだ。


 俺は急いで駆け寄って部下から卵を受け取る。

 確かに探していた物に間違いはない。

 これで6個目が揃ったということだ。


「よし全員に一旦休憩を取らせろ。30分ほどで移動するからな」

 部下に指示を出した後、俺は6個目の卵を見つめながら、ふと考える。


 本当に俺は誰のために何の仕事をしているだろうか。

 俺は、このまま親父の命令だけを聞き、一生を終えてしまうのだろうか・・・

 最近はそんな不安ばかり頭をよぎる・・・。


 時々俺は、自由に振る舞っている、あのエンハンブレとか言う冒険者たちが羨ましくなる。

 あの女も、あいつらといるときは楽しそうにしているのも気に入らない。

 本当にムカツク奴らだ。


 いつか、あいつらを・・・

 特にヘラヘラしていたあのクロードとか言う男は・・・思いっきり恥をかかせた上で、俺の前にひれ伏させ、最後に苦しませながらぶっ殺してやりたい。

 

 俺はもっと・・・親父よりも優秀な人間のはずだ。

 決して親父の操り人形では無い。

 親父より権力を持ち、親父よりも偉くなり、教会を従えて、世界を跪かせる存在なのだ。


 女たちを従えて、俺だけの言うことだけに従うように教育してやる。

 男たちは全員奴隷にし、俺のための一生働かせる。


 そう、俺は誰よりも出来る人間で、誰よりも優れた人間なのだ。


 俺には誰も文句は言わせない。

 俺を誰もバカには出来ない。

 俺は誰とも比べられない。

 俺は世界で唯一、世界を統べる能力を持った男だ。

 そうなのだ・・・

 ・・・そうあるべきなのだ。


     ♣


 そんな事を考えていると、手に持っていた卵が一瞬光ったような気がした。

 卵を見ると、色が少し抜けて白くなっているように見えたが、大きな変化は見当たらなかった。


 気のせいだろうと思うことにし、卵をそのまま袋の中へ入れた。


 卵を袋に入れてから周囲を見渡すと、部下達が集まってきた。

 集まった部下達は、口々に卵を2つ回収出来たことを喜んでいた。


 俺も悪い気はしないので、部下の喜ぶ様子を眺めていた。

 そして部下の一人が言った。

「これで枢機卿もきっとお喜びになりますよ」

 それは俺と、俺の親父に気を遣った何気ない言葉だった。


・・・が、俺にはそうは聞こえなかった。

「誰が親父のために働いている人形だって? 俺は俺のやりたいようにやっているだけだ!」

 自分でもよく分からないが、自分を飛び越えて親父の事を口にした部下に頭が来て、気がついたらそう叫んでいた。


 頭に血が上り、全身に力が入り、プルプルと震える。


 みるみるうちに顔が赤くなっていくのが分かる。


 そして、呼吸もままならなくなり、頭の中で何かが切れた音がして、目の前が真っ白になった。


    ♣


 目を開けて初めて気付いた。

 どうやら俺は気を失っていたようだ


 日もすっかりと落ち、辺り一面、真っ暗になっていた。


 部下達は、火も焚かずに一体何をしているのだ。


 仮にも気を失っている俺に、身体が冷えないように、ブランケットのようなものをかけておくような気遣いが出来る部下はいないのだろうか。


 俺はそんなことを考えながら月の明かりを頼りに、立ち上がり周囲を見回してみた。

 部下も呼んでみるが、返事が無い。


 再度、大声を張り上げながら、一歩、二歩・・・と歩いてみる。

 足に金属がぶつかった感触があった。


・・・盾だ。

 手にとって見ると騎士団が持つ専用の盾だった。


 体勢を低くして、目を凝らし、盾が落ちていた周辺をよく観察する。


・・・すぐ側には、部下が脱ぎ捨てたであろう鎧もあった。

 盾をその場に置き、鎧を拾い上げる。


 拾い上げた鎧の中から「ボトッ」と音を立てて何かが地面に落ちた。

 落ちた物をゆっくりと拾い上げてみる。


・・・部下の頭だ


 俺は意味も分からぬ恐怖に、全身が震え、叫び声をあげながら頭を放り投げた。


 頭が落ちた先には、他にもいろいろなものが転がっているのが見えた。


 月夜の明かりにもようやく目が馴れてきたみたいだ。

 俺はその場にしゃがみ込み、目を凝らして転がっている物体を凝視した。


・・・そこにあったのは部下たちの死体だった。


 全員、鎧からはみ出した状態で、身体がバラバラになっていた。

 一体何が起ったというのだろうか・・・


 死体を確認すると・・・部下達はどうやら魔物か野犬にでも喰われたかのような痕があった。


 手がない者。

 足がない者。

 よくよく見れば辺り一面、血の色に染まっていた。


「なんなんだ、これは・・・一体何に襲われ、喰われたというのだ・・・」

 俺は周囲の状況を全く理解出来ずに、ただその場に座り込むしかなかった。


 こんな場所まで、親父の言うことを聞いて来なければ良かった。

 頭の中の思考が追いつかず、口からは責任転嫁の言葉と愚痴しか出てこない。


・・・気がついたら夜が明けていた。


 周囲を改めて確認する。

 目の前の惨状は昨日、暗い中で想像した通りのものだった。

 もう恐怖の感情すら出てこなかった。

 何も考えたくもない。


 早くこの現実からは逃げたかった。

 どうして、俺がこんな目に遭うのか・・・そんなことは、もうどうでもよかった。

 どうして、俺が生き残っているか・・・それもどうでもよかった。

 どうして、俺の剣が血だらけになっているのか・・・それも・・・・

 どうして、俺は全身に返り血を浴びているのか・・・

 どうして、俺の口の周りは血だらけなのか・・・

 どうして俺の口の中に、人の爪が残っていたのか・・・


・・・もう、どうでもいい。もう助けもいらない・・・みんなムカツク・・・今はもうそれだけだ。

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