163話 スマホの色はピンク
天幕の下・・・簡易的な折りたたみの机を挟み、俺たちとクリチュート騎士団とに別れて座る。ヴェールはあちら側だ。
とりあえず、馬車で寝ているマリーの誘拐の件から説明をする。
誘拐の疑惑があり帝都に侵入、そこでマリーを発見し、帝国軍と戦闘になったと・・・それから王であるゲルドは【虚栄】の眷属であり、帝国領に隠されていた【睡眠】の眷属ともに討伐したこと。
その際に怪魔虫により、領民を含めた全ての人が死亡したことを伝えた。
一応、桃子たちのことは黙っていた。
彼女たちは馬車の中でマリーの面倒を見ているため、騎士団の目に触れることも無いし、生き残った事を言えば嫌でも注目を浴びてしまうことにもなってしまうからだ。
こちらからの報告が終わるとジェラルドがいくつか質問をしてきた。
内容は戦闘に関する事とゲルドの事だった。
やはりそこは教会の騎士団、眷属に関することは特に報告が必要なのだろう。
「では、私たちはマリー様を王都まで送り届けなければなりませんので・・・」
質問も出なくなってきたため、そろそろ終わりにしようと、ウルフが立ち上がりながら帰ろうとする。 俺たちもそれに続く。
「ちょっと待て! 俺からも確認だ。帝都で生き残った者は本当にいないのか?」
半分立ち上がったところで、テスターがウルフを見ながら聞いてきた。
「はい。誰もいないと思います。我々も眷属を倒した後は、一刻も早くマリー様を送り届けることが任務でしたので・・・正直、生存者の確認まではしておりませんでしたが・・・」
ウルフが立ったまま、答える。
「そうか・・・分かった」
テスターがなんとなく笑ったように見えた。
「えーと、ウルフさんだったね。私たちも元々は王都まで行く道のり。途中で方向を変えてここまで来てしまったが、もしよければ一緒に王都まで同行してもらえないだろうか?」
ジェラルドは、意図は分からないが俺たちに一緒に王都に向かうようお願いをしてきた。
「同行・・・ですか?」
ウルフが怪訝そうな顔をした。
「いやいや・・・別に他意はないんだ。ただ聖女様がそこのエンハンブレの面々とは親しくしているのでな・・・今回はかなりの長旅で疲れてもいらっしゃる様子。良い気分転換になればと思っただけだ」
「団長・・・私は別に・・・」
ジェラルドの思わぬ要請に、ヴェールが恐縮していた。
「・・・そうなのですか?」
ウルフは恐縮するヴェールを見たあと、俺たちに助けを求めた。
「まぁ、そうね。じゃあ、私らの馬車の方が早いし快適だから。ヴェー・・・聖女様はうちらと一緒に乗っていけばいいんじゃない? で騎士団は後からついてくれば解決よ」
ルージュが身も蓋もない言い方で、ヴェールを馬車に誘った。
「そちらの馬車に・・・・ですか・・・どう思う? テスター」
「私は、どちらでも結構ですよ。それに私は部下を連れて帝都に生存者がいないか見てくるつもりですので。そっちの馬車がいいと仰るなら勝手に乗ればいいかと」
テスターは相変わらずだった。
自分のやりたいことを最優先。
婚約者であるはずのヴェールの事は二の次。
でもなんで、爆発後の帝都を見に行きたいのだろうか?
あの性格からして、とても生存者を見つけたいなんてのは嘘っぽいが・・・
気にしすぎかな。
とにかく、俺たちは王都へ急ぐことになった。
ヴェールも乗せて馬車が走り出す。
最後にテスターがいないところで、先に王都へと向かって良いかジェラルドに確認したところ、ヴェールの護衛を条件に許可が出た。
なんだかんだ言って、ジェラルドはテスターに気を遣っているだけで、ヴェールの数少ない味方なのだ。
それに事の顛末は既に話しているし、聖女の肩書きを持つヴェールが王様に説明してくれる事になれば、こんなにも心強いことはない訳で・・・
でも、そんな思惑なのは俺だけのようで・・・
ルージュとアマリージョは、懐かしいチームメイトとの再会をただ喜んでいた。
♣
「さあ、ヴェール。こっちの黒い服の人たちはさっき紹介したわね。後は、帝国で助けた桃子とその弟と妹ね」
「初めまして。私はヴェール・・・・シスター・ヴェールです。内緒なんですが、私もエンハンブレの一員です」
ヴェールはそう言いながら桃子に自分の携帯を取り出して見せた。
「え? す、スマホ? この世界にもあったの?・・・・・って興奮してすみません・・・笹木桃子です、こっちがアキラで、こっちが智美です」
桃子は、ヴェールが手に持つ緑の携帯に目が釘付けになりながら、自己紹介を済ませた。
「すまほ・・・とは?」
「あ、スマホってのは携帯の別の呼び方・・・みたいな感じ?」
携帯を見せびらかしたヴェールが、逆に余計な質問をする前に、俺が軽くフォローを入れた。
「でも、知らなかったです。この世界にも携帯電話が存在してたなんて・・・」
桃子がなんとなく俺をチラチラと見ながら言う。
「あー・・・あるよ。ヒカリが制作していた残り・・・桃子さんも良かったら使ってみる?」
ここまで話しておいて、携帯は持っていないと嘘をつくのも何だし・・・ちょっと気を遣ってみた。
『――玄人、桃子さんにもちゃんと一つ差し上げて下さい。きっと喜びますし。必要ならアプリも動かせるようにしておきますので・・・』
――そりゃあ良かった。でも桃子さんのだけ至れり尽くせりって感じ・・・
『――そりゃそうですよ。渡り人を集めて日本へ帰る。そのためには渡り人を集めなきゃ行けない。そういう意味では桃子さんは渡り人の希望となり得る存在。大切にしたいのは当然と・・・理解してほしいものです』
その後、全員の自己紹介も終わり、あれこれと近況についても報告し合う。
そして馬車が走り始めて30分くらいが経った頃。
俺は馬車内の奥にあった樽から携帯電話を数台取り出し、机の上に並べながら「桃子さん、取りあえず一台プレゼントするから好きなもの選んでよ」と言うと、桃子はかなり興奮して喜んでいた。
・・・桃子の決断は早かった。
1分も経たずにピンク色の携帯を選んでいた。
やっぱりアイドルはピンクだね。
そんな事を考えながら、俺たちはスマホの使い方についてあれこれとレクチャーするのだった。
ちなみに、特殊任務隊に貸し出した携帯は既に回収していた。
そのせいかどうかは分からないが、彼らは携帯を貰って浮かれている桃子の様子を何も言わずにじっと見つめていた。




