16話 反省
洞窟に戻り、リュックを置く。
湧き水の入ったペットボルトを持ってきて、とりあえず外で傷を洗うことにした。
服を脱ぎ、左腕の傷口に湧き水をかける。
「うぎゃぁぁぁぁ いだだだだだ・・・・スゲーしみるぅ・・・って、なんで?」
湧き水をかけた傷口を見るとうっすらと白い煙が出ていた。
痛いことには変わりはないが、煙が出ている部分は、傷口が少しふさがり出血が少し治った。
ほかの傷口にもかけてみる。
やはり、白い煙が出て出血が少し治った。
左腕のひどい出血がだいたい止まったところで、右手の包丁傷にも湧き水をかけた。
痛みが和らぎ、出血が止まる。
しかし白い煙は出なかった。
――これはどういう事なんだろうか
煙のこともそうだが、異世界の湧き水には傷を癒やす効果があるのだろうか。
それともツヤツヤの木の根っこから汲んだ水だから特別なのか。
だとすると、ツヤツヤの木は異世界でも特別な存在なのだろう。
考えても正直よくわからない。
でも、湧き水が治療に使えるならその事実だけは有り難い。
左腕をタオルで巻いて、血が滲んできても垂れないようにする。
そして巻いたタオルの上から湧き水をかけて濡らしておく。
「これで少しはマシかな。痛みだけでも軽くなればいいんだけど。後は化膿しなければ・・・」
とりあえず止血も出来たので、湧き水を飲みながらヒカリに話しかけてみる。
「油断してたよ。なんか死にかけちゃって申し訳なかった。油断するなって何度も言われてたのに」
痛みを我慢しながら、明るく精一杯強がってみた。
『・・・・・・』
「もしかして怒ってる?」
『・・・・・・』
「ごめん・・調子のっちゃって。せっかく助けてくれた命なのに、無駄にするところだった・・・」
ずっと強がれるほど強くはない。
素直に本音で謝罪した。
ヒカリからの反応も無く、少し涙が出てきた。
『・・・お待たせしました。解析が終了しました』
「ん?」
『先ほどの魔物の解析が終了しましたので、仮説ではありますが魔物について報告を行ってもよろしいですか』
「あ、あぁ、怪我は・・・」
強がりからの反省・・・そして涙・・・俺の気持ちはどこへ・・・
『怪我につきましても、いくつかの提案がございます。合わせて報告致します』
「あ、あぁ」
心配してるかと思ったけど、そういうところは機械っぽいな。
クールというか、なんというか・・・ちょっと寂しい
「とりあえず、怪我のことは後にして、魔物について何が分かったの?」
痛みが和らぐので、左手のタオルに湧き水をかけながら聞いた。
『魔物について、邪悪なものとそうでないがいると説明致しましたが、説明が不足していました。何分ブルードラゴンの知識が元になっていましたので、アバウトな説明といいますか、全てブルードラゴンが考える世界観だったという訳です』
「人間側から見ると、解釈が変わるってこと?」
『ざっくり言いますとそういう事です。元々、この世界も魔法が存在する弱肉強食の世界と申し上げたのですが、弱肉強食という部分は完全にブルードラゴンから見た世界観でした』
「今は違うの?」
『はい。人間に出会っていないので正確には分かりかねますが、少なくとも魔物は2種類存在し、弱肉強食の面もあれば、共存共栄という面もあるという事です』
「その違いが、今回分かった魔物の特徴って事か・・・」
『その通りです』
「それって、前に聞いた邪悪とそうじゃない奴のこと?」
『はい。もう少し細かく言いますと、魔石を食べたか何かで体内に取り込んで魔物になる生き物と、魔石そのものから生まれる魔物の違いです。魔石を体内に取り込んで魔物になる生き物は、元々ある身体に魔石を取り入れることで同化し、魔物に変化するケースです。当然、魔石と同化するわけですから、身体能力は元の何倍にもなり、いろいろな能力、または魔法も使えるようになると思われます。この場合は元の生物の特徴がそのまま反映されるため、元々が穏やかであれば、穏やかな魔物に、臆病な生き物であれば、臆病な魔物になると思われます』
「ヒカリみたいなケースってこと?」
『その通りです。同化はしていますが人間を襲いたいとは思いません。また、最初に出会ったウサギの魔物も、魔石を体内に取り入れたケースと思われます』
「それで逃げたのか・・・。っていうことは?」
『お気づきの通り今日出会ったネズミの魔物は、高い確率で魔石そのものから生まれた魔物です。そのため目が赤く光り、凶暴だったと推測されます』
「だから死んだ後に魔石だけ残っていたのか・・・」
『その通りです。ここからは仮定になりますが、ウサギの魔物を倒すと、元のウサギそのものと魔石の両方が手に入ると思われます』
「そうか・・・つまりブルードラゴン的には、邪悪な奴が魔石生まれで、そうじゃないのが魔石喰いだったってこと?」
『そうですね。それだと説明がつきますので』
「でもそうすると、魔石から生まれるのに、なんでわざわざネズミになったんだろう。もっと邪悪で強い魔物はいくらでもいそうなのに」
『そこはまだ、不明な点の一つです。しかし、一番確率が高い可能性としては、まず大きさについては、魔石が小さいため、あのサイズが限界だったと思われます。そして姿ですが、これはおそらくあの周辺で死んだ魂や怨念のようなものが、魔素と結びつき魔石化、そして魔物に変異したのかと。ここからは推測になりますが、魔石から魔物になると言っても、そこには何らかの意思や思念が必要だと考えられます。そうでないと、生まれた後の行動に説明がつきませんので。つまり、魔素から魔石は簡単に作れる。しかし魔石から魔物になるには、その条件として、意思や思念を持った魂や怨念といったようなものが必要なのではと思われます』
「そうだとすると、邪悪な魔物に欲望があるって話も、ある意味当たりで納得がいくかも」
『私も一応、魔物ですから、当たらずも遠からずと言ったところだと思います』
「それとは別に、ウサギとネズミの魔素の感じが違うとか言ってたよね?」
『出会って倒すまでは確信が持てませんでした。でも、今はその違いについてハッキリと認識出来ています』
「そうなんだ。なんとなく分かった。じゃ次からは区別して対応できるってことか。でも、この怪我じゃ次があるかは分かんないけど・・・」
『・・・・申し訳ありませんでした』
ヒカリが急に謝ってきた。
「なにが?」
『ネズミに襲われたとき何も出来ませんでした。それに、もっと魔素について、検討を重ねておくべきでした。玄人さんが怪我をしてしまったのは、私のミスでもあります』
「パソコンなのに、もしてかして心配してるの?」
『はい。感情があるわけではありませんが、悲しいという気持ちはこういうものだと思っています』
「言うことを聞かなかったから、怒って話さなかったんじゃなかったのか」
『悲しい時の表現方法が分からず、話すことが出来ませんでした』
意外と人間らしいところもあるんだな。
「そうか。ありがとう。そう思ってくれて感謝するよ」
『・・・・・』
ヒカリが、いろいろ心配してくれるのは有り難い。
それに感情を理解しようとしていると言うより、むしろ感情が芽生えているような気もする。
これが、いい事なのかは分からない。
でも、自分が出来ることはほとんどない。
だから今はこのままでいい。
そう思うようにしようと思う。
だって仕方ないんだから。
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