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137話 盾の女の子

 熊の魔物がものすごい勢いで襲いかかる。

 3人のおっさんが子供たちを庇うように前に出て、その前には大剣の男。

 そして、更に前、一番先頭に盾を持った女の子が出てきた。


 飛び込んで来た熊を、女の子は盾一枚で上手く躱す。

 次々に振り下ろされる爪の攻撃を、ボロボロの盾で防ぐ。

 攻撃の力をこれ以上ないタイミングで上手く殺しながら躱していく。


 時々、後ろのおっさんから槍が突き出される。

 大剣の男は・・・どうやら大きな剣は盾の代わりらしい。

 まっすぐ地面に突き刺したまま動こうとはしない・・・ん? 震えてるのか?


「何あの子、凄いわね!」

「信じられません。熊の攻撃を上手く流しています。ほんと・・・凄いですね」

「あのまま五分間、耐えれるといいけど・・・」

 興奮したルージュとアマリージョに続いて、俺も祈るような気持ちで答える。


「そうね。槍の攻撃もかすり傷にもならないし、あのまま耐える気ね。よし、そのまま頑張りなさーい!」

 ルージュは賭けてない試合も熱く楽しめるタイプのようだ。


 試合の方はといえば、熊の魔物がだんだんとイラついてきているようで、大振りではあるで、更に強烈な一撃を次々と繰り出している。


 盾の女の子は、それでも必死に盾一つで耐えていく。


 時間が経つごとに、観客から罵声と歓声が乱れ飛ぶ。

 残り時間は1分。

 あと1分で全員生き残る。


 このままなら、なんとかいけそうだ。


 そう思った時、ヒカリから通信が入った。

『――玄人(クロード)、ちょっとよろしいですか? お話があります。あの盾を持っている女の子のことなのですが』


――ああ、凄いね、あの子・・・魔物の攻撃を上手く防いでいるよ。盾の角度を調整することで、ダメージを完全に受け流してる。

 俺も声には出さず、通信で答える。


『――ええ、それはそうなのですが』


――ん? どうしたの? 何かまずい事でも?


『――あ、いえ。一応お知らせした方がと思いまして。彼女、渡り人です』


「は!?渡り・・人ってほんとに?」

 予想外の言葉に思わず驚いて大声を出してしまったが、周囲の歓声に声がかき消されて誰にも聞こえてはいなかった。


――それ、ほんと?


『――はい。魔素の感じからして間違いありません。こちらの世界に来て、かなり時間が経過しているようです。おそらくはこの半年〜数年といったところでしょう』


――マジか・・・


『――まだ、玄人(クロード)にしか話していませんが、いかが致しましょう?』


――いかがするも何も・・・とりあえずは話をしてみたいけど・・・うーん、あっ、そうだ、彼女を買おう!


『――了解です。では試合が終わってから・・・今、終わりましたね。では急いで買いに行きましょうか?』


――あ、でもルージュたちには何て言おうか・・・それにそもそも買う金がない。


『――ルージュたちには、ちゃんと説明をした方が良いですね。我々の事情も分かってることですし。ただ、マリーの件も優先しなければなりませんので』


――分かってるけど・・・じゃあどうしようか・・・あ、全員生き残ったのはいいけど、終わったから帰っていくよ・・・仕方ない。とりあえず俺とヒカリで先に行こう。ルージュたちには事情がもう少し分かったら、合流してもらおう。


『――分かりました。では、私から事情を説明しておきますので、急ぎましょう』


「えーと、2人ともいい? 俺たちちょっと先に行くけど、2人はここで待ってて貰っていい? 事情はヒカリが後で説明するから」


「ん? 何? トイレ?」

「はい。大丈夫ですよ」

 俺とヒカリは、ルージュとアマリージョをその場に残し、闘技場奥の奴隷買い取り窓口に急ぐのだった。


     ♣


「これはこれは、ようこそおいで下さいました。私は奴隷商のポスコと申します。本日は奴隷をお探しで? それともお買い取りでしょうか?」

 奴隷商の受付窓口にいたポスコと名乗る中年男が、腰を低くし、作り笑顔で丁寧に聞いてきた。


『えーと、買い付けをしようかと思いまして。試合を見て気になった者もいましたし、よければいろいろ見せては貰えないでしょうか?』

 ヒカリは一瞬俺を見て頷いたあと、一歩前に出てポスコに話しかけた。


「奴隷のご要望はございますか? 目的別でも、種類別でも取り揃えがございますよ」


『とりあえず戦闘に使える者と、あとは身の回り世話が出来るような者が欲しいと考えています』


――身の回り?

『――その方が怪しまれず、広範囲を見て回れると思いましたので』

――なるほど


「それで? 戦闘に使えるものは魔物に致しますか? それとも戦闘力は落ちますが人間の方がお好みでしょうか?」


『人間の奴隷でお願いします。それと出来たら先ほど試合に出ていた、盾を持った少女も見せて貰えますか?』


「盾? あぁ・・・アウリーンのことですね。しかし、彼女は戦闘用と奴隷としてはやめておいた方が良いと思いますよ」

 ポスコは少し考えあとそう答えると、眉間にシワを寄せたまま作り笑顔を浮かべていた。


――渡り人なのにアウリーン? 外国の子だったのかな。ヒカリは渡り人とは言ったけど、日本人だと言ってたわけじゃないし。

 しかし、この奴隷商・・・奴隷を販売しているくせに、やめた方がいいなんて・・・一種の交渉術だろうか? それともただ単にアホな親切な人なのだろうか?


 俺はそんなことを考えながら、今後の交渉は全てヒカリに委ねることを誓うのだった。



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