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115話 マリアナ・デール・ブルクハント

『どうも様子がおかしいですね』


「何? 何か変なの?」

 馬のスピードが上がり、手綱を持っていても下手をすると振り落とされそうだったので、御者台に掴まりながら、ヒカリに聞いた。


『はい。それが襲っているのは魔物だと思うのですが、数がどうも』


「数? もう何人か殺されたってこと?」


『どうやら殺された人間が魔物に変化しているようです。30人以上いた人間が、今はもう20人、代わりに10体魔物が増えています』


「何それ。着いた頃には全員魔物になってるんじゃないの?」


『否定は出来ません』

 何が起きているかはヒカリも分からないようで、黙って何かを考えているようだった。


「うぅーん」

「何?どうしたの? 何か問題?」

 ルージュとアマリージョが起きてきて、御者台にいた、俺とヒカリに話しかけてきた。


「2人とも大丈夫?」

 俺は更に激しく揺れる馬車から落ちないようにしがみつきながら、後ろを振り返りながら聞いた。


「外の方はやっぱり揺れてるのね。中はほとんど揺れを感じないから大丈夫よ」

「姉さん、そのことじゃなくて・・・」


「ええ、わかってるわよ。ヒカリも、クロードも心配かけて悪かったわね」

 ルージュがいつになく、しおらしく頭を下げて言った。


「大丈夫ならいいよ、それより今は・・・」

『この先で人が魔物に襲われているようなので、今助けに向かっています』


「そうだったのね。寝起きの運動には丁度いいかも」


『ですが、今回の魔物は人間を魔物に変える力があるようですので、事情が分かるまではお二人とも待機しておいて下さい』

 ヒカリの中では大まかな推測と結論が出たようだった。


「そうなの? せっかく戦えるかと思ったのに」


『それは申し訳ありませんでした』


「いいの、いいの。でも必要になったらちゃんと声かけてよ」


『それはもちろん』


     ♣


「・・・ヒカリ、あれじゃない?馬車が6台並んでるし」


『あれですね。残ってる生存者は、3台目の馬車の中に2名。それと馬車を守っている6名だけのようです』


「じゃあそれ以外は敵? 同じ人間に見えるけど」


『人の形をしていますが、人間ではありません。まずは私がまっすぐ突っ込みますから、玄人(クロード)は敵の牽制を。ルージュとアマリは、馬車を守って下さい』


「わかった。アマリ、手綱をお願い」

 俺はそう言って馬車から飛び降り、手前にいた人型の魔物の目掛けて銃を乱射した。


 手前にいた3体の魔物が銃弾を頭に受けて、崩れ落ちる。

 倒れた死体をよく見ると、人間の形はしているが、頭にはツノらしきものが生え、顔は青く、血管がボコボコと浮き出ていて、人とは思えない顔をしていた。


 後ろを振り返るとアマリージョは御者台の上に立ち、馬車の周囲に防御用の風魔法を展開し、ルージュはいつのまにか馬車から降りて、馬の前に立っていた。


「ヒカリ!」


『はい。行きます!』


 ヒカリが俺たちの準備を確認してから、まっすぐ目的の馬車まで突っ込んでいった。

 ヒカリに手が届きそうな魔物を銃で牽制する。


「え!?」

 ヒカリを援護するために銃を放った瞬間、複数の魔物がもの凄いスピードで10メートル程、俺たちとは逆の方へ跳んだ。


「何なの今の動き!?」

「クロードさん!! ヒカリさん!!」

 俺の後ろからルージュとアマリージョの声が聞こえた。


『大丈夫です。それより、お陰で敵との距離がとれました。アマリ、馬車をこちらまで!全員で守りを固めましょう!』

 俺たちはヒカリの指示で馬車ごと前進し、襲われていた人達の元へ急いで集まった。


『大丈夫でしたか?』

 ヒカリが馬車の前にいた6人の護衛らしき男に話しかけた。


 真ん中にいた男が一歩前出る。

 その男は長身で白髪、身なりの良い執事の格好であったが、剣を持つ姿がやけに似合っていた。


「これは危ないところを・・・ご助力に感謝致します。きちんとお名乗りし、御礼を申し上げたいところなのですが、今は・・・」

 白髪の男はそう言うと、持っていた剣を構え直し、馬車の横にいたルージュとアマリージョ目掛けて飛びかかった。


「「「!!!」」」

 刹那、ルージュとアマリージョが、戦闘態勢に入る。

 モンローの教えのお陰なのか、戦闘態勢に入るまでの時間が恐ろしく素早くなっている。

 魔素の流れも比べものにならないくらいスムーズ。

 アマリージョがさらに防御魔法を展開し、ルージュの剣が真っ赤な炎に包まれていく。


「失礼、お嬢様方、伏せて頂けますか」

 一瞬、そんな声が聞こえた。


 息を飲み込む。

 白髪の男が剣で何かを切った音がした。


 次に大きく息を吐いた時、ルージュ達はその場にしゃがみこみ、白髪の男は、ルージュ達のはるか後方まで移動していた。


「ル・・・」

 俺は声にもならない声を出した。


「あぁもう! もう少し説明してからにしてよね。危うく斬っちゃうところだったわ」

 ルージュが何事もなかったように起き上がり悪態をつく。


「そうですよ。私もかなりビックリしました。踏み込みと殺気が私達に向けられたものでないことはすぐ分かりましたが、声をかけられなければ私も手が出ていました」


「申し訳ありませんでした。纏っていたオーラが強者でしたので、最低限の合図でご理解頂けるかと。それに・・・」

 そう言って、白髪の男は足下に転がる魔物の死体に目をやった。


 足下に転がる3体の死体。

 それは、俺がさっき銃で撃ち殺したはずの魔物達だった。


「さっき死んだかと思ったんだけど・・・?」

 俺がルージュ達に近づきながら白髪の男に尋ねようとすると、白髪の男はそれを遮って続けた。

「詳しくご説明をしたいところですが、挟み撃ちにしようとしたのが失敗しましたから、一気に来ますよ!」


 白髪の男に言われ後ろを振り返ると、馬車とヒカリ目掛けて、残りの魔物が一斉に飛びかかってくるのが見えた。


 思わず空中を飛ぶ魔物目掛けて、銃を乱射する。

 俺の横をルージュと白髪の男が駆け抜けていく。


「この方たちは、元々私どもが雇った護衛の冒険者なのですが、怪魔虫(かいまちゅう)に侵されてしまいました。倒すには頭を粉々に破壊するか、このように首を切り落とすかしかありません」

 白髪の男はそう言って、一番近くにいた魔物の首を落とした。


「うっ・・・」

 転げ落ちる首を見て、思わず胃が熱くなるのを感じる。

 顔が青く血管が浮き出ていても、元は人間。

 首が切り取られ、地面に落ちる様はやはり気持ち悪かった。


「それと、動きが速い奴は、時々酸を吐いて飛ばしてきますから、それには触れないようにしてください。傷口から卵が侵入し、怪魔虫(かいまちゅう)が身体を乗っ取られてしまいますので」

 白髪の男は、状況が飲み込めていない俺たちに説明をしてくれているようだった。


「かいまちゅう? なにそれ?」

 俺は初めて聞く名前に首をかしげた。

 ふと見るとルージュとアマリージョも同様のようだった。


『了解しました』

 ヒカリだけは分かったように返事をし、襲いかかる魔物たちの首を次々に切り落としていった。


「お見事でございます」

 白髪の男も魔物の首を切り落としながらヒカリを褒めた。


『あなたも良い腕です』

 ヒカリが白髪の男にそう返答を返したときには、最後の一体の首が切り落とされていた後だった。

 

 結局、俺は銃を構えたまま、その場に立っていただけだった。


「一体なんなの? こいつら」

 馬車を引き連れたルージュが、戦闘が終わったのを確認し、近づいてきて言った。


「えー、そのご質問についてお答えする前に・・・しばしお待ちを」

 白髪の男はそう言って、慌てた様子ですぐ後ろの一番豪華な馬車の扉を開けた。


 白髪の男は、そのまま馬車に乗る人物と二、三言葉を交わした後、改めて俺たちの前まで来て頭を下げた。

「まずは、この度は危ないところをご助力頂きましてありがとうございました」


『いえ、私達もたまたま通りかかっただけですので』


「お気遣い感謝いたします。私の名前はマジョルドーモ。訳あって名前は明かせませぬが、さるお方の執事をしておりまして、この御礼は・・・」


「マジョル! よい。やはり助けて頂いておきながら名乗らぬでは、大叔父様にも恥をかかせることになる」

 馬車の中から突然声がしたかと思うと、馬車から7〜8歳くらいの女の子が馬車から降りてきた。


「お嬢様・・・」

 マジョルドーモが慌てて女の子の手を取った。


「もう大丈夫じゃ。それよりマジョルよ。いらぬ気遣いをさせたな」


「いえ、そんなことは・・・」

 マジョルドーモはそう言って女の子の前で膝をついた。


「あの〜」

 分かりそうで分からない展開に、俺は思わず口を開いた。


「これはすまぬ。まずは助けて頂いたこと感謝する。私はマリアナ・デール・ブルクハント。大叔父様がこの国の国王をやっておる」


「は?」

「「え?」」

『・・・』

 俺たちは、4人で顔を見合わせた。


「とはいえ継承権は16位だ。助けてもらった恩もあるしな。マリーと呼ぶことを許そう」


「はぁ?」

 ヒカリとルージュ、アマリージョが膝をついて頭を下げる中、俺だけ突っ立ったまま眉間にシワを寄せていた。


「申し訳ありません。お嬢様は世間知らずでおりまして。乱暴な自己紹介ではありましたが、これでもとても感謝しておいでなのです。それに今のお言葉もお礼を申し上げながら、ただ友達になりたいと仰っているだけで・・・」

 マジョルドーモが慌てた様子で説明をする。


「どこをどうしたら今のが友達になりたいになるんだ? ねぇ・・・ってあれ? なんでみんな座ってるの?」


「クロード、あんたも跪きなさいよ。バカなの? 王族よ。偉いの。不敬が王様に伝わったら一発で死刑よ」


「え!?マジ? こ、こ、こ、ここここここれは、失礼しましゅたぁ」

 ルージュから小声で伝えられた情報にビビり、俺は鮮やかなフライング土下座を決めた。


「はっはっははははははは! 大叔父様がそんな小さいことで死刑になどするわけがなかろう。それに、 助けてもらったのはこちらだ。言い方が悪かった。許してほしい」


『いえ。元々の不手際はこちら。この玄人(クロード)は遠い地より来たもので、事情を知らぬとは言え失礼をお許しください』


「それで、そなた達は何者じゃ?」


『申し遅れました。私は冒険者ギルド所属のエンハンブレのリーダー、ヒカリと申します。こちら玄人(クロード)、そして、ルージュとアマリージョです』


「エンハンブレ? お主らがあのエンハンブレ? マジョル! やったな」


「はい。何という幸運でありましょうか」

 マジョルドーモが嬉しそうな顔でマリーと目を合わせた。


『幸運・・・ですか?』

 土下座のまま固まっている俺の横で話が進んでいく。


「我々はハンク市から王都へ戻る道中なのですが、出発の際にはギルドに護衛役としてエンハンブレを指名致しました。ですがギルドからは断りを頂いたもので」


『それは申し訳ありませんでした。おそらくは私達の体調を気遣ってのことだとは思うのですが』


「まあ、体調というよりは教会であろうな。これ以上活躍されては教会も立つ瀬がないだろうしな。あの新しいギルマス、なかなかやりおるな」

 マリーはそう言って、悪そうな笑みを浮かべた。


「ヒカリ殿、申し訳ありません。普段はとても素直な可愛げのあるお嬢様なのですが、祖父であるクリスト様の影響が強すぎるのか、口調もジジくさく、悪いことを考える時の顔がそっくりになってしまわれて」


「マジョル! お前は、丁寧に悪口を言う癖を直した方がよいぞ」


「申し訳ありません」


『それで、マリアナ様』


「ん? マリーでよい」


『では、マリー様』


「呼び捨てで良い」


『では、マリー。いくつかお聞きしたいことがあるのですが』


「良いが、まずは王都までの護衛を引き受けてはくれぬか? 報酬もちゃんと払う。ギルドを通してというなら、後ほど事情を話してそうするが」


『あ、いえ。我々も同じ目的地ですし。護衛は喜んで引き受けてさせていただきます。一度お断りをしてしまったお詫びです。報酬もいりませんよ』


「さすが噂通りのチームだな。それを、いきなり報酬の話をしてしまうとは・・・すまぬな」

 マリーはそう言って頭を下げた。


『おやめ下さい。そう言うつもりで言ったのではありませんので』

 ヒカリはそう言いながら、マリーが頭を下げるのを慌てて止めた。


「よし、では改めて護衛は頼んだぞ。それとマジョル。馬車の荷を積み替えたら出発するぞ。話はそれからだ」


「マリー様失礼します。馬車と馬は置いて行かれるのですか?」

 アマリージョが膝をついたまま、心配そうな顔で聞いた。


「あ、いえ。遺体はここで供養したとしても、遺品は家族にとっては必要ですから。荷物の積み替えは、馬車一つ分を空けて、持って帰れるものは持って行ってやろうかと。そういうことです」


「うむ。そういうことじゃ。それとマリーで良いからな」

 マリーはそう言って、アマリージョ見ながら満足そうな笑顔で言った。


 その後、俺たちは遺体から剣や鎧、持ち物などを集めるのを手伝い、荷物を移動して空になった馬車に積み込んだ。


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