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僕の短編小説集

桜花は越冬のあとに

作者: プリンアラモード

 春の象徴である桜は、鮮やかな淡いピンク色をしている。そして、空から剥がれるように舞い落ちる。去年の春、私と明莉は裏山の大きな桜の木の真下でお花見をした。桜の花びらが散る様子は、いつまでも見ていられるぐらい綺麗だった。それで、つい見とれ過ぎてしまい、その日は門限の5時を守らずに私も明莉も親に怒られてしまった。でも、怒られたことなんて気にならないほど楽しかった。


 なのに...。

私は、去年のことをぼんやり思い出しながら、今日もハァとため息をつく。すると...

ドンッ!

いきなり、クラスメートの田中が私の肩にぶつかってくる。その後ろにはニヤニヤした男子3人組。私は腹が立った。そして、田中はその男子グループに言う。

「バカ!なにすんだよ!このやろー!」

この野郎はそっちでしょとイライラしながら、私は彼をにらみつける

「なによ!?いきなりぶつかってきて!謝りもしないの?」

「ごめんな。でも、俺だけじゃねぇだろ!」

何それ?言い訳?本気で申し訳ないと思ってんのかコイツ!?

「あのねぇ...!」

と、また彼をにらみつける。そこでチャイムが鳴った。そして、担任の先生がまるでチャイムと連係プレイをしているかのようにやって来て

「はーい!着席ー!」

と言う。

 そして授業が終わる。先生に放課後は委員会がありますよと言われる(ちなみに私は文化委員会で、私の先生が指導者だ)。はぁぁぁ。今日は早いとこ帰りかったのに...。まぁ、仕方ない。もうすぐ秋の文化祭なのだから。


 委員会の集合場所は多目的室だった。そして、今日は新聞委員会と協力し、文化祭のポスターを作るという活動だった。ここは美術部の腕の見せ所ねと思い、私はポスターづくりに力を入れる。そのおかげだろうか?かなりいいものができた。それは、水色の大きな紙の真ん中に学校のエンブレムがどかっーん!と描かれ、周りには各部活動のエンブレムが散らばっている。そして、赤い太字のゴシック体で『第60回 柳田中学校文化祭』の文字が描かれている。うーん...やっぱり赤は水色の捕食だから境目がギラギラしてるな。だから周りを白の線で囲んでみみよう。というわけでそうしてみると...

「うん。いい感じ。」

あまりにも出来過ぎていて思わずそう呟く。

 そして、やっと委員会活動が終わる。そのときにはもう夕日が半分隠れている。そして、時計を見ると短針が5を、長針が6を差している。

「もう5時半か...。早く帰らなきゃ...」

校門にもある桜の木の葉っぱは赤や黄色、茶色など秋を思わせる色に染まっている。それを見るとなんだか癒される気がした。


 次の日、登校中の道で明莉に会った。彼女は横にいる女の子と楽しそうに話し合っている。どきん、どきんと胸が鳴る。そして、思い切って話しかける。

「明莉、おはよう。」

すると彼女は

「おはよう...。」

とだけ言ってまた横の子としゃべりだす。

「あのっ...!一緒に...登校しても...いい...?」

と聞くと

「別にいいけど...」

明莉はそう答える。横の子もうんとうなずく

 明莉とは幼なじみで小学校の頃は、毎日、楽しく遊んでいた。中学になっても、高校になっても、大学に行ってもずっとずっと友達でいようと約束していた。なのに...そんな固い友情で結ばれていたのに...。それなのに、何度かのすれ違いやちょっとした誤解が重なるうち、その友情は断ち切られてしまったのだ。中学になってからは、登校も下校も別々でいつも私は独りぼっちだった。だって、明莉ほど仲の良い友達なんていなかったし、そもそも、私は友達が少なかったのだ。今日は久しぶりに一緒に登校している。雲一つない青空。なんていい日なの?と深く息を吸う。学校に着く。明莉は私に

「じゃあね...」

と言い、走って行ってしまった。1人取り残される私。一緒に登校して仲直りをしようと思ったのに...。できなかった...。あまりのショックのあまり目の前が真っ白になる。あんなに秋色だった桜の葉も、今はエタノールで脱色をしたかのように白一色になっている。


 その日の昼休みに、もう一度仲直りのチャンスが訪れた。明莉が朝の子としゃべりながらこっちに向かってくる。でも勇気が出ない。朝も上手くいかなかったのに...。私にできるのかしら?と思いながらも、明莉も待ってるはずだと思い至り決心した。よし!

「明莉...今日は一緒に帰ろっか?」

明莉は一瞬戸惑う。しかし、彼女はごめんとだけ小さな声で言って、朝の子としゃべりながらあっちへ行ってしまった。はぁぁぁ。また仲直りができなかった。再び目の前が真っ白になる。

 その日も委員会があった。今日も遅くなった。太陽はもうわずかしか見えない。もう6時なのだ。


 それから何ヶ月かして冬がやってきた。まだ私は明莉と仲直りができていない。葉っぱがすべて散って丸裸になった桜の木を見ていると何だか悲しくなる。楽しかった明莉との思い出は私をさらに落ち込ませる。あのときは本当に楽しかった。なのに、今となってはただ苦しくて、辛くて、寂しくて、泣き出したくて。楽しい事なんて全くない。私はひどく落ち込み、学校に通うことにも嫌気がさしてくる。そして、ついに...

学校に...行きたく...ない...!

と、思った私は本当にその日から学校に行かなくなってしまった。


 また、それから何ヶ月かして桜の木にはつぼみができる。そして春になると桜は咲き乱れる。不登校になった私は久しぶりに学校に行ってみる。すると、そこには...

満開の桜。つい何ヶ月か前までは丸裸の姿で私を悲しませたのに...。その花々が、今度は私の胸を躍らせる。私を嬉しくさせる。

 そこからは早かった。いなくなって改めて私の大切さに気付くこと出来た明莉とは仲直りし、友達もかなり増えた。田中とも明莉と同じくらい仲が良い友達になった。私は去年の春よりなんかよりずっとずっと楽しい毎日を過ごせている気がする。

 私は長い長い冬を乗り越え、ついに花を咲かせたのだ。その花が全部散ったって、再び冬が訪れたって、何もかもが消えたって大丈夫。きっと私なら乗り越えて、また花を咲かせることができるはずだ。

 そう。越冬の後、満開の花が咲き乱れるあの桜の木のように...

私は満開の桜を見て心の中でそう囁いた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 満開の桜って、無条件に人を元気にしますよね。 「何度ダメになっても、またきっとうまくいく」 ありふれた言葉かもしれませんが、花のつぼみの話を出すことによって説得感が段違いになったと思います…
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