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ボクは勇者

今日も目覚まし時計が鳴る前に起きた。

時計にセットしたアラームを解除する。

すると玄関の鍵が開く音がした。

勇人いさひと~。起きてる~?」

「うん、今起きたとこだよ」

隣の家に住む幼馴染みの西宮菫にしみやすみれの声がした。

「全く、勇人いさひとったら私が起こさなきゃ起きないんだから。少しは感謝してほしいわ」

いや、君が来る前に起きたよ。ギリギリだけどね。

ボクは結城勇人ゆうきいさひと。職業、学生兼勇者。っていっても300年前に異世界親交条約が締結されてからは勇者は魔王を倒さない。言わばお飾りの肩書きだ。その昔、魔界と融合したてのときはボクの名字“結城”を“勇気”と読み替えてそれにあやかってボクのご先祖様は勇者にされたらしい。さらに以降は名前に必ず“勇ましい”の“勇”を入れる習わしがある。

時刻は5時30分過ぎ。まだ外は暗い。

寝巻きにしているジャージを脱ぎ捨て真新しい桜花おうか学園の校章である桜の花がボタンにあしらわれた学生服を着る。寒いのでなかにはオレンジのパーカーを着込んだ。

今日は桜花学園の入学式。と言っても家から自転車で30分のところにある。

洗濯物を持って洗面所に向かう。洗濯機に放り込んでスイッチを押す。そのまま顔を洗い寝癖をとった。鏡には金髪碧眼で少し伸びすぎた前髪で左目が隠れているボクの顔が映り込んでいた。

顔を拭いて台所へ行く。

そこには同じく真新しい桜花学園の指定のセーラー服を着た菫がいた。

容姿端麗、最強無敵。15歳にして剣を極めし聖人、“剣聖”の称号を持つ少女。

肌は白くて髪と瞳は綺麗な黒、外ハネのボブカットの髪に紺のキャスケット帽を被っている。

余談だけど帽子には缶バッジがいくつかついているけれど毎日コロコロと変わる。

菫は毎日缶バッジを付け替えてるのだろうか・・・

台所ではまな板の上で大根が短冊切りにされていた。聖剣“エクスカリバー”によって。

“エクスカリバー”は両刃の剣で銀色の刀身に赤くルーン文字が彫られている。鍔は金色でさりげなくかつ美しい装飾が施されている。鞘は金色でやはり赤いルーン文字の刻印がある。

何て書いてあるかはボクには分からない。

“エクスカリバー”はサイズを変えられるため今は包丁大の大きさになっている。

しかし聖剣が大根を切るだなんて誰が予想しただろうか。この世界が異世界との融合を果たした頃に西洋の王から菫のご先祖様に贈られたものらしい。

まあ、本来の使い道で使う機会など在ってはならないから、これも平和の象徴なのかもしれない。

「ほら、ボサッとしていないでお弁当つくってよ」

「あー、うん。わかったよ」

ボクの両親は貿易会社勤めで海外出張が多い。今も家にはボク一人だ。

そんなボクを案じてか毎日朝ごはんを作りに来てくれる。ボクはお弁当担当。

さっきの大根は味噌汁の中に投入された。

「また“エクスカリバー”で切ってるの?」

「うん、そうよ。これ、見た目に反して軽いから扱いやすいんだ」

そうなんだ。

ボクはと言うと今タコさんウインナーを弁当箱に詰めたところだ。

「よーし、出来たわよ」

「こっちもできたよ。いつも朝ごはんありがとう」

「なっ、何いってるのよ!!このバカ!!別に勇人いさひとのためじゃないし。ついでよ。つ・い・で!!」

「わかった、ついでね。ボクは嬉しいけどな。ついででも」

「な、なによいきなり、恥ずかしいじゃない」

菫が小声で何かを言った。

「どうかした?」

「なっ、何でもないわよ!!それより早く食べてよね!片付かないから」

「わかった、いただきます」

今日の献立はごはん、大根の味噌汁、目玉焼き。

「ど、どう?」

「うん、菫の作るごはんはいつも美味しいよ」

「そ、そう。ならよかったわ」

黙々と朝ごはんを食べる。

そんなボクを菫はずっと見つめている。いつものことだけど。

大体ボクが半分食べたくらいでようやく自分の食事に手をつける。

心配性なのかな?

ちなみに菫はボクより食べるスピードが早い。ボクが半分食べたくらいで食べ始めるのにほぼ同着で食べ終わる。

ボクってとろいからね。


食事が終わり洗い物も済ましてボクたちは木刀を取り出した。一応勇者だから中学の頃から剣道を習っている。菫には一度も勝ったことがない。

これも朝の習慣、素振り1000本と打ち合い稽古。

「じゃあやるわよ」

庭先の駐車場で素振りを始めた。

掛け声を合わせて木刀を振るう。

「-997!998!999!1000!!」

次に打ち合い稽古を始めた。

「いくよ・・・!」

「いいわよ!」

まずは大きく踏み込んで面を狙う。しかし菫は飛び退きながらボクの木刀を打った。手がしびれる。

「遅いわよ!!」

今度は菫が斬り込んでくる。かわす、いなす、捌く。しかし伊達に“剣聖”の称号を持っているわけではない。防戦一方で結局木刀はものの5分でボクの手から離れた。

「今日も私の勝ちね」

「うん、でもね菫」

「わかってるわよ」

ボクたちは声を揃えていった。

「時代は銃だよ」

「時代は銃だよでしょ?」

5年前の総理大臣がこれまで剣や槍などの近接武器の家庭での所持を認めていたが近代化にともない銃の所持および携帯を許可したのだ。

それまでボクは肩身の狭い思いをしていた。みんなが魔法を使える中、ボクの能力は“ガンスリンガー”と言って自分の思い描いた銃火器を顕現させる能力だったのだ。

言わば“魔法使い”ではなく“魔砲使い”とでも言える能力だった。

おかげで5年前までは周りから“無能勇者”というあだ名をつけられていた。

まあ、それは今はおいておこう。

そろそろ学校へ行かなきゃならない時間だ。

「聖剣よ、剣へもどれ」

菫は包丁、もとい聖剣を竹刀袋に入れた。

初日から部活があるから防具袋と竹刀袋を背負い自転車に乗った。

さあ、入学式だ。晴れやかに行こう。

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