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飲まなければ

そう、この部屋には冷蔵庫が二つある。一つはチェーンでぐるぐるに封じられている。


「なんなんだこの冷蔵庫。何が入ってるんだ?開けていいか?」


「ダメ!絶対!大家さんに言われてるんだよ。絶対に開けるなって。俺はオカルトなんて信じないけど、恩を感じている人の言う事は絶対なんだ。」


「へー。渉って意外と真面目なんだね。いつもふざけてるのに。」


「それは飲みの時だけだってば。」


「じゃあその普通の方の冷蔵庫にこれしまって!」


なんだか、大量に酒を買って来たみたいだ。


ガバッ。ゴトッ。バンッ。


プシュー。


「まずはとりあえずビールからだな!乾杯!」


「乾杯!」


「いやあ、こうやって飲むのも久しぶりだな。」


「そうだな。来てくれて嬉しいよ。」



こうして、たわいもない話をしながら酒を呑んで楽しいひと時をすごし、数時間が経過した。

時間は深夜2時である。今日は行川は一緒に泊まる予定だ。


「そしたらさ、電車で目の前の女の子がおっぱい押し当ててきてさー。うっひょーってなったわけよ。もうよだれでびしょびしょでしゃー」


こいつはもうべろんべろんになってやがる。そろそろ寝かせるか。


「おう、今日は楽しかったよ。今日はもう寝たら?」


「えー?こっからが本番だろ。クライマックスに焼酎いこうぜー。」


「ダメ!吐かれても困るんだよ。」


「しょうがないなー。そういえば水飲みたくなったなー。水ある?」


「水道水でいいなら。」


立ち上がって台所で蛇口をひねった。


キュッ。


「あれ、水が出ないぞ。」


「まじで?取水制限でもしてるのかなー?コンビニで水買ってきてよ。」


「えー、面倒くさいよー。そうだ、さっき貰ったシジミ汁飲めよ。」


「すまん俺、しょっぱいもん飲めないんだ。」


「えっ!?さっき飲みたがってなかった?」


「いや、全然!」


なんなんだこいつは。面倒くさい奴だ。


「しょうがない。行ってくるよ。」


「ありがとう。」


ガチャッ。


家を出た。

すると目の前に身長185cmほどの大男が立っていた。


「うわっ!びっくりした!あ、すみません。鈴木さんですよね。」


102に住んでいる鈴木さんだ。40代、無職でずっと家にいるらしいがこの人とはあまり話したことがない。ただ暗いイメージとミステリアスなイメージしかない。


そして、今のイメージは今までで最悪だ。

彼は片手にハンマーを持っていた。


「君はコンビニに行く必要はない。水はそこにある。」


「は!?何言ってるんですか?ちょっと!困ります!」


どさっ!ガチャッ!ドドドッ!


その場で俺は強引に押し倒され、勝手に土足で部屋に上がり込んでしまった。


「ちょっと!鈴木さん!どうしたんですか?」


鈴木さんはもう部屋に奥まで入っていた。


「え!?なになに!?お客さん!?」


行川は慌てふためいている。


「そこをどいてくれっ!」


鈴木さんは例の冷蔵庫の目の前に立っている。そして手に持っていたハンマーを振り下ろそうとしていた。


「まさかっ!やめてくださいっ!」


ガンッ!ガンッ!バキッ!


気づいた時には遅かった。ハンマーで何度も打ち続け、冷蔵庫はみるみるボロボロになっている。

そしてやがてチェーンは外れ、南京錠も空いていた。


ガバッ。


鈴木さんは荒々しく冷蔵庫を開け、中から黒い液体がペットボトルに入って大量に出てきた。


「おまえもこれを飲むんだっ!」


ぽいっ!バシッ!


ペットボトルを行川に投げつけた。


「なんですかこれ?飲めないですって!」


「いいから飲むんだ!」


キュッ!グビグビッ!


鈴木さんは激昂しながら、自分もペットボトルを開け、勢いよく飲みだした。


「あぁぁ!あああ!俺も喉がっ!の・・のどがか・・かわ・いてる・・んだ」


あきらかに行川の様子がおかしい。


キュッ!グビグビッ!

遂に、行川まで得体のしれない液体を飲み始めた。


「おいっやめろって!」


俺は急いで謎の液体を飲ませるんをやめさせようとした。


「ああっ!邪魔をするなあああああああああ!」


バンッ!どさっ!


急に弾き飛ばされてしまった。


どうしたものか。こいつらは完全にどうかしてしまっている。

二人は謎の液体を必死で飲み続けている。

そうだ、大家さんを呼びに行こう。

俺は急いで部屋を出て、大家さんの目の前まで来てノックをした。


コンコンッ!


駄目だ。返事がない。


ガチャっ!


あれっ?まさか隣の202号室から鍵が開く音がしなかったか?気のせいだよな。

202号室はいつも誰もいないのに。

開けるべきか。このドア。たぶんこの先には何かがいる。

もう、わけがわからないからなるようにするしかない。勇気を出せ、俺。


ガチャッ!

「失礼します。」


恐る恐る開けてみた。



そこには誰もいなかった。



チャーッ


何の音だろう。たぶん水道の音だ。ん?水道!?水が止まってるんじゃないのか。


「あーーーーーー!うわああああああああ。」


自分の部屋から叫び声が聞こえる。


急いで部屋に戻った。





目の前には鈴木さんがお腹をはち切れそうなぐらい膨らませ、倒れていた。

たぶん死んでいる。大量に液体を飲み続けたのだろう。短時間にこれだけ飲むだなんて気が狂っている。

それにあの冷蔵庫にはそれだけの量入っていたっけ。


「ああっ。あーーーーー!どどどどうしよっあわわひえやーーーーあああ」


「落ち着け行川!しじみ汁を飲むんだ。」


俺はその後しじみ汁を行川に強引に一晩中飲ませ続けた。

その時の事は詳しく忘れてしまったが、次の日にはお互いに平常通りに戻っていた。




後日、大家さんに話を聞こうとしたが何も話そうとはしなかった。

そして俺と行川は何事もなく、毎日しじみ汁だけを飲んで過ごしている。

平和な日常である。

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