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差し入れ

 俺の名前は岩木いわき わたる、大学3年で先週からここに引っ越してきた。裏野ハイツ、1LDKで家賃4.9万というこの地域ではかなり格安の物件である。ただし、この手の話が良い物件というのは決まっていわくつきである。

 そう、ここも例外でなく正真正銘のいわくつき物件である。なぜそう断定できるかと言うと、そもそも俺は都市伝説に詳しい友人の紹介でここを見つけたからだ。しかもすでにクローゼットの裏にはお札を確認済である。

 俺は、もともといわくつきというものを気にする人間ではないし、むしろそういう家に住んでいるということをネタに女の子と酒を飲んで怖がらせるのが好きな人間だ。それでこんなに安いというのは好都合だ。今までもいわくつきの物件ばかり引っ越してきたが、大事に至った事は無いから心配もしていない。


 ところで今は何をしているかと言うと自分の部屋で中学からの友人を待っているのである。家でこれから宅飲みをする予定なのだが、そろそろだろうか。駅に着いてるとのメールがあってから20分ほど立っているが、酒でも買っているのだろうか。


トントン


 お、やっと来たかな。俺は立ち上がって玄関まで行った。


「おう、行川なめかわ!道覚えてたか!?」


「・・・。」


ん?もしかして違う人かな?


「私だよ。201の!」


「あ、櫻井さん!どうしたんですか?」


ガチャッ!


やっぱり櫻井さんだ。この人は俺の部屋から2つ目の部屋に住んでいる大家さんである。年齢は70歳前後でとても親切なお婆さんだ。


「今日はどうしたんですか?」


「渉君は今日は友達と酒でも飲むのかい?」


「え?なんで知ってるんですか?」


「あれ?図星かい?女のカンって奴だよ。今日は差し入れだ、貰っておくれ。」


櫻井さんは中くらいの大きさの鍋を抱えていた。


「ありがとうございます。なんですか、これは?」


「しじみ汁だよ。あまり君は汁物とか作らないだろ。」


「よく知っていますね。助かります。」


いやあ。本当にいい人だこの人は。


「おーい!渉!来てやったぞ」


下から声がする。この声は行川だ。


「あら、これで私は失礼するね。」


スタスタと櫻井さんは自分の部屋に戻った。


「さっきのは、大家さんかい?仲が良いんだな。」


「いやあ、ちょうどシジミ汁の差し入れを貰ってね。」


「えっシジミ汁?これから俺たちが悪酔いするのを見越してかー、できるねあの婆ちゃん!」


ああ、しじみ汁ってそういうことか。だとしたらエスパーだなあの人は。


「まあともかく入れよ。」


とりあえず行川を家に入れた。


「いやあ、おまえもよくこんなとこ住もうと思うよなー。」


「いまんとこ何も困ってないしねー。もう慣れたよー。」


「おい、渉!なんだその後ろの冷蔵庫!」


この部屋に入った人は必ず驚く。

この家には冷蔵庫が二つある。

一つは普通の冷蔵庫、もうひとつはこれみよがしにチェーンでまかれ、南京錠でがっちり閉められた冷蔵庫である。



 

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