雪きつねの社(やしろ)
そこから里へと様子見に向かった若者の1人が、続きとばかりに老人の話しを引き継ぎました
白く厚い雪に沈んだ里の姿を見た時、彼等は生存者の存在を諦めかけたそうです
しかし社の方から細い煙が高く上がっているのに気付くと、信じられない思いを抱きながらもソチラに向かう事にしました
里の入口になる辺りまで歩いた頃、避難場所から来た者たちの前に突然白い着物の少女が現れました
『止まれよ止まれ、里の民
そなたの行く道、穴が空く
雪の下の空洞が、そなたたちを苦しめよう
此方の狐炎が案内せし、道を歩んで行くが良い!』
そう少女は言葉を終えると幻の様に姿を消し、青白い狐火が二列に並び右に左に折れ曲がりながら社への道筋を作っていきました
最初は訝しげな様子であった一行も、狐火の示す道を外れなければ雪に深く沈まない事を確かめると真っ直ぐ社へと向かいました
社の扉や壁板の一部は薪と化して失われはしていましたが、老人たちは怪我もなく皆無事で緩りと暖をとっておりました
社を薪にするなど罰当たりだと思われるかもしれませんが、老人たちを助けた白い少女が気にせずに燃やし暖をとる事を勧めたのだと言います
『形在るモノは何時かは壊れ姿を失うモノじゃ
例え何があろうとも無機な建物より生きる命を大切にせよ』
白い少女は三角の白い耳と尻尾を揺らしながら現れ、笑いながら言ったのです
『此方も里の子供等と短いが楽しい時を過ごさせてもろうた
皆に良しなにな!』
最後にこう言い残して社の御神体の中へと消えていったといいます
語った老人は懐から丁寧に御神体を取り出すと、日に照らし感謝の言葉を告げました
すると日の光が鏡面を反射し、近くの壁に“きつね”の姿を写し出しました
里の人々里を再建させようと誓いあいました
後に社も再建され、人々に“雪きつねの神”が奉られているのだと伝えられる様になったそうです