歌
里の人たちが避難した場所は、炭焼き小屋と里の中間程に位置する小さな村でした
其処には年老いた者たちや幼い子らの殆どが揃っておりました
暖をとる為の木炭を沢山運んできた少年さえ不自然に思える程の避難出来た人々の数の多さに、彼は思わず疑問を口に出しておりました
すると避難してきた子供たちが歌を歌いだしたのです!
『山が呻いておりますよ
雪が喚いておりますよ
この数日のうちに全てを押し流し、里に嘆きが覆うでしょう!
体の弱い人達に、肩を貸しつつお逃げなさい!』
そして語り部のオババは、避難する前夜に里の人々の耳にこの歌が聞こえてきたのだと付け加えたのでした!
それを聞いた少年は、白い耳と尻尾を持つキツネの少女の姿が脳裏を横切った気がしました……
炭焼き小屋から来た人々が里の人々の避難場所へと到着した日の夜は、満天の星が天に瞬いてはいても酷く冷え込む晩になりました
雪崩より後に積もった雪もあったのに、翌朝には日の光の下でそれらはキラキラと輝きを放つ様に凍り付いておりました
避難場所にいた人々にとっては、里や周辺の様子を確かめに行くには良い具合だと思える状態になっていたのです
少年は歌の事を聞いた時から社の様子が気になっており、無理を承知で様子を見に行く大人たちに同行を申し出てみました
案の定様子見に向かう大人たちは彼の同行に反対し、社の様子も見て来てもらう事を条件に少年は避難場所に留まる事となりした
大人たちが里の様子を見に行く数日だけの事とはいえ、少年は里から避難してきた子供たちの世話をしながらも落ち着かない日を過ごしました
そして愈々(いよいよ)待っていられなくなっていた日の昼過ぎ頃、里へと向かった人々が戻って来たのを彼は村の入り口で出迎えました
里の様子を見に行った人たちは、数人の老人たちを連れて戻って来ました
彼等は歌を信じなかったり足腰も弱り何か起きても覚悟をして里に残っていた人たちでした
少年を始めとする避難場所にいた人たちは、老人たちに温かな汁物等を差し出しながら雪崩のあった日の事を尋ねました
すると彼等のうちの腰を痛めている老人が重い口を開きました