遊坂ハルトという人
まだ四月とは思えないほどに暑い陽射しが僕の肌をじりじりと焼き付ける。
それでも僕は日陰に移動することもせず、意地を張ってやけになりながら昼食の惣菜パンを眉間にシワを寄せながら黙々と食べ続けている。
高校に入学して三週間が経った今日。今、この瞬間も、現在進行形で僕にはまだ友人と呼べる存在ができていない。
クラスメイトで僕と同じように未だに友人が出来ていない人間が一人、居ることには居るのだが、そいつは女子でいきなり話しかけ辛いというのもあるし、そもそも彼女は友人を作ろうと努力している僕に比べ友人を作る気がないように見え、なかなか話しかけられる雰囲気ではない。
こうなったら男子だったら違うクラスでも他学年でもなんでもいい、僕と同じように友人が出来ていない奴だって誰かひとりはどこかに居るはずだ。そいつと友達になるしかないと四時間目終了のチャイムが鳴った直後、漫画やドラマで一人飯の生徒がよく行きがちな屋上へと来てみたのだが。
そんな考えは甘かったらしく今、屋上に居るのは僕ただ一人で、僕自身がその漫画やドラマで屋上で一人飯をやりがちな生徒になっていたのである。
「友達ってどうやって作るんだっけ」
ぽつりと呟いたのだが、そんな呟きだって誰一人聴いていない。
思えば今日、僕が学校で何か言葉を発したのもこれが初めてな気もする。
「こんなはずじゃなかったのになあ」
そう言っても誰も応えてなどくれない。
はずだったのだが。
「うわ、久々に屋上に人が来たと思ったら。何だ何だ、ぼっちの一年生じゃないか」
誰も居なかった背後から、そんな声が聞こえた。
驚いて振り返ると、声を発した相手も何故だか一瞬驚いたような表情をしたのだが、今度は何事もなかったかのように小さく溜息をついて僕をじっと見つめている。
どうすればいいのかわからず、とはいえ目をそらすタイミングを完全に失ってしまったためこちらもじっと相手を観察する羽目になってしまった。
中性的な顔立ちをしているが体格的には少しがっちりしているから男なのだろう。
ボサボサの銀髪。
鋭い三白眼。
学校指定ではないネクタイ。
明らかに素行の良い生徒ではないが、上靴にはマジックできちんと学年と名前が綺麗な文字で書かれている。
「…3の4……遊坂、ハルト」
書かれている名前をかなり小さい声で読んだのだが彼の耳には届いたらしく、彼は僕を先ほどよりきつい目付きで睨み付け、どんどん僕との距離を詰め始める。
そして僕の顔に顔が当たるか当たらないかギリギリの距離まで顔を近づけ、にっこりと笑うと、彼は僕にこう言った。
「よかったら一緒にお昼食べない?」