霊界でも勝ち組
自慢じゃないが、俺に霊感は無い。
幽霊なんぞ見たことが無い。
嫌な予感というのも、感じたことが無い。
前世での大学時代、「廃病院」とやらにカレッジの仲間と肝試しに行ったことがある。
2人ほど、泡を吹いてぶっ倒れたが、俺には何も感じなかった。
最後まで「ドッキリ」だと思っていたくらいだ。
すげぇヘッドバンギングだ と感動していたら、ガチで壊れてた。
幽霊っているもんなんだな。
ほのか先輩と校内デートをした次の日。
放課後、俺は前の席の、ぱっつん黒髪ちゃんに、校舎裏に呼び出されていた。
男子校での校舎裏呼び出しはイベントバトルの可能性がある。
あらかじめパーティを組む必要があるが、女子校なら大丈夫だよな。
だから、一人で来た。
ぱっつん黒髪ちゃんも、磨けば光ると思うんだが、そこは関係ない。
「佐久間さん、ごめん おまた・・せ・・。」
彼女は、俺の顔を見ると、真っ赤になってうつむいてしまう。
いつもこうなので、クラスの中では噂になりつつある。
勘弁してくれ。俺はノーマルなんだ。
いくら磨けば光りそうとはいえ、中1に魅力は感じない。
「佐久間さんと、大事な話が。ある・・んです・・」
彼女の声量がどんどんトーンダウンしていく。
「え?ごめんっ聞こえない。もう少し大きな声で」
2,3歩彼女に近づく。
「ふへ うあ、いや、でもいやじゃなくて」
彼女は顔をさらに赤くしながら、後ずさる。
近づく俺、逃げる彼女 を3回ほど繰り返した後、
ようやく彼女が落ち着いてきた。
「佐久間さんって、背後霊とか って信じるほう・・かな?」
「見たことは無いけど、信じてはいるかな。」
「良かった。えと、ね。私、産まれつき、ちょっと見えちゃうんだ。」
ほぉ。お墓とかじゃ大変そうだな。
「あ、でもね。何でも見えるってわけじゃなくて・・、他人の背後に
背後霊みたいなのが見えるだけなんだ。」
詳しい話を聞くと、彼女は他人の背後霊が見えるらしい。
大抵の人の場合は、ぼんやりとした光の球に見えるが、時折、背後霊が人間や動物の形として
ある程度はっきりと見える人間がいるそうだ。
はっきりといっても、磨りガラスごしの景色のように、おおよその色と
形しかわからないそうだ。
「わたしって、どんな背後霊なのかな?」
「うん、それがね、佐久間さんの背後霊は、すっごくはっきり見えるんだ。
こんなのは初めてなの。」
顔を赤くさせながら続ける。
「お父さんくらいの年齢の、背が高くて、すっごくハンサムで、優しそうな男の人が、
佐久間さんの後ろにいるんだ。」
振り返ってみるが、もちろん俺には何も見えない。
だが、少し心当たりがあった。前世の俺の姿ではないだろうか。
「それでね、それでね、その人、すごく恰好よくて、好みのタイプなんだけど・・・
全裸なんだ・・・・・・・」
彼女が、顔を手で覆ってしまう。さすがに恥ずかしいのだろう。こっちも恥ずかしい。
「え、ちょ、全裸って、ぱんつも無し?」
「うん。ぱんつも無しで、全部、見えてる・・・・・」
もう一度、急いで背後を振り向くが、やはり何も見えない。
毎週ジムに通ってたから、肉体には自信がある。
だが、そういう問題では無く。
中学1年の女子校生にまとわりつく全裸の中年男性って、変態だろ。
逆の、中年男性にまとわりつく美少女なら、絵柄的には良いかも知れんが、
やっぱり中年男性は捕まりな気がする。
すると、俺は転生してからこれまで、全裸をさらしていたというわけか?
前世的にも今世的にも絶望的だ・・・・・
愕然として立ちすくんだ俺に、彼女が話しかけてくる。
「佐久間さんが悪いわけじゃないけど・・・服、着てもらえないかな?」
「できるかぁ~~~!!」
はぁはぁ、全力で突っ込んでしまった。
彼女は、あわてて逃げて行った。
周りを見回す。
ここは、中等部の校舎裏ではあるため、中等部側からは死角になっているが、
高等部の校舎からは、見ることができる。
さすがに、それなりの距離があるので、声は届かないであろうが。
高等部の校舎には、何人かの女生徒が鈴なりになってこちらを見ており、
俺がそちらを向くと、数人があわてて散って行った。
まだ残った女生徒の中から一人、ほのか先輩が楽しそうに、俺に手を振っていた・・・・
次の日から、背後霊は、下半身がぼやけて見えなくなったそうだ。
その代わり、上半身はよりくっきりと見えるようになり、
ぱっつん黒髪ちゃんは、すっかり前世の俺のファンになってしまった。
時折、俺の右上を見ながら、恋のため息をついてる。