新入生でも勝ち組 そのさん
前世に通っていた男子校の生徒会室は埃っぽく、ごみごみしていて、
男くさかった。
ノックをしてから開けた扉の向こう
三つ葉女子学園の生徒会室は、広く、綺麗に整理されていた。
部屋の中心には、カフェテリアに置かれているような3脚の丸テーブルと
いくつもの椅子が配置され、高等部と中等部の生徒が何人か座り
ティーカップを片手に談笑していた。
「おっ、来たね来たね 佐久間さん
さっそく自己紹介行こうかね。ほのか~来たよ~」
高等部3年の襟章を付けた、ミディアムボブのお姉さんが
こちらに気づき、大声で迎えてくれる。
奥の間仕切りから、小鳥遊先輩が出てくる。
「これ、佐久間さんの生徒会の襟章ね。」
少し茶色がかった、胸元まである長い黒髪。先の方でカールしている。
肌は、温かみのある自然な白さで、髪の毛や紺色のセーラー服と
上手くつりあいが取れており、健康的な魅力を感じる。
少し垂れ気味で優しそうな瞳と、にこにことした口元があわさり、
まるでたんぽぽの原っぱにいるような明るさを、周りに振りまいていた。
小鳥遊先輩が俺にすっと近づき、襟章を止めてくれた。
彼女の長めの髪が、俺の手の甲をくすぐる。う~ん 良いにおいだなぁ。
「わたしは、小鳥遊ほのか。小鳥遊って難しいから、名前の方で呼んでくださいね。」
生徒会は、会長、副会長、書記2、会計、広報、参議3 という内訳で
運営されている。参議は、中等部の各学年の代表だ。
時刻は既に昼近くになっていたので、
みなの持ち寄った料理をつつきながら、会食形式で自己紹介と
生徒会の仕事について教わった。
自由だな~、高等部の方は。中等部のほうは自販機ひとつ無かったのに。
小一時間ほど談笑したのち、お開きとなった。
みなは、帰宅したり、部活にいったりするそうだ。
各部活では、今後の新入生勧誘準備の大詰めをするらしい。
「りっちゃん、今日はこれからおひまですか?」
帰ろうとすると、ほのか先輩に尋ねられた。
「はい、空いています。なにか、生徒会のお仕事ですか?」
「ええ、私とデートしましょう。」
ほのか先輩がキラッとウィンクしてくる。
「ほのか~ 冗談はやめとけよ。りっちゃん 真っ赤になってるぞ。」
最後まで残っていた副会長に突っ込まれる。
そこまで赤くは無いはずだ、色白だから目立っているだけで。
「あら、りっちゃんかわいい。でも、ちゃあんとデートですよ?
校舎の中ってだけで、2人で歩くのですもの。」
「まぁ、たいがいにな~。お先」
ほのか先輩と校舎を歩き、おおまかな土地勘を覚えこむ。
高等部校舎、中等部校舎がここの敷地に並んで立っている。
短大の校舎は、この敷地内には無く、電車で30分ほどのところにある。
中等部、高等部の校舎を合わせると2つの学校に匹敵するサイズであるため、
少し歩き疲れてしまった。
「りっちゃん お腹空きませんか?」
「少し、減りましたね。」
「一回りしたら、生徒会室でお菓子でも食べてから帰りませんか?」
「行きます、行きます。」
これで空腹から解放される。そう思ったとたん、お腹が可愛く鳴ってしまった。
あちゃー 前世なら別に構わないんだけどなぁ。
ほのか先輩がくすくす笑っている。
少し照れくさくて、視線をそらした瞬間、ほのか先輩が急接近してきた。
至近距離に入りこまれる。近い、近い、
ほのか先輩のシャンプーの香りが鼻腔を刺激し、髪の毛が制服の肩口にかかる。
「動かないでね。」
吐息が顔をくすぐる。
唇に、何かが当たる感触がする。
その感触は、唇を正確に一周すると離れていった。
同時に、ほのか先輩も俺から離れていく。
「フルーツフレーバーのリップクリームは、お菓子に入りますか?」
にこにこしながら問いかける、ほのか先輩に、俺はどきどきしていた。
生徒会室で食べたお菓子の味も良くわからずに帰宅した。
完全に、彼女のペースに飲まれてしまったなぁ。強敵であった。




