新入生でも勝ち組 そのに
入学式の後は、クラスに分けられ、ホームルームが始まる。
両親と、二言三言話し、ここで別れる。
俺は、1年A組。
男子校だと、「オッス オラ悟空」みたいなやつが必ずいるんだが、
さすがにお嬢様学校にはいない。
席順を確認する。
廊下側壁寄りの真中くらいだ。
席に就くと、横に座っていた女生徒から話しかけられた。
「あのう、答辞読んだ、佐久間さん だよね?」
「ええ、佐久間律花です。よろしくね。」
「わたしは、戸田優衣。りっかちゃんすごいよ。
私のママね、りっかちゃんの答辞でぼろぼろ泣いちゃったんだ。
『優衣もこの学校であの子みたいになれるよう頑張れ』って。」
知り合いの結婚式で読み上げられた「両親への手紙」をぱくったのだが、
思いのほか好評だったな。
優衣ちゃんが何か話すたび、日焼けした髪色のショートボブがふわふわ揺れる。
元気そうな女の子だ。
「はぐっ」
いきなりポニテが後ろに引っ張られ、首がかっくんってなった。
「あ、ご、ごめん。それ何かなぁ って思ってたら、つい手がでちゃって・・」
後ろの席にいたのは、お団子にまとめた髪型の女生徒。
まぁ、気持ちはわかる。俺も前世では、彼女のポニテを何度も無意識に引っ張り、
そのたびに怒られたもんだ。
「あ、これ?シュシュっていうんだよ。
たくさんあるし、良かったらひとつあげようか?」
そう言って、かばんからいくつかとりだすと、彼女は目をきらきらさせ始める。
「え、いいの?高いものじゃないの?」
「いいよ、余った端切れで作ったものだし。優衣ちゃんにもあげるよ。どうぞ。」
二人は、こっち可愛い、これいいかも 選び始める。
いやぁ、女の子は可愛い小物に弱いね。餌付成功だね。
ちなみに、三つ葉学園では、金属製のアクセサリや化粧には厳しいが、
リボン、スカーフといった布系には「節度を持つ事」と黙認されている。
お団子の子は、相馬志野ちゃん。
彼女は、ビーズのサテン地を選び、優衣ちゃんは赤白チェックを選んだ。
ビーズは作るのにひと手間要るんだよな、それを選ぶとはお目が高い。
しかし、女の子には癒される。
ムラムラ来ている というわけでもないので、セーフだろう。
俺は、ロリコンじゃないんだ。ちゃんと、大人の女ならぐっとくるんだ。
もやもやしたものを抱え、彼女たちから目をそらすと、
さっきまで空いていた前の席に、黒髪ぱっつん前髪の女生徒が座っていた。
彼女は、俺の方を見ながら、顔を真っ赤にさせていたが、
俺と視線が合うと、あわてて前に向き直ってしまった。
時を同じくして、先生が教室に入り、HRが始まった。
初日は事務連絡の後、自己紹介。その後、委員を決める。
委員に選ばれなかった人は解散、選ばれた人は委員会に出席して顔見せだ。
授業は明日から。
自己紹介をしていて気がついたが、女子校というところは、俺が思っていたより、
容姿についての憧れが強いらしい。美人であると、周囲の反応が格段に良くなる。
「どうしたら綺麗になれますか?」という自己紹介とは関係の無い質問をされた。
「夢を持つ事です」と答えた。夢の内容は秘密としておいた。
「高校卒業までに1億円貯めることです」と言ったら夢を壊してしまうから。
自己紹介の後、委員決めが行われる。
この三つ葉学園、委員の特典は大きい。
まず、推薦などの進学について、特典が付く。
第二に、各委員の委員室は高等部の校舎にある。
三つ葉学園では、高等部の建物には自動販売機や、生徒が使える給湯室もある。
高等部校舎では、授業中以外なら飲食が認められているが、
中等部校舎では、昼休み以外の飲食が禁止されている。
かつて、小学生気分でお菓子でも食ったバカが居るのだろうか。
女子であっても中学生は成長期。お腹がすく。
自然と、委員になった中等部生は、時折委員室に飢えを満たしに行くようになり、
高等部の諸先輩は、暖かい紅茶と手作りのお菓子を用意して後輩を歓迎する
という伝統ができていた。
「では、委員を決めるぞ~。自薦他薦は問わない。
あと、佐久間は生徒会で決定だから。」
生徒会は中高合同であるので、選挙を行うと、中等部から一人も
生徒会に出ないことがありうる。
それを避けるために、毎年の答辞担当者は、自動的に参議として
生徒会に参加することになる。
熾烈な委員争奪戦の結果、優衣ちゃんは体育委員、志野ちゃんは図書委員になった。
HRが終わった。
優衣ちゃんは、3人で待ち合わせして一緒に帰りたがっていたが、
ばらばらの委員会で何時に終わるかわからないので、止めておいた。
生徒会室に向かう。
歩きながら、武者震いがしてくる。
前世で、州知事にプレゼンをしにいったときのような緊張をしている。
原因は、生徒会長 小鳥遊ほのかの存在だ。
生徒会全員があのレベルだと、この学校での勝ちが危うい・・・
俺は、呼吸を整えながら、「生徒会室」と書かれたドアを開けた。




