新入生でも勝ち組 そのいち
長くなりそうなので、少し切ります。
自慢じゃないが、俺は人づきあいがうまい。
初対面の人間相手でも、何かしらのきっかけから、相手の興味を掴み、
こちらに引き寄せる。
初歩的な、トーキングテクニックだ。
三つ葉女子中学の制服は、セーラー服だ。
冬服は紺、夏服は白を基調とし、スカートにアクセントとして、
赤いラインが走っている。
血の色が透けるような、白くつややかな肌。
背中まで伸びたさらさらとした黒髪。細い手足。
黒目がちの大きな目と、ふっくらとした頬。
玄関にある鏡に映った佐久間律花は、美少女といって差し支えない。
MBAのスクールで教えられる事がある。
「曲がったネクタイの奴と、真っ直ぐなネクタイの奴。
顧客はどちらを信じるか?」
身だしなみや容姿というものは、大事なのだ。
特に、初対面の相手には。
手製のシュシュで、ポニーテールにしておく。
この時代、まだシュシュはメジャーでは無く、市販されているのを見た事が無い。
「美人教室」の裁縫の時間で余った端切れで、試しに作ってみた。
今日は、三つ葉女子中学校の入学式だ。
そして、俺が、前世と違った人生を歩み始める日でもある。
さすがに、男子校には行けないものな。
私立三つ葉女子中学校は、中学校、高校、短大がセットになった学園であり、
100年の歴史を持つ。
カトリックの教会を持ち、高校からは礼拝の授業もある。
礼儀作法等の授業もあり、お嬢様学校として名高い著名女子学園である。
入学式は順調に進んでいた。
「在校生代表 祝辞 生徒会長 高等部3年生 小鳥遊 ほのかさん」
「はい」
静かな式場に、凛とした声が響く。
一人の女性が、静かに、ゆっくりとあるいていく。
髪色は、すこし茶色がかった黒。
ふわりとしたワンカールロングを揺らしながら先生方に一礼し、壇上に上がる。
少したれ気味の、やさしそうな瞳を、新入生に向けながら、話し始める。
「新入生のみなさん、はじめまして。
私は、当学園で生徒会長をさせていただいている、小鳥遊ほのかです。
よろしくお願いします。
この学校は中高6年制度を取っていますので、皆さんには先輩がたくさんいます。
先輩は、みなさんが今日、この学園に来てくださることをとても楽しみにし、
これからの学園生活でみなさんが頼ってくれることを喜びと思っています。
楽しいことをわかち合い、苦しいことを支え合えるような、素敵な学園生活を
ともに過ごしていきましょう。」
あの女、カンぺも無しですらすらと言い切りやがった・・・・
パチパチパチパチ すさまじい拍手。
新入生の中には、涙ぐんでいる子までいる。
「新入生代表 答辞 中東部1年 佐久間 律花さん」
「はい」
負けてられるか。小娘との格の違いを見せてやるぜ。
「新入生代表 佐久間律花です。
先生方、在校生の先輩方、我々、新入生のために、盛大な式を催していただき、
感謝の言葉もありません。
我々、新入生は、先生方や先輩方に許され、本当の意味で
本日、初めて名誉あるこの学園の制服を着ることができました。
この三つ葉の紋章に恥じないよう、学園生活を送っていきます。
最後に。列席の保護者の方々にも、新入生を代表して
今まで育ててきてくれた事、そして、これからも育んでいただけることに
深く感謝の意をこめて一礼いたします。」
拍手では同等かな。保護者の一部が、ガン泣きしているのが見える。
最後に、校長の言葉だったのだが、盛り上がった後って、
あれはツライね・・・・
こういう大人数のスピーチって、慣れないと難しいからね。
校長に同情したよ。
そして、入学式は終わった。