プールでも勝ち組
自慢じゃないが、俺は幼稚園の頃は水泳クラブに入っていた。
なんか、最近本格的に自慢ネタが無いな。
少しは泳げるんだぞ と。でも、ガチで泳ぐ機会なんて人生では無いよな。
「タイタニック」になったら、多少泳げても関係なさそうだし。
7月だ。夏休みに入った。
今日は、志野ちゃんと優衣ちゃん、恵と遊びに行く。
近場に新しく、大きなプールが出来たのだ。
ウォータスライダー、流れるプール、波のプールなど、各種勢揃いだ。
「へろう、ビューチフルレデース」
待ち合わせ場所にやってきた優衣ちゃんは、謎の言葉で話しかけてきた。
「ひさびさ~」「髪伸びたねぇ」
優衣ちゃんは、高校に入ってから髪を伸ばし、長めのポニーテールにしている。
志野ちゃんは、胸に栄養が偏ったらしく、高校に入ってからかなり成長している。
みんな、高校生になって変わったなぁ。こうやって時々会うと、変化に驚かされる。
「ねぇねぇ、彼氏出来た~?抱きついちゃった人とはうまくやってる?」
毎回、優衣ちゃんに聞かれるんだ。志野ちゃんも興味津津でこっちを見てる。
「あぁ、佐野?彼氏じゃないよ」軽く答えておく。
「じゃ、お姫様だっこの人は?」こんどは志野ちゃんが尋ねる。
「え~、なんでそれを知ってるのかな?」2人に言ったつもりは無いんだけど。
「恵ちゃんが写真くれたよ。あの服可愛いよね~」横で恵がうなずいている。
ミスコン後、校内新聞にお姫様だっこの記事が写真つきで、でかでかと掲載されたのだ。
どうして、表彰写真じゃなくて、そんなのを選ぶかな。
おかげで、学校中で「付き合っている」と勘違いされた。
実際は『告白直後に、即時キャンセル』なんだけどな。
早速着替えて、プールサイドに行く。
優衣ちゃんは黄色いビキニ。志野ちゃんは白の花柄ビキニ。
いやぁ、胸の格差社会ってあるんだね。志野ちゃんの成長には負けた、完敗だよ。
「じゃ、ビーチマット借りてくるね」
じゃんけんで負けたので、俺がビーチマットを借りに行く。
せっかく流れるプールがあるんだから、ビーチマットで流れておかないとね。
レンタル受付に行く途中、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
「うぷ、うげ、やめろ抱きつくな田中」
「佐野くん、僕泳げないんだよぉ、うふふふふ」
「おい、へんなとこ触るな」
ビーチマットの上で、田中と佐野が抱き着いた恰好のまま、流されていた。
2人とも、マットの上で揉み合って半ケツになっている。
坂田が助けようとしているが、彼も巻き込まれてやがる。
こりゃ、どこかに今野もいるかもな。
俺は出来る男だから、見なかった事にした。
レンタル受付でビーチマットを借りて、電動空気入れで膨らませる。
いやぁ、電動空気入れって楽だよね。
一人でしゅこしゅこやるのかと思って、少しブルーだったんだ。
結構大きめのビーチマットを持って、みんなの元へと戻る。
てこてこ歩いていると、いきなり後ろからマットが引っ張られた。
「ねぇねぇ、俺らと一緒に遊ばない?」「持ってってあげるよ」
うげぇ、変なナンパ男、2体もゲットだぜ!
進化したら、いかしたイケメンとかにならないかな~。ならないよな。
モンスターボールに入れて、そのまま廃棄したい。
「えと、友達が待ってるので、離して下さい」
「じゃ、友達も一緒にあそぼうよ~」
このまま、みんなのところに戻るのはヤバイな。
背に腹は代えられないし、半ケツ王子のところに誘導するか?
でも、半ケツの奴紹介するのは、 いろんな意味で嫌だなぁ。
そう悩んでいたら、ふと日が陰る。誰かがそばに来たようだ。
「佐久間さん、遅いから、手伝いに来たよ」
そこにいたのは、今野だった!やれば出来る子の今野だ!助かった。
今野は、ナンパ男達より頭ひとつ背が高い。
彼らからビーチマットを取り返してくれた。
「みんな待ってるぜ~ 速く行こう」今野がダメ押しの一言。
「なんだよ、男付きかよ」「行こうぜ」
ナンパ男は逃げ出した。ザザザザッ。
「助かったよ~今野くん」
「いやいや、姉ちゃんが迷惑かけてるからさ、これくらいはしないとね。
持っていってあげようか?」
「お願いできるかな。また絡まれるといやだしさ」
今野と2人で、みんなのもとに戻る。
「ただいま~」
「お帰り~って、あれ 今野くん」「クラスメート?」
双方を紹介する。
「今野くんが居るってことは、みんなも来てるの?」
鋭いな恵。向こうで半ケツ晒してたぞ。
「あぁ。4人で来たんだ。3人とも、その辺でひと泳ぎしてるはずなんだけど」
「離せ、田中」
「坂田!海パン脱げてる!脱げてる!」
「佐野、ちょっと落ち着け、目立つから叫ぶな」
どんぶらこっこ~どんぶらこっこと大きな桃、
じゃなくて、半ケツ王子と全ケツ眼鏡が流れてきましたよ。
あ、坂田は今は眼鏡かけてないか。
「きゃ」志野ちゃんが顔を赤くしながら、違う方向を向く。
「ねぇ、あの人、りっかちゃんと一緒に写真にうつってた人に似てない?」
優衣ちゃん、鋭いね。その通りだよ。
「ううん、知らない人」しれっと答えておく。他人ダヨ?
「全く、恥ずかしい野郎がいるもんだな」ナイスフォローだ今野。
「え!?いやあれ、さか『さぁ、ウォータースライダー行こうよ!』」空気よめよ、恵。
俺は、引っ張るようにみんなをウォータースライダーに引っ張っていった。
後日、聞いた話だと、今野は俺たちと別れた後、彼らを助けに行ったのだが一足遅く、プールの係員に彼らは拘束され、放り出されたらしい。
おかげで、我々女子4人は、プールを十分に満喫できた。




