手芸部でも勝ち組
自慢じゃないが、俺は手先が器用だ。
子供のころからプラモデル大好きだったからな。
今世では女の子だったので自重した というか買ってもらえなかったが。
高校に入学してから1か月。GWも過ぎ、5月に入った。
この1か月の間に、既に2人の生徒に告白された。
これだけなら、もてる という事で済むのだが、相手が悪い。
坂田と今野(姉)だ。
もしかして俺は、深刻な女子力不足なのでは無いだろうか。
だから、坂田のようなネタ男子や、女子にもてるのではないか。
女子力アップのために手芸部に入部はしたが、女子力の高そうなお手本が欲しい。
志野ちゃんのような。
布団の中で、そんなことを悩んでいるうちに、いつの間にか寝ていた。
男の体に戻った俺が、猫耳メイドの服を着ている夢を見た。
最低な夢見だった。寝過ごしており、気分は最悪だ。
駅から学校まで頑張って走る。
スカートで走ると、余計に体力を使う。
5月の陽気もあって、体が火照ってきた。
なんとか、朝のHR直前に、教室に滑り込んだ。
「はぁ はぁ、はぁ。なんとか間に合ったぁ」
「おはよ~。遅かったねぇ 寝坊した?」「珍しいね」
アリサと恵が出迎えてくれる。
「寝過ごした~。もう暑いね」
上着を脱いで、リボンを取って、ブラウスのボタンを1つだけ外す。
ここが女子校ならもっと外してぱたぱたしてるとこだが、共学でやると変態だからやらない。
まだ、少し余裕があるので、8X4のお世話になってきた。
朝から汗臭いって、さらに女子力を下げそうだからな。
休み時間。アリサと恵に、声をかけておく。
今日は手芸部でお菓子作りをするのだ。
「アリサ、今日手芸部の調理班に行って、何かお菓子を作るつもりなんだけど、
部活、何時ごろに終わる?持ってくよ」
「さすがりっか様。今週はプールの大掃除だから、早めに終わるよ。
ちょっとだけ泳いだら栓を抜いちゃうから、5時過ぎには終わるかな」
5時か、ちょっと遅くなるかもしれないな。
「焼きあがりが間に合うかなぁ?水泳部が終わったら、調理室にきて待ってて」
「あいよ~」
放課後。今日は3時30分に授業が終わる、部活日だ。
四堂高校手芸部は、小物班、服飾班、調理班、工芸班の4つの班に分かれている。
好きな時に、好きな班で活動できる自由さがあり、男子の部員も少なくない。
調理班の班長は「差し入れダヨ~」で有名な2年生の鷹司やよいさん。
いつもにこにこした、少しぽっちゃり系の先輩だ。
「差し入れ」を武器に各地にファンが多いらしい。今野の従姉だったりする。
工芸班の班長は、3年の一条光先輩。
外見は『船大工』。筋肉で覆われた、いかつい体つきをしている。もちろん男。
初めて工芸班を見学に行ったとき、部屋を間違えたかと思った。
手芸部にいるとは思えないような(外見の)人材だった。
工芸班では、木工細工や金属細工、ガラス細工を作っている。
シルバーアクセサリーや手彫りの木工細工、ガラスの小物など、文化祭では好評だ。
小物班の班長は、3年の二条さくら先輩。
部長におされて影が薄いが、実際影が薄い。
服飾班班長は、2年の近衛まどか先輩。
変態とえろおやじを足して、1で割ったような人だ。
いつか、放送禁止な事をしでかすに違いない。
今日の部活は調理室に直行。調理班の活動も参加自由だ。
ただ、決まりは一応存在し、友人や彼氏といった部外の相手にあげるためには、事前の登録と材料の持ち込みが必要になる。
バレンタインデー前には、結構込み合うらしいな。
抜かりなく、2人分登録しておいた。アリサと恵のぶん。いちごと俺は部員なので登録はいらない。
俺は出来る男だから、遅刻はしても、材料を忘れるようなミスはしない。
本日は、スイートポテトを作ります。
電子レンジでサツマイモをチンしてこねこね。バターとお砂糖を入れてこねこね。
なめらかになったら、適当な形に成形して、卵黄を塗る。
みんな、いろんな形を作ってるな。俺は定番のいも型にしておいた。
オーブンプレートのすみに、作ったスイートポテトを並べていく。
他の人が作ったのを見ると、定番のイモ型が多数。丸い形や星型もある。
可愛いハート型は、誰かが彼氏に持ってくのかな。
東京銘菓『ひよこ』にしか見えない形もある。
今は可愛いひよこでも、焼いたらスズメになると思うんだがなぁ。
京都名物『五重の塔』にしか見えない形もある。
そういえば、近衛先輩が建造してたな。
高さは10センチくらいだろうか。
どう考えても、【炎上】以外の結末が見え無いぞ?誰か教えてやれよ……
オーブンに皆が作ったスイートポテトを入れる。200度で予熱済み。
加熱すること10分。なんか、焦げくさくなってきた。
鷹司先輩がオーブンを覗いている。
「まどか、まどか~」
「なんだ、やよい。もう焼けた?」
「うん、燃えてるヨ~」
あ、黒い煙出てる。だから、急遽オーブンを2台にしたんだね。
近衛先輩用と、他の人用で。
加熱十数分で、スイートポテトは綺麗に出来上がった。
ひよこは予想通り、スズメに成長した。
五重塔は予想通り、上半分が灰になった。
いちごと俺が作ったスイートポテトは少し型崩れしたけれど、
ほくほくに焼けていておいしそう。
焼きあがりを待っていたかのように、アリサと恵も合流したのでみんなでおやつにした。
初めて作ったスイートポテトは、なかなかの味だった。
「なんか、焦げくさいけど、どうしたの?」
「ちょっと、焦げちゃってね」
たぶん、真実を言っても、誰も信じないだろうな。
「今度は、大阪城にチャレンジだ」
「二次元にしたほうがいいヨ~」




