部活動でも勝ち組
自慢じゃないが、前世の俺はサッカー部に入っていた。
中学時代は野球部だったが、高校ではサッカー部だ。
理由は、坊主頭が嫌になったのと、女子にもてたかったから。
「サッカー部は女子にもてるよ」と先輩に勧誘されたのだ。
4月も終わりになると、部活勧誘が大詰めを迎える。
佐野はサッカー部、坂田はテニス部、今野と田中は帰宅部。
アリサは水泳部、いちごは手芸部、恵は文芸部。
部活勧誘のポスターや立て看板を見ながら歩いていたら、いつの間にかサッカー部の部室前に居た。
前世ではこの部室で3年間を過ごした。強い部では無かったが楽しかったな。
思い出に浸っていたら、背後から声をかけられた。
「ねぇ、君、サッカー部のマネージャ希望?」
振りかえると、懐かしいサッカー部の面々がいた。佐野の姿も見える。
あの子、ミスコンの猫耳ちゃんじゃないか?という囁き声が聞こえた。
「いいえ、ちょっと通りがかっただけです」
「あれ、佐久間」横から、佐野が話しかけてくる。
「やほ~。そういえば、佐野くんはサッカー部だったね」
俺も前世ではこのサッカー部だったけどな。
「佐久間、良かったら、サッカー部のマネージャやってみない?」
「う~ん、どうしようかな。少し考えさせて」
手を振って、そのまま歩きだす。
正直なところ、この部でマネージャーも良いかな という思いもあったんだ。
だけど、冷静になって思い出してみると、女子マネ10人以上いたんだよなぁ。
さっきも、女子マネの半数くらいは、俺の事を超怖い目で見ていたし、
ここは、やめておこう。あばよ、佐野。
とはいえ、部活をやらないのもヒマになる。
「おぉ、佐久間、佐久間。ええとこで会ったわ。ちょいとここに名前書いてな」
「あれ、手芸部の副部長さん。えーと、入部届?」
「うんうん、あねさんのような、ぼんきゅっぼんのえろい体したおなごは貴重やん。
とっとと囲っておこ、思うてな」
「大阪弁でしたっけ?」
「女の子だから、そういう日もあるねん」
似非大阪弁のことはおいといて、手芸部かぁ。俺は手先の器用さには自信がある。
女子が編み物しているのを見て、ちょっとやってみたいな とか思ってたんだよな。
「ふふふ、クリスマスに手編みのマフラーとか、男子は弱いねんで。
夜になったら、あっつあつのねっちょねちょに突入確定やわ」
あんた、本当にえろいな。だが、まぁいいか。
「わかりました。手芸部に入部します」
「あんがとな~。うちは、副部長の2年A組 近衛まどか いうねん
これから、よろしうな、時は金なりや、早速部室行くでぇ」
近衛先輩の行動力はどこから来るんだろうな。
四堂高校手芸部は、小物班、服飾班、調理班、工芸班の4つの班に分かれている。
好きな時に、好きな班で活動できる自由さが売りで、男子の部員も少なくない。
「ねんがんのモデルをてにいれたぞ!」
近衛先輩は、手芸部の部室に入った途端、大声でそう叫んだ。
「さすがだ、まどか。よくやった!」
部室の中には、女生徒数人の輪がいくつかあり、
その中から、頭ひとつ背が高い3年の女生徒がこっちに歩いてくる。
目つきがきついが、スタイルは良い。この人がモデルやればいいのに。
「私は、部長の九条園子だ。よろしくな、猫耳ちゃん。
さて、まどか。私は、お前に選ぶ権利をやろう。
『力ずくで奪われる』と『手っ取り早く奪い取られる』のどっちが良い?」
「部長はん、そない脅しには屈しまへんで。お望みどおり勝負しましょや」
「望むところだ。どっちが多く、お手玉を作れるか勝負だ」
「負けまへんで」
2人は、すごい勢いで手近な机に駆け寄り、お手玉を作り出した。
「りっかちゃん、こっちこっち」
呆然としていた俺を、いちごが女生徒の輪の中に連れて来る。
輪の中心には机があり、その上には、
お手玉の材料と思われる布きれと、針と糸、小豆が山になっておいてあった。
「ごめんね~。うちの部長と副部長、いつもああだから」
「今ね、介護施設に配るお手玉を作ってるんだ。教えるから、やってみない?」
俺は手芸部の部員に教わりながら、お手玉を作ってみる。
なかなか難しい。いびつではあるけど、なんとか一個、形になった。
自分の努力が形で見える ってのは楽しいもんだな。
「できた!でこぼこですけど」
「でこぼこしてたほうが、指先をいろいろ使うことになるから良いんだよ。
みんな、長生きしてくれるといいね」「ね~」
いちごが、手芸部はみんな仲がいい って言ってたけど、本当だな。
「諦めたらどうだ?今なら、週に1時間だけ貸してやってもいいぞ」
「そないなこと言うてられるのも、今のうちや。ひいひい泣かしたるわ」
「調理班から差し入れダヨ~。カロリー控えめのクッキー焼いたヨ~」
「わ~い」「休憩~」「佐久間さんこっちこっち」
「猫耳作ったのわたしなんだ」「すごく可愛かったよね」
「ありがとうございます」
焼きたてのクッキーは、甘さ控えめでおいしかった。
「そんな腕で勝負になるとでも思ってるのか?あぁん?」
「ここからが本番や、俺の右手が真っ赤に燃えるぅ~」
あれは、ほっといて良いんだろうな。
お手玉は5個作れた。でこぼこしてるけど、自分で作ると愛着がわく。
なかなか面白いな、手芸部。今度は、調理班か工芸班を見に行くか。
「はははは、お前はこの九条園子にとってのモンキーなんだよ まどかぁぁぁ!」




