ミスコンでも勝ち組
自慢じゃないが、俺は女装したことがある。
自慢ネタが自虐ネタになってきたが、これは事実だ。
猫耳メイド(男)。佐野や坂田に爆笑された黒歴史だ。
アリサは「似合ってるよ」と言ってくれたが、慰めにもならんわ!
四堂高校では、毎年2回ミスター&ミスコンテストが行われる。
文化祭で行われる個人戦ガチ勝負と、4月に行われる1年クラス対抗のペア勝負だ。
4月版は出場対象が1年生に限られるため、いつからか
『お題』にあわせて男女ペアでコスプレをする という種目に変わっていた。
今年度のお題は『執事服』『猫耳メイド』の2つ。
各々男女ペアになるので、1クラスにつき合計4人が出場する。
前世では、『執事服』に坂田&アリサペア。
『猫耳メイド』に俺といちごが出場した。
結果、4クラス中、執事服は圧勝で1位。猫耳メイドもなんとか2位。
いちごの魅力に目覚めた紳士からの集団票が効いたらしい。
コンテスト後、個人投票トップがコスプレのまま校舎内を歩くのだが、
坂田といちごは、まさに「お嬢様と執事」だった。
そして、2回目の今世。
HRで、クラス投票で代表者を決める。担任はにやにやしながら後ろで見ている。
『執事服』は鉄板の、坂田&アリサ。
『猫耳メイド』は、田中と俺。またこれに出るのか。
放課後、手芸部&演劇部の有志の協力のもと、採寸し服を仕立ててもらう。
仕上がりは親睦旅行から帰った後になるが、実はちょっと楽しみなのだ。
男の時は、生き地獄にしか思えなかったけどな。
親睦旅行後のある日。
コスプレの仕上がり調整の為に、出場者は手芸部に試着に来ていた。
執事服は、いわゆる燕尾服風のスーツ。
坂田は軽く着こなしている。何故、あいつはあんなに似合うんだ?
アリサは大学の入学式か七五三のように、慣れない服に着られている感じ。
猫耳メイド服は猫耳つきカチューシャに黒を基調としたゴスロリ風ドレス。
女でも、着るのは恥ずかしいのに、男でこれを着ようというのは、あまりにも勇者だ。
前世の俺 頑張ったな。
「スカート丈、少し短かすぎじゃ無いですか?」
試着してみると、思ったよりも丈が短く、脚が心もとない。
胸もきついし、ウェストもふたまわりは余裕がある。
「あなたの腰の位置が普通の人より高いのよ。
大丈夫大丈夫、体育館暗いから、黒タイツ履いとけば見えないって。
むしろ、逆転の発想でノーパンにすれば、絶対に見られないよ?」
手芸部副部長の無茶ぶりを軽く流し、何点かの直しをお願いした。
そして、やってきたミスコン当日。
メイクはばっちり。髪型もアップにして、うなじの白さと首の細さを強調。
全員の準備が整ったところで、全校生徒の集まった体育館の壇上に上がる。
俺は前世で、何度も大人数相手のプレゼンで場数を踏んでいるから、
この場でも自然体で居られる。
しかし、坂田の、あの落ち着きっぷりは天性のものなんだろうな。
一方、田中やアリサは緊張でガチガチ。他の生徒も似たようなものだ。
まずは『執事服』から。
「次は2組、坂田浩司くんと黒木アリサさんです」
坂田が颯爽と歩いていき、アリサが後ろからついていく。
壇上中央のマイクの前まで行き、執事っぽいポーズを取って台詞。
「お嬢様、お茶の用意が出来ました。
本日は暖かくなって参りましたので、ハーブティーをご用意いたしました」
次いで、アリサが台詞。
「え、え、と。ふぃなんしぇ? をお焼きしましたので、
ごゆっくりとおくつろぎ下さいませです」
「では、失礼いたします。お嬢様」
相変わらず、坂田は度胸があるし、動きに華があるな。
他の組も演技するが、やはり坂田が飛びぬけている。
続いて、『猫耳メイド』。
「続いて2組。田中広太くんと佐久間律花さんです」
美人教室で習った、モデルウォークで歩く。
重心のかけ方、手の動かし方が、綺麗に見せるこつだ。
田中は、ハイヒールに慣れずによたよたしている。
マイクの前まで行って、くるっくるっとターン。
そして、両手を猫耳に添えながら、台詞。
「お帰りなさいですの、ご主人様。お食事にしますかにゃ?
それとも、お風呂にしますかにゃん」
この台詞つくった演劇部員バカだろ?
審査結果は『執事服』『猫耳メイド』両方とも我々2組の勝利に終わった。
この後、個人得票の高い、坂田と俺が校舎内を一周する。
「行こうか、佐久間さん」
坂田がエスコートしてくれるのだが、慣れないハイヒールに短かすぎるスカートのせいで、階段がきついきつい。
「ごめん、坂田くん ちょっと待って」
「あぁ、ごめんね、気がつかなくて」
坂田は、俺のそばにきて少ししゃがむと、いきなり俺の体を持ち上げた。
これは、お姫様だっこ ってやつだ。
初めてやってもらったが、人前でされると、すごく恥ずかしいな。
坂田はそのまま階段を降ろしてくれた。そこで抱っこは終わり。
ちっ、全行程行ってくれれば楽だったのになぁ。
「ありがとう、重かったでしょう?」
「いや、佐久間さんは、軽いから大丈夫」
その後、てこてこ自力で歩いて、校舎1週を成し遂げた。
イベント終了後、制服に着替える。
校舎一周に手間取ったので、手芸部の臨時更衣室には俺と坂田だけ。
メイクを落とし、制服に着替え終わると、外で坂田が待っていてくれた。
外はもう夕方だ。夕陽の赤い色が、坂田の眼鏡に反射してすこしまぶしい。
「佐久間さん。俺のことを好きになってみないか?」
いきなり、坂田が俺に問いかけてくる。
いつもの微笑んでいるような優しげな表情では無く真剣な表情をしている。
眼鏡の奥の瞳は、じっと俺を見つめていた。
これは、もしかして………
「あのさ、坂田くん。好きな人に胸を揉まれると大きくなる ってのは、
一過性のものだから、すぐにしぼむよ?」
坂田の表情が凍りつく。やっぱりだ。
人の胸で、変な育成計画を立ててたな コイツ。
「すまない、今言ったことは忘れてくれ」
坂田は、愕然とした表情のまま、よろよろと去って行った。
これは、フラグが立ったうちに入るのだろうか?
それとも、立ったフラグを俺がへし折ってしまったのだろうか。
女子力………たったの5か ゴミめ




