伊豆旅行でも勝ち組 そのに
伊豆旅行2日目の早朝。
物音でふと目が覚めると、枕元で志野ちゃんがごそごそしていた。
「むぅ、おはよう」
「おはよう、ごめんね、おこしちゃった?」
「お風呂入るの?」志野ちゃんはバスタオルを持っている。
「うん、せっかくの温泉だから。」
この豪邸では各部屋にバスユニットがあり、温泉が引かれている。
「じゃ、一緒に外湯に行かない?」
「まだ、6時前だよ?やってるかなぁ?」
「6時には開くから、大丈夫だよ」
この豪邸から徒歩1分のところにある外湯「なんとかの湯」は、
戸田家とも永く懇意にしているそうで「戸田のつれ」と言えばタダで入湯できる。
優衣ちゃんと恵を起こさないように、こっそりと部屋を出て、外湯へ向かう。
途中、既に起き出して、朝食の準備をしていたおばさんに会ったので、
外湯へ行ってくることを断わっておく。戻ってきたら、お手伝いしますね。
伊豆の朝6時は、まだ涼しかった。空は快晴。今日も暑くなりそうだ。
「女湯」と書かれた暖簾をくぐる。
昔は、無意識で「男湯」に入ってしまった事もあった。
当時は笑われるだけで済んだが、中学生だと笑い話では済まないので、
気をつけるようにしている。
「しのちゃん、焼けたねぇ」
彼女の肌には、くっきりと痛々しい日焼けあと。
「うん、まだ少し痛い。赤くなっちゃったなぁ」
「あがったら、日焼け用の化粧水貸したげる 効くよ~」
体育会系の優衣ちゃん家だから、ちゃんと持ってきておいたのだ。
露天風呂にゆっくり浸かる。空が青い。
今日は、熱川のバナナワニ園に行く予定だ。
昨日ほど日焼けしなくても済むだろうな。
「あ、いたいた~」「おはよう」優衣ちゃんと恵もやってきて、
あとはいつも通りの裸の付き合いになった。
どうして女子はスキンシップが大好きなのかなぁ。
温泉の後は、朝ご飯作りのお手伝い。
朝もぎの野菜のフレッシュサラダ。産みたて卵のオムレツ。焼きたてのパン。
手作りのベーコンとソーセージ。フレッシュジュースは飲み放題。
そして、食べ放題のどんぶり飯と納豆、味付けのり。
カップラーメンは、普通のとシーフード、塩、カレーがお好みで。
ま、俺も昔は食ってたからなぁ。カップラーメンまで食いたがる気持ちもわかる。
前世では30を超えたら、さすがに食事に気を使うようになったし、
産まれ変わってもそれほど食生活は変えてないから、スタイルは抜群だ。
食事の後、何組かにわかれる。
海釣りに行く班も居れば、今日も泳ぐ班もいる。
女子4人は、バナナワニ園に行く班だ。10人乗りのバンに乗って、行ってきた。
ワニばっかりに思われがちだけど、熱帯植物園でもある。
どうして南国の花は、こうド派手なんだろうねぇ。
トロピカルフルーツのジュースやデザートを満喫してきた。
帰りがけに、夕食の買い出し。漁港そばの即売場に行って、
新鮮な海の幸を物色。今夜の夕食は、お刺身を始めとした、海の幸づくしになる。
まぁ、海に来たら食べつくしておかないとね。
夕食の時間。デカイ台所にみんなで集まってご飯を食べる。
まずは、刺身の船盛り。船が多すぎて、海戦やってるようにしか見えない。
「赤壁の戦い」と名付けてもいいかな?
配膳を手伝ったのだけど、だんだんジオラマ作ってる気分になってきた。
海戦は序盤から激戦だった。
いきなり大船に取付く猛将、小舟を渡り歩く勇将、一騎当千の猛者たちが
我こそは、と切り込んでいき、どんどん船(盛り)が轟沈していく。
だが、台所側も負けては居ない。増援の地鶏唐揚げ部隊が現れた!
脂っこい料理を混ぜることで食欲を抑えようという作戦だ。
船戦には油。「赤壁」以来のセオリー。これぞ、孔明の罠だ。
しかし、ここにビール片手のおっさん達が登場、唐揚げを確保して、
ナイター観戦に移動していく。風向きが悪いようですよ、孔明さん。
そして、大船が相次いで轟沈していく。ついに、残る大船は1隻を残すのみ。
船上には、敗者のようにしその葉や大根が散らばっている。大根も食えよ・・・・
この時を待っていたかのように、台所側の本命、海鮮雑炊丸が戦線に投入される。
10号の大ぶりな土鍋に小エビや小魚で出汁をとった雑炊がたっぷり入っている。
大人2人がかりで搬入されるその雄姿は、まるでデス・スター!
既に腹8分となっていた攻略側を、次々と薙ぎ払っていく。
このまま、台所側の勝利か と思われた。
だが、勝負は終わらなかった。
小学生たち。食べるスピードで中学生に劣る彼らが、自分の船盛りを撃破し、
海戦雑炊鍋に参戦してきたのだ。
その姿は、まるで若きルーク・スカイウォーカー!
巨大なデス・スターに、勇気を持って立ち向かっていく。
中学生たちも、残った別腹を動員して参戦し、攻略側は全ての料理を
食べ終わったのだった。
俺?普通に食べて、雑炊も1杯だけ食べたよ。
出汁がよくでてておいしかった。料理はたくさん一気に作るとおいしいよね。
こうして、旅行2日目は過ぎて行くのだった。
明日は最終日だなぁ。
 




