旅行準備でも勝ち組
自慢じゃないが、俺は泳ぎが得意だ。
前世では、保育園の頃からスイミングスクールに行っていた。
30を超えても、運動のために月に2回は泳いでいた。
今世では、小学校に上がるときに辞めてしまったが。
7月に入ったある日の事。
その日も俺は、水着の着替え中に襲ってきた優衣ちゃんとじゃれあっていた。
「そだそだ。みんな、夏休みひま?うちのお祖母ちゃん家に来ない?
すごく大きいから、みんな泊まりにきても平気だよ。」
「へぇ、何処に住んでるの?」
「伊豆~。温泉もあるし、海水浴もできるし、最高だよ。」
中高一貫校の中学1年生。
勉強は山場を迎えておらず、部活動も大きな大会に出場できるほどでは無い。
夏休みは、これといったイベントも無く、みんなヒマになる。
そして、我々の伊豆旅行が決まったのだった。
優衣ちゃん家は、夏と正月に一族が伊豆に集まる。一族の総人数なんと18人!
お祖母ちゃんを家長とし、子供が3人兄弟で、その奥さんも居る。
3人兄弟は長兄(伯父)3人、次兄(優衣パパ)5人、末弟(叔父)3人。
優衣ちゃんは、次兄の子供、5人兄弟の真ん中にあたる。
この孫たち合計11人のうち、女の子は優衣ちゃんしか居ないため、
お祖母ちゃんの大のお気に入りなんだとか。
「お兄ちゃんの友達も来るからさ、バスを借りてみんなで行くんだよ。」
伯父一家は元々伊豆に住んでいるので、優衣ちゃん一家と叔父一家、
あわせて12人+友達が、二十人超のレンタル小型バスで向かうらしい。
まるで修学旅行。すさまじいスケールだ。
「働かざるもの食うべからず。お手伝いしてもらうけどね。
宿泊費、食事代タダだし、目の前が海だから、いっぱい遊べるよ。」
そいつはいいなぁ。かなり安くすみそうだ。
まぁ、さすがに手土産くらいは持っていくけどな。
そういった会話をした、次の土曜日の昼過ぎ。
我々4人は、デパートに集合しています。
今日のお題目は、
「祖母ちゃんへの手土産購入」「体育祭でのクレープ清算」「水着選び」
の3本となります。
まずは、手土産。
優衣ちゃんの前情報から、甘いもの、それもチョコレートが好きというので、
GODIVAのトリュフにしておいた。ある程度日持ちするから良いよね。
好みがはっきりしている人は、こういうとき楽しい。選びがいがあるからね。
そして、クレープ。
デパートのフードコートでは、季節のおススメフルーツを使ったクレープ屋が
今日も女子を惹きつけています。
律「定番のいちご生クリーム」志「定番はチョコバナナでしょ?」
恵「わたしは、ブルーベリーお願いします」優「むむむ、悩む」
恵と俺は、借り物勝負に勝ったので奢ってもらえるのだ。
頭をよぎる、鬼嫁弁当。いや、もう忘れよう。クレープが苦くなる。
優「いちごも~らい」律「くぅ。一口いかれた、じゃチョコバナナをぱくっと」
志「あ、あ~」恵「ブルーベリーたべる?」志「うん。ありがとう」
みんなで食べるとデパート屋上のクレープ屋でも極上に思えるから不思議だ。
しかし、冷静に考えると、38歳のおっさんがやっていいことじゃないよね?
いや、考えるのをやめよう。今度はクレープがしょっぱくなる。
最後は、水着売り場にやってきました。
小学生の頃は、お袋の趣味である、ふりふりひらひらだったけど、
中学でそれはまずいような気がするんだ。
「そういえば、今日は優衣ちゃん静かだね?ビキニビキニって騒ぎそうなのに」
「いつも、女子があたしだけだからさぁ。ちょっとビキニは恥ずかしいなって。
でも、今年はみんなで着るのならやるよ!」
やんないけどな。
ふぅむ、しかし、悩む。
どれにするか?ってのもあるのだが、最近、思考まで女子化している気がする。
派手なネタ系水着を見ても、興奮よりも呆れる感情が先に来る。
ちょっと前世視点で、みんなの試着室覗いてリハビリしておくか。
まず、優衣ちゃんは、黄色と黒のストライプで、タンキニってやつだな。
スポーティな感じが彼女にぴったり。このまま元気な娘に育ってほしいなぁ。
次に、志野ちゃん。ピンクの花柄フリルつきワンピース。
彼女は、ちょっとだけぷよちゃんなところもあるが、あと何年かすると女性らしい丸みとなり、男子から「そばにいてほしい娘」として人気がでるだろうな。
最後に、恵は白い肌に紺色のワンピースが・・・って、スクール水着みたいだな。
これはこれでマニアはいるんだろう。俺には良くわからんけど。
結局、中1女子の水着姿じゃ、あんまりリハビリにはならなかった。
「り~っちゃん。お買いもの?」
この声は、ほのか先輩かぁ。買い物の時は良く会うな。下着のときといい。
ほのか先輩は淡いピンクのシフォンワンピースに白い肌とふくよかなバストが最高
前世視点だとドキドキしてくるな。顔が赤くなってきた。
「えぇえ、友達と水着を選んでるんです。ほのか先輩は?」声が少し裏返る。
「予備校に行くところ。通りがかったらりっちゃんが居たから声かけちゃった。
時間もあるし、迷ってるなら選んであげようか?」
「お願いできますか?」
ほのか先輩のセンスは信用できるもんな。下着のときもそうだったし。
「りっちゃんはスタイル良すぎてやせ気味だから、こんなところかなぁ。」
オレンジの花柄ワンピースにパレオ。サイズは、たぶんあってるんだろう。
「試着してみますね。」
早速着てみる。パレオってどうやって巻くんだ?浴衣の帯とはちがうもんな。
ほのか先輩に教えてもらいながら巻いてみる。完成。
「おぉ。かあいい」「似合ってる~」
みんなに褒められると照れるなぁ。これに決めよう。
鏡の中には、可愛らしいオレンジの水着を着た、ほっそりとした女の子。
ちゃんと出るとこは出ていて、少年雑誌のグラビアで上位に食い込めそうだ。
ファッションセンスって、女子には大事なんだな。学んでおかねば。
でも、高校まではコレでいけるだろ。
そう思うこと自体が、まだまだ女子化していない証拠 であることに、
俺はこの時、まだ気が付いていなかった。
 




