体育祭でも勝ち組
自慢じゃないが、俺はスポーツにはうるさい。
やる方もそこそこだが、見る方もだ。
野球など、ビールがあればいくらでも野次れる。
スーパーボウルでは、ハーフタイムのチアガールにも声をかける。
そんな俺が、今は女子校の体育祭に来ていた。出場側として。
体育祭は、中高同時に開催される。
とはいっても、中等部と高等部は、グラウンドのはしとはしで
同時に進行していくので、あまり接点は無い。
だが、入場の許容量というものは存在するので、入場制限がかかる。
毎年、入場券は、プラチナチケットと化していた。いろんな意味で。
校長の話、選手宣誓とプログラムは進んでいく、といっても、やることは行進するぐらい。
「次は、中等部1年、二人三脚借り物競走です。選手は所定の位置に集合してください。」
さっそく出番。
「いちご、バナナ、それともキウィ・・・ふふ燃えるよ!」
クレープごちバトルに燃える優衣ちゃんと、引きずられがちな志野ちゃんのペア。
「恵、私たちも頑張るよ!」
「はい、背後霊さん、見ててください。恵は頑張ります。
もし、もし、勝てたら、私、勇気を出して告白します!」
あぁ、だから二人三脚したかったのね・・・・右側で。
俺の背後霊は、前世での俺の形をしていて、いつも物憂げに周りを見ているらしい。
気にはなるが、恵にしか見えず、喋る事もないので、気にしない事にしている。
そして、恵。俺を無視すんな。
二人三脚借り物競走とは、二人三脚で借り物競走を行う、過酷な競技だ。
2か所のチェックポイントには体育委員が立っており、彼らの持つ箱の中には
高等部3年生からの、心づくしの「借り物」達が取りだされるのを待っている。
我々の出番がやってきた。
「よーい、ドン!」
恵と俺のペアがトップ。少し遅れて、優衣&志野ペアと他3組が並走する。
まずは、一つ目のチェックポイント。
「はーい、好きなのえらんでネ」
体育委員の先輩が、箱を差し出してくる。
俺が早速、中から一枚の紙を取り出す。
『ギャルのパンティ』
ちょっと待て、それはこの衆人環視の中で脱げと?
それは困る。トイレにでも行って・・・それも嫌だ。恵に脱がせればいいのか。
「すみません、下ネタなのでチェンジで。」
恵が紙を先輩に渡す。
「これはしょうがないよね。はい、もう一枚どうぞ。」
借り物競走といっても、下ネタや、車、ブランド品といった借りにくいものは変更が
可能なルールになっている。脱いだぱんつ片手にゴールしてもうれしく無いものな。
今度は恵が紙を取り出す。
『江口先生』
胸元を嫌らしい目で見てくる、脂ぎったエロ教務主任か。
まぁ、教員テントに行けば居るだろ。そう思って走り出そうとしたら、
「すみません、下ネタなのでチェンジで。」
恵が紙を先輩に渡す。少しの間、沈黙があり・・・・
「これはしょうがないよね。はい、もう一枚どうぞ。」
OKがでた。下ネタ扱いで良いんだ、これ。
『眼球』
は?目をこすってもう一度見直すが、眼球だった。
そうか!理科準備室の人体模型。あれは確か眼球が取り出せたはず。
「はい、眼球です。」恵が自分の目を指差しながら、目をぱちぱちしている。
「はい、OKですよ~」
ナイス機転だ。「見せる」事ができればOKだったな。
少し手間取ったせいで、優衣&志野ペアには抜かされたが、まだ追いつける。
二人三脚でよろよろしながら、次のチェックポイントに着いた。
今度の体育委員は、中等部の2年生、小柄で眼鏡をかけた気弱そうな女生徒。
「借り物を引いてくださ~い」
『真心のこもった、手作りのおべんとう(はぁと』
ほのか先輩だな、これ。筆跡でわかるぞ。これはチャンスだ。
もし、借り物競走が午後であったならば。苦しい借り物であったろう。食べちゃうもんな。
だが、今はまだ午前中。早弁しているバカを除けば、誰でも所持しているはずのモノだ。
手作り弁当などいくらでも借りられるだろう・・・・・
「ん?何してるの?」
恵が唐突にグラウンドに座り込み、土団子を作り始めた。
2個、3個と作り、手の上に乗せて体育委員の眼前につきだす。
「鬼嫁の真心がこもった、意地悪な姑に食べさせる手作りのおべんとう(はぁと です。」
「え?え、え?でも、食べられなきゃダメじゃないかな」
「意地悪な姑なら食べられます。いえ、無理にでも口にねじ込みます。
先輩は、意地悪な姑ですか?ひとつ食べてみますか?」
「・・・はい、良いです」
OKがでた。ちょっと後ろ暗いような気持ちがあるが、気のせいだろう。
「急ぎましょう、このままトップです。」
てづくり弁当を投げ捨てながら、恵が気合を入れる。
投げ捨てられ、ぼろぼろになった真心を踏みにじりながら、我々は走り出した。
そして、見事、二人三脚借り物競走で1等になったのだった。レーンから出ること無く。
そういえば、何一つ「借り」ていないな。
「負けたぁ~」
我々がゴールしてしばらくすると、優衣ちゃんと志野ちゃんがやってきた。
2等のようだ。
「借り物が、簡単だったからね。」恵が返す。
「わたし達は、『靴下』と『眼鏡』でした。眼鏡でちょっと躓いちゃったかな」
「こっちは、『眼球』と『お弁当』」
「良く借りれたね?」
「へへ・・まぁ、ね」
そして、我々の体育祭は終わりを告げたのだった。
後日。
「りっちゃん、借り物何だった?」
「あ、ほのか先輩。
『眼球』と『真心のこもった、手作りのおべんとう(はぁと』でした。」
「あ、わたしの引いてくれたんだ~。運命だねぇ。で、どんなお弁当だったの?」
「え、えーと、ゴマ塩のおにぎりでした。」
本当のところは、答える事が出来ませんでした。




