産まれ変わる前も勝ち組
自慢じゃないが、俺は人生の勝ち組だ。
名前は、佐久間律人。今年で38歳になる。
アメリカに留学し、MBAを取った後、
世界最大手のコンサルファームで活躍。
35歳の時に独立し、ロスに事務所を構える。
活動範囲は、北米を中心だが、アジア圏にも少々。
父親は、佐久間雅人。中規模の貿易会社を営んでいる。
母親は、佐久間美花。3年前、自動車事故で他界した。
俺の人生、多少の失敗もあったが、それをバネにし、
成功してきた自信がある。
ただ、母親に関してだけは別だ。
20後半あたりから、母親は結婚話を持ちこむようになった。
それを邪魔に感じた俺は、自然と実家に帰らなくなった。
仕事の関係で親父とは時折あってはいたが、
母親とは10年ほど疎遠にしていた。その時、事故が起きた。
産んでくれた母親に、孫の顔を見せることが出来なかった。
それだけが、俺の人生での、唯一の失敗だ。
その日、俺はロスの街を歩いていた。
ここ半年間手がけていた、州政府主導のPJがやっと軌道にのった。
ひさしぶりに飲み過ぎ、ほてった体を覚ますために少し歩いていた。
そこに、居眠り運転だったのか、白いセドリックが突っ込んできた。
酔ったせいで、体の反応が鈍い。
体に衝撃を受けるが、不思議と痛みを感じず、
母親の事を思い出しながら、闇に落ちていった。
次に目が覚めた時。
誰かが俺の顔を覗き込んでいた。
その面影は、若いころの母だ。
隣には、若いころの親父がいる。
「りっちゃん、かわいいでちゅね~」
親父の赤ちゃん言葉が少し気持ち悪い。
これはなんだ?
SFでよくある、走馬灯ってやつか?
それにしてはリアルだな。それにこの場面から変わってないし。
もう一度人生をやり直している ってとこか・・・・
だが、記憶も知識もあるようだ。
これなら俺自身の事故も、そしてお袋の事故も回避できる。
それどころか、俺の持つ知識やノウハウは、今の時代なら超最先端だ。
どんな政策が来るか、どんな製品が当たるか、全てわかる。
くそう、成長するのが待ち遠しい。
いや、小学生でも起業した というのがあったな。
10歳くらいまでは大人しくしておくか。
思考が一区切りつくと、眠くなってきた
ぼんやりとした意識の中、両親の声が聞こえる。
「ほら、あなた、そろそろ眠っちゃうわよ。」
「そうだな。お休み、律花 たくさん眠れよ」
 




