いつかの話をしよう
たぶん、俺死ぬわ。
隣の男が、突然そんな事を言い出した。
たぶん彼の中では、それは突然なんかではなく。
たった今しがた見終えた、ありきたりなラブストーリーに感化されてのことだろう。
全米が泣いた、なんて使い古された煽り文句を引っさげて、一時期うるさいくらいにCMが流されていたのを覚えている。
今回は地上波初登場らしく、なんとなく二人で見ていたのだ。
どうやらアメリカ人とは感性が違う私は、泣き所もわからなかったのだけれど。
涙もろい彼は、序盤の方から目を潤ませていた。
「お前が死んだら、後追って死ぬ」
映画の中のヒロインは、余命宣告を受けて死んだ。
それと重ねているのだろう。
「……あ、そ」
失礼な話だ。
私はぴんぴんしているというのに。
「一秒だって、耐えられそうにない」
「……」
仮定に仮定を重ねた「もしも」の話。
「もし殺されたら、相手を殺して俺も死ぬ」
それは何曜日のサスペンスの影響だろう。
この男、想像とはいえ、私を殺しやがった。
「まぁ、好きにすれば?」
所詮は想像だ。
少しくらい、空想遊びに付き合うのも悪くない。
「私はあんたが死んでも、しぶとく生きるけどね」
そう言ってやれば、あからさまに不満げな顔をされた。
「そこは、私もーって同意するところじゃないのかよ」
「ないねぇ」
口角を上げて笑って見せれば、不満げな顔が不機嫌な顔に昇格する。
「あんたの葬儀をしっかりやったら、6か月後に新しい恋人を作るわ。行った事無い所に行って、食べたことのないもの食べて、やったことのないことをやり倒して、人生を謳歌して、沢山の孫に囲まれて死ぬの」
「俺が死んでからの方が楽しそうじゃねーか」
言われてみればそうかもしれない。
けれど、それくらいは必要でしょう。
あなたのいない未来を生きるには。
あなたを忘れられるように。
飽くほどの楽しみがなければ。
「そうね。あの世があったら、そこで指咥えて見てなさい。あんたが悔しがるくらい楽しんでやるわ。あんたにはできない皺とかシミも自慢の種にしてやるの」
「うわ。それがうらやましーって悔しがる俺の姿が見える…!っていうか、新しい恋人作っちまったら、俺が間男…?」
「あ、そうなるのか」
「なるんだ!?」
驚いた顔をして、困った顔をして。
コロコロと変わる表情はずっと見ていても飽きないものだ。
「嫌だったら、せいぜい長生きすることね」
あの世も来世も、あるか無いかわからないそんな不確かなものに、委ねるものなど何もない。
「あの世まで追っかけて来られると迷惑だから、私もしぶとく生きてあげる」
笑ってやれば、嬉しそうに笑い返された。
私が死ねば、あなたは泣いて。
きっと本当に、何もかもを捨ててしまうのでしょう。
死なないで、なんて言葉、あなたには残酷で言えやしないから。
せいぜい私は頑張って、あなたより一秒でも長生きするわ。
「二人で百歳超えたりして」
「そこまであんたと一緒にいたら、さすがに飽きそう」
空想遊びをどうせするのなら。
片方のいない世界より、二人のいる世界を想った方がずっと幸せだ。
ねぇ、だから、そんな悲しい事ばかり話さないで。
今を、いきましょう。