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脇役の仕事

開いていただいてありがとうございます。



執事とは何か?



レイルは自分がこの先目指す職業について、その根本を考えてみた。

よく、仕事に就く理由が「給料が多いから」とか「箔がつくから」とか、あるいは「これになるしかなかった」という人を、前世で何度か聞いたことがある。

人は誰しも、なるべく得をする方を選ぶ。

その後の人生のことを考え、どちらが得かを目ざとく見分け、「幸せ」を求めて選択するのだ。

その場合の「幸せ」とは何だろうか。

金だろうか、女だろうか、向上心だろうか、好奇心だろうか、野望だろうか。

いろんな目的に相対して、いろんな「幸せ」がある。

では、レイルはどんな幸せを求めているのか。


「…………」


現状三歳の子供が考えることではない。

能の回転は未だにもとの自分ほどには戻る気配もなく、理解するということにいちいち一苦労する毎日だ。

でも、彼は実際二十年も生を経験している。


経験と言うのは重要だ。

百聞は一見にしかず、という小学生でも知っている単語があるが、そんな小さい子でも知っているがゆえにとても重要だという。

聞くのと、体験するのでは、体の根幹で得る経験値が全然違うのだ。

その経験上、「これになるしかなかった」という人がいつも言っているのは「もっと前からやっておけばよかった」という言葉だ。

拙いながらも十八年間、人生と言う者を歩んで、準備の大切さを十分と言う程に知っている。

だからレイルは考える。

――自分はどんな幸せを求めているのか。


(つっても、今じゃリーナを守るくらいしかないんだよな)


先日、レイルはリーナの持つ独特の雰囲気の奥に、生きていた頃の母の空気を感じた。

その空気に感化されたのかは分からないが、彼は不意に「守る」ことを誓った。


ただ、「守る」という行為をするには、必ずしも執事にならなければならないのだろうか。

もしかしたら、もっといい「守る」ための手段があるかもしれない。


レイルの前世からの信条は「チャレンジ」と「先の先まで考える」だった。

常に最悪の場面を想定して、出来る限りそうならないように最善の手を考える。どの場面でどう動き、場面場面においての可能な限りの行動パターンを考える。

常に思考を張り巡らせて、予定外の出来事を減らす。

それが、レイルの「先の先まで考える」である。


(ボディガード……は執事と変わらんだろうし、冒険者にでもなるか? いや、そこら辺の制度はまだ知らない。第一、それだったら執事となって常に近くにいたほうが安心だろう。……つーことは、やっぱり、執事以外でリーナを守れる職業ってのはないのか。学校に通う際だって、どうなるか分からないけど、執事なら近くにいても問題はない)


そこで結局、執事になるのがベスト、という結論に帰結する。


そしたら、次に新たな疑問が浮かんだ。


それが『執事とは何か?』である。






夜の七時になろうとしている時間、グレイガとナンシー、そしてレイルの三人は、フォーレントの屋敷の一室であるハーベンス家のリビングで夕飯を取っていた。


グレイガとナンシーの仕事が終わるのはかなり遅く、いつも深夜近くであった。

しかし、今日はたまたま、フォーレント家当主であるトークの仕事が早く片付いたため、こうして家族三人で食事にありつけたわけである。


レイルは不器用にナイフとフォークを駆使して、眼の前にあるお肉を切り取る。始めは真っ直ぐに切れるかと、期待したが現実は厳しく、途中からどんどん曲がっていってしまい、三角形のお肉が出来上がってしまった。


「はっはっは、レイルにはまだ難しいかもなぁ」

「うふふ、そうね。でも、いつかちゃんとできるようになるから、頑張りなさい」


レイルは「はい」と答え、次に取り掛かる。

それを二人は微笑ましそうに、笑顔で眺めていた。

二人とも、久しぶりの三人での夕食に機嫌がかなりいいようだ。


レイルは次も失敗して三角形になってしまったお肉をフォークで丁寧に差し込んで口に持って行く。

もぎゅもぎゅ、と噛み砕くごとに甘いソースが口の中に広がり、ついついレイルの顔を笑顔にしてしまう。柔らかい肉をしっかりと噛んでから咀嚼。満足が残るこの感じが、おいしいモノを食べていると実感させる。


その余韻に浸りながら、次のお肉に行こうとして、レイルは手を止めた。


「おとうしゃま、しつじってなんでしゅか?」


いきなりの質問にグレイガは、驚いた様な顔をするが、すぐに笑顔に変える。


「レイルは執事になりたいのか?」


そう言われて、レイルは「うん」と首肯をする。


そんなレイルを見るなり、グレイガはうれしそうに顔をくしゃめた。


「そうかそうかそうか! 執事になりたいのかぁ」

「ふふふっ、レイルはお父さんみたいになりたいの?」

「はい」


実際、グレイガの仕事の様子なんて、あまり見る機会がないからどんなのかは分からないけど、そう言っといた方が都合よく感じるし、変な説明をしなくていいので、レイルは頷いた。


「そうだなぁ、執事ってのは……脇役だな」

(……は?)


グレイガは品良く整えられたあごひげをなぞりながら、本職の者とはあるまじき言葉を発した。

レイルはポカンとした顔でグレイガを見る。


「あなた、それはいくらなんでも……」

「ナンシー、いくら三歳だと言っても、俺はレイルに嘘をつく気にはならない。確かに夢を壊してしまうかもしれないけど、それでも、本当の『執事』ってのを受け入れて、執事になってほしいんだ」

「……あなたがそう言うなら、いいけど」


ナンシーは諦めたようにグレイガを見てから、心配そうにレイルを見る。


「いいかレイル、執事ってのは、絵本に出てくる勇者様みたいに日に誰からも愛されるような仕事じゃないんだ。常に、主という『光』を一層輝かせるために『闇』となる。主が舞台の主役ならば、執事は脇役――いや、照明だ。常にいない者として扱われ、それでも主のために、駆けまわる。それが執事だ」


グレイガ一気にそう言い終わってから、近くにある水でのどを潤す。

それからレイルの頭に手を乗せて優しくなでた。


「まあ、まだレイルには早いかもしれないが、これだけは分かってくれ。執事は確かに目立たないが、それでも俺は、旦那様のもとで執事が出来ることを、心の底から誇りに思っている」

「あなた……」

「だからな、お前もそう思えるような主を見つけるんだ。……それがリーナ様と言うのが一番いいんだがな」


最後に苦笑いをして、レイルの頭から手を放した。


二人がレイルの口が開くのを待っている間、レイルは頭の中で思考を巡らせている。


(主が光とすれば執事は闇、主を主役だとすれば執事は脇役や照明。……はははっ!)


レイルは胸の中で笑った。


(そんなの―――俺にピッタリじゃないか!)


「おとうしゃま、ぼくきめました」


レイルは小さく息を吸って、言った。


「ぼく、しつじになりましゅ!」


次から、この世界の魔法について書こうかと思います。

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