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生まれて二時間後に決まってしまった。

一話目です! 







目が覚めたら知らない天井が見えた。

 何ていうどこかで聞いた様な台詞を口に出そうとして、彼は詰まった。


「……っ! ……っ!」

 

声が出ない。

 今まで当たり前のように出していた声が出なかったのだ。


(どういうことだ!?)


 彼は焦りに心を任せ、がむしゃらに声帯を響かせようと息を吐きだした。

 徐々に温まってきたのど元は、やがて彼に以前の、いつも普通に話していた感覚を彷彿させてくる。


(後もう少し……っ!)

 

うっうっうっ、とのどからわずかながらに音を発し、彼は最後の一息、と言わんばかりに声帯を鳴らした。


「オ、オ、オギャアアアアアアア!」


(や、やっと声が出た……ん?)

 

と、思ったところで耳に響いてきた自分の言葉を脳内で再生した。

 

オギャア。

 

……オギャア?


(どういうことだ?)

 

疑問に思いながらもう一度声を上げる。


「オギャアアアッ! オギャアアアッ!」


(……おいおい、何だよ、この母性本能をくすぐるような声は!?)

 

自分が出している泣き声に混乱する。

 そんな彼に追い打ちを掛けるように彼の頭上から高く透き通った声がした。


「あらあら、やっと泣いてくれたわねぇ?」


 声に合わせて上を向こうとした、が、首が短いためそこまで動かすことが出来なかった。

 仕方ないので眼球を一杯に動かして、声を発した人物を捉えた。

 スカイブルーのような蒼い髪に、パッチリとした目元、その中で彼を優しく包み込むように見つめている、髪同じ蒼い瞳。それらを際立てんとばかりにほっそりとした輪郭。彼が今まで見てきた中で、確実にトップスリーに入るレベルの美人であった。


「お~よしよし。ママですよ~」


(え!? ママ!?)

 

心の底では驚いている彼を横目に、女性は「よちよちね~」と笑みを浮かべながら、彼の体を揺りかごに乗せた様に動かす。

どうやらこの女性が彼を抱いているようだ。


「ナンシー! 俺にも抱かせてくれよ!」


 女性の隣に立っていた男性が声を上げた。

 急に出てきた男にびっくりした彼は、誰だお前は!? とつい口が開いてしまい――


「オギャアアアアアアっ! オギャアアアアアっ!」


 つんざくような泣き声を轟かせてしまった。


「ほら、アナタ。急に大声を出すからこの子が驚いちゃったじゃない」


 と、ナンシーと呼ばれた女性は「よちよちね~」と彼をなだめた。

 男は「むう」とうなだている。


「もう、落ち込まないでよ……、ほら、この渋い人がパパですよ~」


 ナンシーはそう言いながら、男の顔の位置まで彼を持ち上げる。

 オールバックで決めている茶髪に、慈愛のこもった茶色の瞳の、ほりの深い顔立ち。顎下に伸ばしている髭は、中世の英国紳士を彷彿させる。ナンシーは渋いと言っているが、決してそんなことはなく、むしろ品性がにじみ出るように整った顔立ちをしていた。

 そんな整った顔をくしゃめて、男は目の前に来た彼に、


「パ、パパですよ~」


 と、緊張したようにハスキーボイスを、無理やりアルトまで上げたような変に高い声で彼の頬をプ二プ二と触った。


(く、くすぐったい……)


 頬に伝わる触感に耐え切れず、指から逃げようとする。

 そんな様子に男は心を打たれたようで、


「ナンシー! こいつはかわい過ぎるぞ!」


 と、興奮気味に叫ぶ。

 ナンシーは呆れながらも、幸せそうに笑いながら言った。


「当たり前よ。なんてったって、私とあなたの子のなのよ?」


 その言葉に、彼はようやく頭が冷え、理解を速めた。


(……これが『君は神代連ではなく全く違う人間として新たな命を得る』ってことかよ。あの野郎……俺に有無を言わさずに実行しやがって)


 何の説明もなく、あなたは転生できます、からいきなり飛ばしたあの神の見習いに対して、若干むかつく気持ちもあったが、なにはともあれもう一度生きる機会をくれたことで、彼は怒りを霧散した。


(異世界……か。どこがどう違うかまだ分かないが、とりあえず幸せそうな家庭に生れてきたみたいだな)


 目の前の幸せそうに笑っている夫婦を見て、彼はそう思った。






「オギャアアアアアアっ! オギャアアアアアっ!」


 しばらく両親に顔で遊ばれていると、遠くの部屋から大きな泣き声が聞こえた。


「どうやらミーシャ様も無事に済んだみたいね」

「ああ、そうだな」


 泣き声を聞いて、二人はホッとしたように顔を見合う。


(……知り合いなのか? いや、それにしても『様』付けってことは――)


「じゃあ行ってくる、ナンシー」

「ええ、アナタ」


 ナンシーから男のかごの中に渡り、彼は男と一緒に部屋を出た。

 部屋から出て彼が真っ先に脳裏に浮かんだのは中世ヨーロッパのお屋敷だ。よくドラマとかでも扱われるような、西洋のレトロちっくな建物。

 内装はそれこそゴミ一つなく、廊下を全て覆う赤い絨毯。置物はどれも歴史を感じさせる紋様の美しいモノばかりだ。きっと高価なものなのだろう。壁の絵もまた然りだ。

 廊下をしばらく真っすぐに歩いて行くと、行き止まりのように立ちふさがる扉がある。

 男が扉を「グレイガです」とノックした。

中から男の声で「入れ」と許可が出たので、二人はその扉を開けて中に入った。


「失礼します」

「おお、グレイガ。見るに、お前たちも無事に済んだみたいだな?」


 かっぷくのいい男性が、彼に視線を送りながら二人に近づいてくる。


「はい、旦那様のお陰でございます」


 先ほどまで生まれてきた息子デレデレの表情を見せていたの誰だろうか?と疑いたくなるくらいに礼儀正しく、キリッとした姿勢の男が彼の目の前にいた。


「いや、さすがにナンシーの方が君にとっては大事なはずだ。これは当然のことだよ」

「いえ、旦那様のお心遣い感謝していますので」

「むうう、君は堅苦しいな。……ところで、その子の名前は何と言うのだ?」


 照れくさいのだろうか、そっぽを向きながら話題を変えるかっぷくのいい男性。


(そういえば俺もまだ知らないな)


「この子の名はレイルでございます」

「ほお、レイルか。いい名だ」

「ありがとうございます」

「さて、せっかく来てくれたんだ、うちの新しい家族を見て行ってくれ。特にレイルにはとても大事なことだしな」

(大事なこと? 何だ一体?)

「かしこまりました」


 男性の後ろに、彼ことレイルとグレイガの三人はベッドまでついて行った。


「ミーシャ、グレイガと二人の子のレイルだ」

「奥さま、ご出産おめでとうございます」


 グレイガは丁寧に軽く頭を下げる。

 ベッドの上に座っているミーシャと呼ばれる女性は、少し弱弱しさを醸し出しながらも、笑顔で答えてくれた。


「グレイガ、あなた達もおめでとう。レイル君、初めまして」


 赤ん坊のレイルの頬をツンツンと突ついている。


(なんでみんな俺の頬を触るんだろうか?)


赤ん坊の頬にはとんでもない魅力があることを知らないレイルはくすぐったくて仕方がなかった。


「グレイガ」


 男性に呼ばれてグレイガ振り向く。

 それによってレイルの視界も一回転した。


「この子がうちの新しい家族のリーナだ」


 その赤ん坊は黒髪の女の子だった。


「初めまして、リーナ様」


 グレイガは目の前の赤ん坊にお辞儀をする。

 赤ん坊にお辞儀をするいい年の大人とは、はたから見ればかなりおかしな絵図に見えるはずだ。それなのにも、頭を下げる……。今までの応対とこれで、レイルは自分の父親の立ち位置を把握した。


(この家の使用人ってところか。でも、地位はそんなに下じゃない。少なくとも雑用のレベルの気品ではない。もっと上の……使用人で上ってなんだ?)


「ほらレイル、この方がリーナ様だ」


 と言って、レイルをリーナに近づける。


(……いや、何をしろと?)


 赤ん坊のレイルに何を求めているのだろうか、とグレイガの神経を疑いたくなったレイル。

 そんなレイルの気なんて知る由もなく、グレイガは先ほどの使用人モードと始めに見せた親ばかモードを混ぜたような、そんな顔つきで話しだした。


「いいか、レイル。この方はな、これからお前が命を掛けてお守りする方だぞ」


(は?)


「お前、リーナ様の盾となり、矛となるんだ」


(え、ちょっと、確定事項?)


「……お前は、リーナ様の執事になるんだ」


 異世界に転生してきた旧『神代連』こと、レイルは、生まれてわずか二時間ほどで、職業が決定した。


三人称難しいですね。

精進していきます。

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