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女神の日々  作者: 漓雨
6/6

-5・熱でもあるんですか?-

 -5-


 行動してみることにした私でしたが、早速行き詰まってしまいました。と、いうのも、部屋から出る方法がわからないのです。

 天界というと、私はどことなく開放的で、扉なんてそんなに無さそうなイメージを持っていました。ですが、どうやら実際の天界は、私が想像していたものとは大きく違っているようです。

 なんて言いますか、近未来じみた世界…とでも言えばいいでしょうか。人間界ではあり得ない技術をつかったようなものが多く見受けられます。この部屋から出たことのない私ですが、この部屋にいるだけでもそのことだけは分かります。その最たる理由は、私が先程まで横たわっていたベッドが何の支えもなく浮き上がっている事もありますが、何より、先程、羅刹女さんや毘沙門天さんが出入りしていたはずの扉が影も形もなく部屋の壁と同化してしまっているからに他なりません。壁沿いに伝ってみても継目すら見当たらず、ガラスのようなつるつるとした不思議な壁にはスイッチのようなものすら見当たりません。…いくらもともとこちらの住人だったらしいとは言っても、私には以前の記憶が欠片も残っていないのですから、天界のことが全くわからないのです。

 困りました。このままでは、誰かがこの部屋に来て下さるまで部屋の外に出ることは叶わないようです。

 誰でもいいので、早くここに来てください。心の底から私はそう思いました。



 ◇◇◇



 どうしようもないので、しばらく部屋の中心部にあったソファーと思わしき不思議な素材のものに座って部屋を観察していると、シュッと部屋の扉が開いた音がしました。どうやらやっとどなたか来て下さったようです。

 音のした方に顔を向けると、そこにいたのは帰られたと聞いていた毘沙門天さんでした。

 まさか、毘沙門天さんがいらっしゃるなんて思いもしていなかったので、ちょっと戸惑います。一体なんの御用でしょうか。


「…先程は、気が付いたばかりだというのに、驚かせるような事を言って済まなかった。身体は大丈夫なのか?」


 私の前までいらっしゃった毘沙門天さんは、先程の挑戦的な態度が嘘のように静かに頭を下げられました。


「あ、あの、顔を上げてください。色々と驚く事は多かったですが、謝ってもらうような事はありません。…お時間に余裕がありましたら、少しお話したいのですが」


 慌てて顔を上げてもらい、そう提案してみました。姉に会いに行くにはどうすればいいのか聞きたいのもありましたし、彼本人に聞いてみたい事もありました。

 どうでしょうかと、彼の顔をじっと見上げていると、何故か少し顔を紅くして目を背けつつ、了承して下さいました。…私、何かしてしまったでしょうか。先程よりも声が硬くどことなく不機嫌なように感じられるのですが。


 とりあえず、毘沙門天さんに私の座っているソファーとはテーブル(のような中に浮いている丸いガラス?)を挟んで向かいにあるソファーを勧めて、座っていただきました。


 それから、しばらくは当たり障りのない話をしました。体調についてとか、天界についての羅刹女さんから聞いていなかったこと、この部屋のこと。扉のスイッチは人間界でいうところのタッチパネルのようになっていて、決められているリズムで壁をタッチすることで扉が開くのだそうです。実際教えた通りにやってみると、扉が開くというよりも、壁が口を開けたような感じだと思いました。この壁、一体どうなっているんでしょうか。

 彼と話をするのに慣れてきたのを感じて、思い切って姉と一度会いたいと相談してみると、彼は特に考えた様子も見せず、私の願いを了承して下さいました。もっと色々問題があったりするかもと思っていただけに、あまりにもあっさりと了承されて驚いてしまいました。

 素直に思ったことを話すと、彼は苦笑しながら言いました。


「別に大したことじゃない。人間界に忍んで降りる神は結構多いんだ。確かに本来なら、お前はまだ人間界に降りられる年齢ではないが、…お前は特別だからな。別に問題はないだろう。まぁ、この辺のことはおいおい話していくことにしよう。ただ、私も共に降りることになると思うが、そこは了承してもらいたい」


 毘沙門天さんは落ち着いていて、話していると何となく懐かしさを感じました。最初対面した時は何故か挑戦的な態度を向けられた気がしたのでちょっといい気はしなかったのですが、こうしていると、意外と良い人だと思います。

 もちろん、一緒に降りることに異論なんかあるわけもなく、むしろ毘沙門天さんが一緒だということに安心感すら憶えました。


「もちろんです。よろしくお願いします」


 嬉しさに顔を緩めた私を見た毘沙門天さんは、何故かやっぱり顔を背けてしまわれたのでした。先程も顔を紅くしていらっしゃったので、熱があるのではないか心配になってしまいます。

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